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7.これがこの世界の現実なのか

 

 翌朝。目を覚ました俺は即座に畑に向かった。皆もお腹を空かせているだろう。昨日の野菜は置いてきたが、流石にあの人数を賄えない。

 エルフの人数は子供四人、女八人、男が十五人。野菜とミカン、リンゴに柿も加える。ついでにトマト、キュウリ、レタスも持っていくか。


 やっぱり肉が食いたい。


「こんにちは」


 扉をノックして建物に入ると、ジルフィンが出迎える。


「ユキツネ、よく来てくれた」


 早くも全員の視線が俺の荷物に集まる。取り敢えずミカンとリンゴを配ると皆ご満悦だ。柿は皮を剥いて食べてくれと渡す。

 トマト、キュウリ、レタスでサラダを作った。仕上げにマヨネーズをたっぷりかけた。


 コンソメの元でスープを作り、サラダと共に食べて貰う。せめてパンが欲しい所だが。


「うまっ!ユキツネうまいよ。この野菜にかかったソースもうまい」


 昨日真っ先にリンゴにかぶり付いた女の子、ノルンちゃんがコメントする。


「もうこの子ったら。ごめんなさいユキツネさん、妹が行儀悪くて」


 ノルンちゃんの姉、エイラさんが謝る。どうやら年の離れた姉妹らしい。ひとしきり食事をした後、ジルフィンさんが二人で話をしたいと言うので、別の部屋に入った。


「昨日も言ったが先ずは我々を受け入れてくれて有り難うユキツネ」


「あ、いや。困った時はお互い様でしょ」


「見てのとおり我々はエルフだ。人族の中には我々を快く思わない連中もいる。それなのに貴方は手厚くもてなしてくれた」


 その人族に追われてここへたどり着いたのだから、複雑な気分である。


「ところでユキツネ、貴方はここの管理を任されているのだろうか。我等がいることで主に叱られたりしないのだろうか」


 うん、管理人だと思われているよね。


「実はここは俺の土地なんだ」


 精霊に連れられてここまできた事を伝えた。するとジルフィンはとても驚いていた。


「何と貴方は精霊に慕われているのか」


 慕われていると言う程、長い付き合いでは無い。どちらかといえば爺さんが慕われていて、たまたま家を継いでくれそうな俺に白羽の矢が立っただけだ。

 爺さんは何としても十人もいる精霊を守りたかったんだろう。爺さんが亡くなった後は完全に行き場を失ってしまう運命だったのだ。孫たちを調べて丁度田舎暮らしをしたいと思っていた俺を見つけた。


「それならば是非ともお願いがある。この囲いの隅っこでいい。暫く住まわせて欲しい」


「それなら隅っこと言わず、この建物に住めばいい」


 只今人口ゼロ人のゴーストタウンである。何なら幾らでも拡張出来る。


「我が儘を言うようで済まないのだが、どうも街暮らしは落ち着かない。なるべく迷惑を掛けないようにする」


 そう言われれば仕方がない。今暫くはこの建物に居るが、怪我人等が落ち着いたら別の場所で暮らしたいそうだ。

 その夜、精霊のオッサン達に相談してみた。


『主殿、エルフは森に住まう種族じゃ。それにここには人族がやって来るやも知れん』

『そうじゃな。そうなるとどうしても落ち着かんじゃろ』


 俺としてはやっと出来た隣人に是非とも居着いて貰いたいのだが。


『主殿、我に提案があります』


「ん?」


 翌日。裏庭の畑の一部を城の裏に移した。いちいち屋上まで取りに行かなくてもすむように。 エルフに野菜を届けると、鶏肉をくれた。これくらいしか出来ないと申し訳無さそうに。俺としては大喜びである。久々の肉が食える。


 鶏肉を冷蔵庫に仕舞った後、出かける事にした。とはいっても危険な森を散歩する訳では無い。城から一直線に真っ直ぐ歩いて行くと、森の木がメリメリと凄い音を立てて倒れて行く。

 それが両脇に丸太の柵になり、道が出来る。ただひたすら歩く。真っ直ぐ…… 二時間も歩けばすっかり疲れてしまった。


「この辺で良くないか?」


『主殿は体力が無いのう。もう少し頑張れ』


 重い足を引きずりながら更に歩いた。


『うむ、この辺でエエかのう』


 俺がへばって座り込むと、そこを中心に大きな円を描いた柵が出来る。更にその中に大量に積まれた丸太が組上がっていった。

 一番奥の中央に大きな建物、それとその周辺にログハウス。そのまま生えていた木を生かしたツリーハウスもある。


 四方には物見櫓も作られた。ここは─── エルフ村である。

 彼等が快適に暮らせる、自然と調和した村が出来た。


『我ながら良い出来映えじゃ』

『山田の爺さん所のログハウスを参考に作ったからのう』


 山田の爺さんは知らんが、全部が高床式の立派な小屋が出来上がった。途中の道に門を二つ程作って、簡単に街から侵入出来ない様にする。これなら安心して暮らせるだろう。本音を言えばもっとご近所に住んで欲しいものだ。

 重い足取りで来た道を帰っていった。広場に着くと噴水で子供達が服のまま水浴びをしていた。


「あっ、ユキツネ~」

「お帰り。どこ行ってたの」


 昨日の悲壮な感じはなく、明るい顔の子供達。


「一人足りないな」


 子供は四人いたが。遊んでいるのは三人だけだった。


「うん、ユアラちゃんはねー」

「家族が居なくなっちゃったの」


 とたんに子供達は暗い顔になった。ここにたどり着く迄にどうやら数人の仲間が犠牲になったのだ。皆辛い思いをしてたどり着いたらしい。やりきれない気持ちになった。



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