61. 新しい生活
真っ白な光に包まれ閉じていた目を開けた。 そこは丸太で出来た小屋の中。
「ここは、どこ」
一人状況を飲み込めないエンジュ。旅先で出会った獣人の女の子だ。洞窟にいたと思ったらいつの間にやら小屋の中だ。混乱もするだろう。
「ここはエルフの村よ。ようこそ私達の国へ」
エレノアが満面の笑みを浮かべる。エンジュに驚いてもらい嬉しそうだ。
「ここは俺の国だ。エルフの秘術で転移して大陸を渡って来たんだぞ」
小屋から外へ出ると少し離れて村の集会所が見える。立派なログハウスが建ち並ぶ村だ。奥の方は後からやって来たエルフが住んでいる。ちっこいオッサンの小屋を真似て建てられたものが並んでいた。
暫く見ないうちにエルフの村も立派になったもんだ。最初は俺の城と変わらないくらいの敷地だったのに。
「あっ、ユキツネだー。帰って来たの?」
「ああ、ただいま」
村のチビッ子ノルンちゃんだ。見知らぬ子数人もいる。少し警戒されているようなので早く村を出よう。
「うぇええ!?すっごい、別の場所に一瞬で!」
エンジュも混乱している。
「あっ、お姉さんモフモフだ。ユキツネが好きなモフモフなんだよね?」
「エエエェ、ごご免なさい。私っ強い人が好きなの」
「誤解を招く言い方はしないでほしい。俺はモフモフならなんでも良いわけじゃない。全身モフモフがいい」
「エエ!マニアックだねえ。半獣の方を好む人間がいるって噂では聞いた事があるけど」
どうやらもっとモフモフした獣人がいるみたいだ。それは是非とも………… じゃなくて、俺は至って女の子の好みは普通だ。綺麗なお姉さん一択である。
とにかく足早にエルフの村を後にする。歩きながらエンジュに俺の国、ヒ・イズルの説明をする。ここは離れた場所にある村でエルフのみが住む事、これから向かうのが新しい国、ヒ・イズルである事。
村から一本道をひたすら進めば街の外壁へとたどり着く。以前はエレノアが鍵を開けて出入りしていたが、今はエルフ村専属の門番がいる。人族がエルフの村に行かないよう見張っているのだな。
その外壁の中に一つポツンと扉の付いた建物があった。俺は唯一エルフ村に出入りするにあたり、城への出入り口があった方が良いだろうと、ちっこいオッサンが地下通路を造ってくれたのだった。
通路は人が入るとほんのり明るくなる。ドワーフが魔道具で作ってくれたのだ。貴重な品なのであまりあちこちには使えない。
エンジュは仕切りにキョロキョロしていた。エレノアもだけど。すっかり人が多くなった街を通る事なく城へと出た。
通路を出れば城の一室へとたどり着いた。暖炉の横に棚があって、そこが隠し扉の出入口だった。棚を少しだけ横に押し込み足で下の方を押しながらスライドさせると扉は開く。単純だが細かく動かさないとちゃんと開かない。
地下通路からは押してスライドさせるだけだ。部屋に入るとエンジュは室内を見渡す。
「ここは立派なお部屋ね。何処かのお屋敷なのかしら」
説明するよりも見てもらった方が早いと、部屋から出た。部屋の外は大きなガラス窓のはまった長い廊下。これだけ長いと掃除が大変だろうなと思いつつ歩く。そこへメイドが現れた。
「あら陛下、お帰り。いつの間に戻ったのかしら」
「ヘーカ??」
エンジュの耳がピクピクしている。可愛いな、じゃなくって不穏な単語に反応したようだ。メイドが軽口なので奇妙な呼び名に少し疑問を抱いたみたいだ。
そのままエンジュが最も好きそうな場所に案内する。
「おや、陛下お帰り。あんた何処から入って来たんだい。夕食にはまだ早いよ」
かすかなスープの香りにエンジュが鼻をひくつかせつつ、様子を伺う。
「この建物は随分大きいみたいだけど、なんなの?それにユキツネって………… 」
エンジュの疑問は尽きないようだ。食堂のおばちゃんが軽い食事と飲み物を用意してくれた。おもむろにエレノアが説明をしだした。
「ここはヒ・イズル国。冗談みたいな話だけど、ユキツネが創った国なのよ」
「創った、国」
精霊の力を借りて城を建てて、そこにエルフがやって来てドワーフが加わった。徐々に人が増えて大きな国となった。まるで創世記のような壮大な話である。話を聞かされるとまるっきり他人事みたいな話だ。
「………… そんな経緯でユキツネは王様になりましたとさ」
エンジュが胡散臭いものを見る目で俺を見る。まあ誰が見ても立派に胡散臭い王様だ。信じろと言うのが無理な話である。
とにかく信じさせる為に城から一旦出る事にした。
城から出ればその全貌が明らかになる。巨大な建物にシンメトリーの美しい庭園。大きな門扉の正面は広場で噴水があり、立派な街並みが見える。改めてこの城は広いなと思う。一人の時は余計に寂しさを感じさせる、空っぽの建物だった。
街に出ようと門へ進めば城の兵士が敬礼をする。それを見てエンジュはビビりまくっている。少し前までへっぽこ二人だけが兵士だったのに、今はちゃんとした兵士がいる。
「ユキツネは本当に王様なの?だってそんなふうにふらっと城から出歩く王様なんていないわ」
「ここは特殊なんだ。俺は元々王様になるつもりなんて無かった。だけどしょうがないだろ、これだけの人がいるんだ。何かあればテオが守ってくれるさ」
黙って付いてくるテオをエンジュは伺う。
「彼は………… 本当に獣人なのかしら」
む、鋭いな。普通の獣人だったらたった一人で王様を守らないだろう。テオの正体は一部の人間しか知らないが、この用心棒を誰もが恐れる。本能的に勝てない相手だと悟るのだろう。
街は賑わっている。以前よりも華やかな気がする。道を作って他国への交流がしやすなったことで商人が多く出入りし、物と人が増えた。大通りは商店も増えたな。他の国と変わらない光景だ。
エンジュはふらふらと買い食いしながらヒ・イズル国を観光した。街の人の反応でやっと俺を王様と認めたみたいだ。エンジュに何が出来るかは分からないが、俺の城で働いてもらう。
初めての獣人だ。(テオは獣人に化けているだけだし)もっと俺の国に獣人が増えるといいな。




