56. ひと狩り行っとく?
冒険者ゼノン率いるパーティー「疾風のいななき」と一緒にダンジョンに潜る事になった。これは俺の求めていた展開ではない。
「なんでこうなったんだ?」
「だって折角誘ってもらったんだもの。ベテランの人と一緒に行けば、珍しい魔物にも出会えるし」
俺は出会いたくはない。テオがいるけど出来るだけ危険は避けたいんだ。そんな願いもむなしくダンジョンに挑む日が来た。
「よお!こっちだ、よく来たな」
待ち合わせのギルドに彼等は既に揃っていた。男四人に女一人のグループ。唯一の女性は筋肉質で逞しい感じのニッカである。身体強化の魔法を使って戦うって話だ。彼等の戦闘は主に肉弾戦だとか。
「早いのね。でも本当によかったのかしら?こう言ってはなんだけど、私達はほぼ初心者よ」
「ハッハッハ、俺達は強いんだ。君のような可愛い娘にもいて貰えれば気分も上がるさ」
「それにな、そっちの兄さんも気になるしな。相当強いんだろう?」
ゼノンはテオを見てにやつく。テオはわかる人には強さが隠しきれないみたいだ。そして安定の俺の空気感。ちっこいオッサンすらいない俺は凡人以下である。へこむ。
ゼノンは時々初心者の面倒も見ているらしい。今回も変わった組み合わせの俺達を見て、声をかけてくれた様だ。テオの戦いっぷりもみたいのもあるみたいだが。
「ここのダンジョンは固有種の魔物がいるんだ。運が良ければ仕留めて、いい小遣い稼ぎになるぜ」
俺は今や結構な国の王様で小遣いも一杯あるが、まあそれはいい。どうせ俺は仕留められないので、テオが活躍するのを期待する。
街から離れる事二時間。ここは大事な観光地なので辻馬車が出ている。ある程度の人が集まると出発する。ここのダンジョンは少し中が広めの空間で、背の低い草が生えている。太陽もないのに草が生えているとは不思議だ。
ホタルのような光る虫がフワリと舞う。幻想的な風景だ。
「そこだわ!」
エレノアがすかさず弓を構え、獲物を仕留めた。いたちのように胴が長いそれを一発で倒す。
「嬢ちゃん流石だな。だがそんな小物にいちいち反応してたら切りが無いぜ。もっと大きいのを狙おう」
「うーん」
エルフの狩りは獲物を見つけたら即座に仕留め、必要な分が取れればそこまで。ダンジョンでは持ち帰る獲物を選ぶ必要がある。
どんどん先に進むと先程と同じ獲物が現れるが、スルーして進む。先に行けば大きめの魔物も襲ってくるが、ゼノン達とエレノアが蹴散らす。
「そっちの兄さんも参加してもいいんだぜ?お守りだけじゃなくってさ」
ゼノンはテオを見るが、どこ吹く風である。テオにとって大した脅威でもない魔物は戦うまでもない。奥に珍しい野草があるという場所までダンジョンを降りる。回復薬として使われる野草はちょっとした金になる。そこでは色んな種類の野草が採れるから、出来るだけ集める事にした。
「ふぁああ、光がさしているわ」
エレノアの言うとおり何処からか光が差し込む。柔らかな光は幻想的な雰囲気を醸し出す。「疾風のいななき」のメンバーも様々な回復薬のお世話になるから、小まめに薬草とか卸すみたいだ。暫くはそこで野草をつむ。
そんな中テオは一人、昼寝を始めてしまった。これにはゼノンも苦笑いだが、元は野生の獣であるテオには退屈なだけの作業だ。二時間ほど作業していればお腹も空いてくる。ダンジョンの窪んだ場所で昼御飯にする。
昼御飯は俺が作ったサンドイッチ。においが出にくく簡単に食べられる物が良いので、皆の分を作った。玉子サンド、鶏肉とキュウリのサンド、トマトとチーズに豚肉を挟んだのと。昨夜も思ったが皆よく食べる。バケットタイプのパンに挟んでタップリ用意した。食べやすい大きさに切って分ける。
「ひょう、うまそう!」
「疾風のいななき」紅一点ニッカが声をあげる。それぞれがかぶり付く。
「うん、うまいな。このソースがまた良い。不思議な味だ」
鶏肉はゴマと醤油にお酢と蜂蜜を加えたタレに絡めた。豚肉の方はバジルと塩胡椒オリーブで。玉子サンドも好評だ。
「ダンジョンでこんな美味い飯が食えるなんて。パンに挟んである野菜も意外といけるな」
「これなら是非とも守ってやりたくなるってもんだ」
余る位の量だと思ったが、全て食べ尽くした。すごい食欲だな。テオが何気に一番食べたけど。少しマッタリしているとテオが動き出した。
「トイレか?気を付けろよ」
ゼノン達にからかわれつつも、テオは黙って行ってしまった。しかし俺とエレノアは緊張を隠せない。こんな時のテオは決まって大きな獲物を狩って来るからだ。暫くするとズズンと音が響くと同時に、声が聞こえた。
『グヲォオオオ!!』
遠くから聞こえる声にゼノン達は身構えた。声の主を確かめようと皆がそちらへ向かう。慌てず静かに進むとテオがいた。手にはナイフを持ち、その先に何か大きな物がある。
「おい、お前大丈夫か?そいつは………… 」
「疾風のいななき」のメンバーは驚いた。そこに倒れていたのは大きな角が四本生えた、ジャイアントライノだった。普通の剣では切り裂けない皮膚を持ち、その角で獲物を切り裂く。出会ってしまえば最悪の結果を招くであろう、凶悪な相手だ。
それをテオは一人で倒してしまったのだ。それ事態が信じられない。
「嘘でしょう。こんなのダンジョンで出会ってしまえば、ひとたまりも無いわ」
「全くだ。俺達じゃあどうにも出来なかったな」
「すげえな。あんた何者だよ」
「疾風のいななき」のメンバーが口々にテオを褒め称える。取り敢えず高く売れるらしいので、頭と皮膚を回収する。彼等のメンバーの一人、リカルドがミスリルのノコギリを持っていて、硬い皮膚を切った。内側は手分けしてナイフで剥いで、ギルドへ向かった。
ギルドに持ち込むと驚かれた。こんな大きな魔物がいた事と、それをテオが一人で倒した事に。売った素材は金貨七十枚にもなって、半分はテオが貰い、残りを七等分に分けた。端数もテオの取り分で。
「わりいな。儲けさせるつもりが、俺達が儲けを貰う形になっちまって」
「良いんですよ。ダンジョンに入れたのは、ゼノンのお陰だしいい経験になりました」
「それにしても勿体ないねえ。護衛なんて辞めて俺達のメンバーになって欲しいよ」
テオの評価がうなぎ登りである。以前にもこんな展開あったな。
「俺はコイツの護衛だ。それ以外の何者でもない」
キッパリ断ってくれてホッとする。だがやっぱりコイツ呼ばわりなんだな、いいけどさ。その後の宿ではやっぱりテオが金貨をくれようとする。テオに返そうとするも。
「ギルドに預けてる金も貯まる一方だ。それも全部ユキツネにくれてやってもいい」
金を持っているのが煩わしいのだと。俺もそんなセリフ言ってみたいよ。身分証のタグに金を預けられるんだって。でも大きな施設でしか取引出来ないから、ある程度金は持ち歩かないといけないみたいだ。
大金を持ち歩くのは心許ないので、後で入金しておこう。俺の心は小市民なので、大金を渡されても困るのだった。




