表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/129

70. 新たなる住人

 

 ヒ・イズル国。大陸の大森林である通称『罪深き帰らずの森』その奥に聳える山脈は頑なに人を拒む。そんな人の立ち入らない場所に国を構えた俺、桧山祐紀経は困っていた。


 海辺は開発出来ないし最近ペットがやたら自己主張してくる。お陰でロリ疑惑がやや広まっていた。ドラゴンの存在は秘密なのである。ドラゴンが身近に暮らしているなんてそれこそパニックだ。テオは一部の人間に正体がばれてはいるものの、精霊と同様に神聖視されているので、許容されているのだ。


 カミルの存在は身寄りのない良いとこのお嬢様、と思われている。着ている服は上質だし、仕草もお嬢様っぽい。俺の回りは訳ありの人が集まっているので誰も深く突っ込まない。


「ユキツネ、海辺に住む者に会って来たぞ」


「なに、本当か」


「ああ、引っ越せば安全に暮らせるかもと誘ったら、乗り気だったぞ」


 それは朗報である。魚を主食にしている人なのだろうか。海辺にこだわりを持っているんだな。住んでくれれば開拓も進む。カミルの話では貧しい暮らしをしているのだが、海は食料が豊富だ。贅沢はせずとも生きていける。


 一度領地を見てもらうため招待したら良いとカミルが言うので、迎え入れる準備をする。ちっこいオッサンの建てた家に泊まれる準備をした。彼等の村は遠いのでテオにひとっ走りしてもらい、一番近い場所で馬車を手配した。彼等の村からは若者五名がやって来るみたいだ。


 そうして三週間程度たった頃、馬車が来ると知らせがあった。カミルが上空から時々様子を見ていたのだ。万全に体制で出迎える。暇人であるエレノアも海辺に来ていた。


「それにしても本当に物好きよね。エルフの仲間にも海は危険だって話は伝わっているわ。海辺を好む人だなんて」


「あんまり失礼な物言いをするなよ。これから同じ国民としてやっていくかもしれないから」


「そうね、あ馬車が来たみたいよ」


 エレノアの長い耳は馬車の音を捉えたみたいだ。エルフは人族より少しだけ耳がいい。馬車が建物の前に到着した。バシッと扉を開けて降りて来た人影を見て ━━━━━ 俺とエレノアは固まった。


「ここが新しい住居の候補なの?」


「なんもねえな」


「ほえー、ずいぶん開けた場所だな。ちょいと不安だな」


 二十歳前後の若者。それはあらかじめ聞いてはいたが、彼らの容姿の大半は想定外の姿をしている。今まで見た中で一番特徴的な耳をしていた。


「あらー、こんにちは。あなたがここの責任者かしら」


 ショートカットの女性が話しかけてくる。その髪色は今まで見た事もない、光輝く水色。


「あ、お、俺はユキツネだ。人、です」


 人魚???いや違う。足は二本足で ………… 魚人か。


「あっはー、私達みたいなのは初めてよね。魚人族はあんまり陸の人と関わらないのよ。生活が合わないからね」


「ああ、だが今回は村を作ってくれると聞いたのだが、あまり期待出来そうにないな」


 こっちの男は真っ赤な髪だが水色よりは馴染みがある。なんとなくリーダーっぽい男だ。


「こんにちは、私はエルフのエレノアよ。魚人族は初めて知ったわ」


「こんにちは私はララ。私達は陸の人とは普段は交流ないからね。メリットが少ないもの」


「お、おお。取り敢えずご馳走を用意したから建物の中に入ってくれ」


 俺はどぎまぎしつつも彼等を迎え入れる。エルフとドワーフ、獣人までは想定内だが、魚人までいるとは。恐るべし異世界。食べなれているであろう海鮮を中心に用意した。テオとカミルもいるので肉料理も並ぶ。


「わあ、見たことない料理が一杯だ」


「お、おいら都会のメシが食えるなんて思わなかった」


「いい匂いね」


 それぞれが感想を述べる。パエリアやフライにしたもの、香草たっぷりで煮込んだもの、シーフードピザ。思い付くメニューを作った。食堂のおばちゃんにも手伝ってもらった。普段は煮るか焼くかで食べていて、シンプルな味付けらしかった。生でも魚を食べるみたいだ。


「生で食べられる魚があるのか?」


「人族は止めといた方がいいぞ。体の造りが違うからな」


 生食出来ると思ったが魚人は人間と違うらしい。彼等が海辺にこだわるのも、その皮膚が乾きすぎると身動き出来なくなるからだ。水がないと生きていけない民族だった。


「しかしここは身を隠す場所がないな。魔物に襲われ放題だぞ」


 リーダーらしき男、ナイルが不安げに呟く。


「それなら心配いらない。定住してくれれば俺の精霊がしっかり壁を作ってくれる」


「なに!精霊だと!!あんたは精霊と心を通わせているのか」


 魚人族の間でも精霊はえらい存在らしい。時には善き友、時には滅びを招く使者。精霊の機嫌を損ねて滅びた話はこっちの大陸にもあるみたいだ。精霊つきと聞いて乗り気になったようだ。

 彼等は現在断崖絶壁に住んでいて、縄ばしごで行き来している。厳しい生活で年寄りにはきつい暮らしだ。安全に暮らせるのならばここみたいに開けた土地に移りたいとのこと。


「しかしあのお嬢ちゃん、よく村まで来たわよね。時々ふらりと現れるのよ」


 ドラゴンだからふらっと飛んで行くのだろう。カミルは意外に行動範囲が広いな。大陸を軽々越えるとは。彼等は先ずは数名お試しに移り住むと言ってくれた。だが人族と上手くやっていけるかは不安とのこと。


 西の大陸は人種差別は少ないとはいえ、無いわけではない。魚人が人族と関わらないのは過去のいざこざがあったからだ。しかしここは飛び地で希望者も居ないので、今のところ魚人族しか住まない予定だ。気に入らなければ元の場所に戻ればいいと、話が纏まった。


 そのまま一泊してもらい、皆が寝静まった真夜中にちっこいオッサンが現れて踊り、歌う。魚人族がこっそり窓から眺めているらしいが、こっそり見る分には邪魔に成らないので良いそうだ。ちっこいオッサンにも色々こだわりがある。


 夜が明ける頃には魚人の住む家と海岸の一部を囲む砦が作られた。魚人の家は丸い形なんだな。可愛らしい家が並んだ。朝になって目覚めた魚人は感激していた。目が覚めたら魚人の伝統的な家が並んでいたから。

 早めに引っ越したいって事で、村から行き来するための旅費を渡しておいた。人と普段関わらない彼等はお金を持っていなかったので。


 ようやく海辺に人が住む事になり、ほっとするのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ