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69. 海と港とドラゴンと

 

 海へ土地を作ったので海に住む住人を確保したい。現在人が住んでいないので精霊はこれ以上手を加えられないからだ。だが海に住みたい住人を募ったが、大分難しい案件だった。

 海の生き物は危険である。だから海に面する国は少なめなのだ。


 この前みたくクラーケンの子供みたいのが陸地に上がってきて、襲われれば普通の人はたちうち出来ない。海を見たことが無い人が大半で、恐ろしい生き物が沸いて出る土地に移住したい希望者が現れない。


 海辺の土地を拡張する計画は難航していた。海辺の町とはどんなものだろう。リンドガルディア経由であちこち行けるようになったので、港町を見てみたい。テオとカミルを伴い小さな港町を視察する事にした。


「カミルも来るんだ?」


「私はユキツネのペットだからな。愛しい者は常に連れて歩くがいい」


 俺は特にカミルを可愛がった覚えがないが、カミルはペットという立場に満足しているみたいだ。ドラゴンは誇り高い生き物ではないのか。

 まあそんな訳で港町ダルボにやって来た。ドルモア国の飛び地でそこそこ栄えた町だ。港は岩場が多く大きい魔物が入り込まないので町を作れたんだ。俺が選んだ場所も少し岩場が多いが、入り込む隙がある。


 港町は活気で溢れていた。海の幸はかなり評判が良く、近隣の国も鮮魚を求めてやって来る。見たこともない珍しい魚が並ぶ。長いのやら目がでかいもの、赤、青、黄色の派手な縞模様の魚も食用なのか。


 ここは港町らしく大きな船がある。船は切り立った崖から鎖で吊るされており、鎖でぶら下げて下ろすみたいだ。陸地に近付けないからそうしないと船が出せないのだな。


「お兄さん、魚はいるかい?」


 やや小柄な人物が話しかけてきた。頭には三角の耳そしてその顔は。


「うおっ、モフモフ?!」


 大きな瞳にふさふさの髭面もとい顔中けだらけだ。これはエンジュよりも更に獣人らしい獣人だ。半獣と呼んだ方が分かりやすい。獣っぽさが増している。


「兄さん他所から来たのかい、おいらの様な姿は初めてか」


「す、済まん。別に差別している訳じゃないんだ」


「ああ、兄さんのお連れも人外の匂いがするね。おいらは普通の獣人よりも鼻が効くのさ」


 バンダナで耳を隠したテオと、カミルも人族ではないとばれているみたいだ。最もドラゴンが居るとは思うまい。この国の岩場で貝や小魚を捕って生計をたてているらしい。余所者は勝手に漁をしたら駄目なんだって。特にいらないけどお愛想で貝を買ってやった。


 あちこちの屋台でいい匂いをさせているが、折角なので食堂を目指す。一軒の店に目星をつけ入ってみた。いらっしゃいと切符のいいお姉さんの声。いつもの如く文字が読めないのでお勧めを頼む。


「あいよ、お待ち」


 大きめの皿に魚が並ぶ。三種類程で食べ比べ出来るみたいだ。平べったいパンと薄いスープも付いている。貝に塩味をつけてくず野菜を浮かべたスープだ。俺とテオは同じメニュー。

 カミルには少し控えめなサイズの焼き魚だ。シンプルだが魚の味に間違いはない。美味しくいただいた。


 再び町に出て聞き込みを開始する。そこいらで遊んでいた少年に声をかけ聞いてみた。


「ここの町はどうやって魔物から身を守っているんだ?」


「そりゃあこの海岸は険しいから海から大きいものは入って来ないさ。陸地の魔物も海の生き物を恐れているしな。海岸には大物の接近を知らせる警報の魔道具がいっぱい設置されているんだ」


 少年は得意げに説明すると、手のひらを差し出す。握手かと思い握ろうとすればパシッと払われる。


「ユキツネ、お駄賃だ。銅貨を何枚かやれ」


 こっそりカミルが教えてくれた。何かしらの情報にはそれなりの礼をするのは常識らしい。五枚程くれてやると満足げに走っていった。カミルは一枚二枚で十分だとぼやくが別にいいだろう。

 その後も数人に話を聞いた。誰もいない海岸を開発するのはかなり難しいようだ。


 海鮮が楽しめるようになったのを喜ぶしかないか。


「ユキツネは海辺に住む人が欲しいのだな。海辺を好む民族に心当たりは無くもないが ……… わざわざ引っ越すかは解らん 」


 カミルが意外な事を口にする。海辺を好むとはこっちの世界ではかなりの物好きではないか。港町はかなりの設備を整えて開発されたみたいだが、海を好むとは。しかしここからは距離があるので会うのは難しそうだ。カミルにぶら下げられるのもこりごりだ。


 カミルが折を見て彼等に移住の話をしてみると言ってくれるので、その件は任せる事にした。どうせダメ元だし。特に収穫もなく城に帰る。


 カミルが珍しく俺の家に来たいと申し出る。何かと思えば。


「ユキツネ、今日は私をモフモフするのだ!」


 いや、するのだ言われても。


「私がペットなのに居候のテオばかり可愛がって。私はもっと愛されるべきだぞ」


 カミルはドラゴンに変化し巨体をさらす。


『さあさあどっからでもかかって来い』


 頭から背中に生える鬣、固くて丈夫そうな鱗。そこいらの剣では傷ひとつつかない代物だそうな。爬虫類のお手入れ。

 少し悩んで物置小屋から巻き取り式のホースとデッキブラシを持ってきた。


『ユキツネそれはなんだ?テオみたくするのではないのか』


 ホースは物置小屋の横の蛇口に繋いである。裏の畑がある方に連れていき、水を出した。シャワー型の先端から水を出した。


『ユキツネ?』


 ブシュー、と勢い良く水をかける。全身に水をかけたらブラシでこすってやる。上から下に。鱗に逆らわず磨く。


『え、お、思っていたのと違う。でも、良いかも』


 ごしごし擦れば意外に汚れていたみたいだ。家にあった犬用シャンプーをかけて洗う。仕上げにシャワーをかければ艶々のドラゴンが現れた。


『スッキリした。これはいいな』


 聞けばこのドラゴン、一度も洗った事が無いんだとか。爬虫類は風呂に入らないもんな。人間の姿では入った事もあるみたいだけど。これからもたまにして欲しいとせがまれるが、気分は車を洗う休日のお父さんである。


 庭に面した方に回ればテオが獣の姿で尻尾を振っている。これは無言のブラッシングの要求か。ガラス戸を開けてテオを招き入れる。それを見ていたカミルが人間の姿で俺の膝に乗ってきた。


「私もー」


 人間のカミルはふわふわロングヘアーである。しかし見た目十二才前後の女の子を膝に乗せるのは絵面としてはまずい。座布団に座らせ髪を解いてやった。俺用のブラシで。


 その後も少しブラッシングの奪い合いが続き、気分的にどっと疲れた。






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