66. 王様と商人
ふう、ひどい目にあった。カミルが海まで運んでくれたのは良いが、両肩を鷲掴みにされて宙吊りだった。また海に行ってみたいが、あんな方法じゃなくて普通に行きたい。
帰りは俺が欲張ったせいで速度が遅く、やや安全飛行だった。どちらにしろ怖いけど。
しかしお陰で食材を一杯手に入れた。魚は食堂でさばいて夕食に出してもらおう。それとカミルに先に運んでもらったやつ。クラーケンと呼ばれる海のギャング。
船を襲うこともある危険な魔獣である。海では幾つもの魔物避けの道具を施すらしいが、それをものともせず襲うこともある。船旅は死と隣り合わせの危険な旅だ。
こっちでこれを食べようって奴はいない。地球でもイカを食べない国はまあまああった。この見た目の生き物を食おうと思った最初の人間はすごいよな。
そして最初に海岸で拾ったもの。庭先でホースで洗って物干しを引っ張り出して干したぜ。これがあれば少し美味しく料理出来るな。そう、昆布だ。鰹節もあれば完璧だが、流石にそこまで手作り出来ない。魚も一匹は冷蔵庫で後はおばちゃんに託した。
川魚は食べてるから調理出来るだろう。
夕食時に食堂に行くと早速魚を食べる。煮魚と焼き魚。シンプルな味でまあまあうまいな。本当は刺身で食べたいが、取れたてじゃないよく分からない魚を生ではたべられない。
エンジュがいるので声をかける。
「エンジュ、魚は美味しいか?」
「うぇ?お魚、あんまり好きじゃない」
相変わらず大量の食事を抱え込むエンジュだが、魚は取っていなかった。好き嫌いとかあったんだ。
「うちの村では魚なんて滅多に見かけなかったよ。だからお肉が一番のご馳走だったの」
そうか。エンジュの住んでいた場所は内陸で川もあんまりない場所だから、魚を食べなれていないんだ。味付けもシンプルだから川魚と違いが分からない。
まあいつもと目先の変わった料理で、食堂での評判はそこそこだった。
城を出て街を探索しよう。いつものように後ろに付いてくるテオをお供に、エレノアの店を覗く。城で採れる珍しい日本の野菜は、評判がいい。食堂でも使われているので城で働く人にはお馴染みの野菜だ。
よく見ればスパイスが結構売れている。スパイスは一般人では使い道がよく分からないので、主に商人しか買わなかったのだが、普通の人々が買い求めている。
「カレーってやつを作りたいんだ。材料を教えてくれないかい」
「でしたらこちらのガラムマサラがおすすめです。お肉や野菜を入れて煮込めばカレーになります」
「うちの主人が城で食べて、とてつもなく美味しいって言うからさ。私も食べたいんだよ」
エルフ村でスパイスを乾燥させ作られたカレーは、街では出回っていなかったが、カレーの美味しさは皆を虜にしたようだ。
「おや、ユキツネさんじゃありませんか」
不意に声を掛けられた。おっとまさかの旅の商人ダルウィンである。どこでも出没するよねこの人。
「いやあ、流石ですね。この国では珍しいスパイスが手に入るのですよ。入国が制限されていて中々来れなかったのですが、やっと来れましたよ。珍しい品ばかりで目移りしますなあ」
エレノアの店の野菜を手に考え込む様子。ヒ・イズルって入国制限していたんだ?王様はそんなの気にしてなかったぞ。どうやら新しい国に来たい人が多過ぎて、制限されているんだと。
珍しい物が一杯あって出来たばかりなのに、大都市であるヒ・イズル。商人は我先にと入国を望んでいるようだ。
「そこの者、商人の癖に無礼では有りませんか?」
おっと何やら店の奥から美人のエルフが出てきたぞ。この人見たことあるな。最初に移住してきた中の一人だ。
「おや、私は貴女にいつの間にか失礼でもしてしまったのでしょうか。店先で話し込んでいただけなのですが」
「私にではない。国王陛下に対して馴れ馴れし過ぎるのでは?一介の商人が」
「国王陛下??」
おっとヤバい。俺は一般人気分で歩いていたけど、ここでは王様だと知られているんだった。つい旅先と同じ調子で歩いていたよ。
「そこにいらっしゃるのが、我が偉大なるヒ・イズル国の建国者、ユキツネ・ヒヤマ陛下だ。商人ごときが気楽に話す相手ではない」
「はっはっは、ご冗談を。ユキツネ殿が国王陛下等と」
「笑い事では無いのよ」
「ユキツネ様は気さくだけど陛下なの」
従業員AとBも同意する。まさかって顔してるダルウィンさん。そりゃあ王様があっちこっちぷらぷらして、料理作らないよね。そして街を散策もしないだろう。そこへ別の商人が現れた。
「国王陛下お許し下さい。この者はまだヒ・イズルに来て日が浅いのです。商人組合でちゃんと話をつけますので」
ヤバい、勝手に大事になっている。
「待ってくれ、俺は偶々旅先でダルウィンさんと知り合った。ダルウィンさんとは身分とか関係ない知り合いなんだ」
「………… そうでしたか。流石にヒ・イズル国王は心が広くていらっしゃる。一商人にも気軽に話をして下さるとは」
「陛下?ユキツネ殿が」
ダルウィンさんは顔を青ざめさせ、土下座した。
「知らぬ事とはいえ今までの数々のご無礼、ご容赦下さい。まさか国王陛下ともあろうお方に下人の真似事をさせるなど、あっては成らない話です」
下人って、料理を作った事か。まあ大量に作らされたけど、俺が勝手にやったことだ。
「頭を上げてください。俺は旅先では王様ではなく、一個人としてやっていた。他所ではなんの身分も持たないユキツネとして旅をした。そんな中で知り合ったんだ。今さら身分を振りかざすつもりはない」
「ああ、有り難うございます。ユキツネ殿が普通の人ではないと感じておりましたが、よもや国王陛下とは思いもよりませんでした」
その後は店番のお姉さんやダルウィンさんの商人仲間も落ち着き、あんまりダルウィンさんを責めないように注意した。俺は権力をかざす王様にはなりたくない。
ただ王様って自覚がいまいちだけれども。




