53. グルメのお約束
西の大陸にやって来た俺達は、色んな国を見てみる事にした。転移の魔方陣で大陸を横断したが、この周辺は小さな国が点在するようだ。旅の資金に余裕があるので、人を雇って次の国へ向かう。旅の護衛と御者をしてくれる冒険者を雇った。
彼等の運転で気兼ねなく次の国にたどり着く。いつもはテオが気を張っていたので、テオもゆっくり休めただろう。
次の国はもの造りが盛んな国ディラルド。なんだかドワーフが喜びそうな国だ。門をくぐれば門の脇に歯車のオブジェがある。もの造りの国を象徴する巨大な物だ。門から真っ直ぐに大きな通りを進むと、色んな店が並ぶ。本屋は初めて見たな。他の国とかにもあったのかも知れないが、本屋と気付いたのは初めてだ。
食料が売っている店を覗くと、見たことのない野菜や果物。エレノアもよく分からないみたいで、西の大陸ならではの物らしい。店主が一押しだと言うボランって果物を買うと、切り分けてくれた。形はじゃがいもの大きいのみたく少しでこぼこだが、中身は柑橘系の果実らしかった。
三人で食べて歩いて行けばちらほらと小さな歯車が飾られた店が目につく。店に入ってみると………… 誰もいない?いや、ゴソゴソと物音がした。
「い、いらしゃい、ませ」
小リスがいる!じゃなくって獣人か。真ん丸い耳にフカフカ尻尾。あの尻尾は是非とも堪能してみたい。刺繍の入ったエプロンドレスみたいなのを着た、身長一メートルも無さげな彼女は、丸いメガネをしていて、しっかりした顔立ちから成人女性と思われる。だが距離を置いてプルプルしている。可愛い。
「俺は店の外で待っている」
テオが突然店を出ると言い出した。何か気にさわったのだろうか。二人で商品を見ていると店員が謝ってきた。
「すみません、お客様に気を使わせたみたいで」
話を聞けばテオが怖かったらしい。強い獣人の気配に敏感な彼女は、テオが入って来たのでプルプルしていたようだ。テオは無意識に魔力を出しており、敏感な者はテオが怖いと感じるみたいだ。獣人あるあるだった。
店の商品は小物が並ぶ。エルフが使っていた望遠鏡や、オルゴールの小箱。よく分からない道具もあった。
「よう、いらっしゃい。他所から来たお客さんか」
突然奥から大男が現れた。デカい。身長二メートル以上はあるだろうか。横幅も大きく小さな彼女とは対照的だ。丸い耳をしているが、尻尾が見えない。まあこの男がリスには見えないからな。
こんな大男は平気なのにテオは怖いのか。思えばあちこちでテオは怖がられていたな。最強生物だからしょうがないのかな。
「ユキツネ凄いわよ。見たこともない魔道具がいっぱい。この箱はなんなの」
「それはオルゴールだ。音楽を楽しむ道具だ」
「兄ちゃん物知りだねえ。ソイツはあんまり出回っていないんだよ」
どうやら録音する魔道具もあるみたいで、アナログなオルゴールはそれほど出回らないらしい。
「一つお土産に買っとくか。子供達も喜ぶだろう」
エレノアが使い方を聞くので、横のレバーを回すように促す。可愛らしく綺麗な音色が響いた。
「えーっ!何なのこれ、魔力無しでこんな音が出るの?なんで」
可愛らしい機械にエレノアは目を輝かせる。真ん中の部分をドワーフに作ってもらえれば、音も変えられるかも。帰ったらタロスに相談しよう。
「毎度、金貨五枚だよ」
「エエッ?」
びっくりして固まるエレノアを他所に支払いを済ませる。一般庶民はまず金貨なんて使わない。色々価値観が違うが、概ね金貨一枚で十万円前後だ。多分この店は高い品物ばかりだろう。手のひらに乗る小箱が金貨五枚とは、思いもよらないんだろうな。
「それだけあれば何ヵ月食べられるのかしら」
小麦粉と塩以外がほぼ自給自足のエルフは、金貨一枚でも当分生きていける。エレノアは高価な買い物をお土産に、と納得いかない様だったが、俺の買い物にケチをつけるのもどうかと思ったみたいだ。
もの造りの国というだけあって、彼方では見なかった様々な道具がある。エレノアもいちいち反応している。テオは相変わらずの無表情だ。
食事をしに店に入れば相変わらずのピリ辛料理だが、香草を使った味のもあるようだ。ピリ辛じゃないのをとお願いする。肉と大きな川魚が出てきた。魚を香草で焼いた物はうまい。たまにしか魚は食べられないから、余計にそう思うのだろう。
「やっぱりユキツネの料理の方が美味しいわ」
「そんな事無いだろう。俺は素人だしさ」
美味しいとすれば俺の腕ではなく、料理を考えた人の腕だろう。エレノアや子供達に出した物は、手の込んだ物も多い。一人だったらまず作らない。
「聞き捨てならないな、ディラルドの料理はまずいってか?」
何故か急に絡まれた。俺達はあんまり顔を晒していないが、やっぱりこの辺ではない顔立ちは目立つみたいだ。
「俺は一端の料理人だが、ここのおやっさんの腕はまあまあだ。余所者にケチをつけられたくはない」
「すいません、この子ちょっとわがままなんで。気にしないでやって下さい」
「ちょっとユキツネどういうつもり?こんなのにケチつけられて引っ込むの」
エレノアよ黙ってくれよ。頭を下げて済むのならそれに越した事はない。だがエレノアはヒートアップする。
「私は事実を言っただけ。ユキツネの料理は最高よ」
エレノアよ、お忘れかも知れんが俺は料理人ではない、王様だぞ。
「それほど言うなら腕前を見せて貰おう。俺の店に明後日こい。ここから五軒先の店だ。この街の者を集めて判定してやる」
「分かったわ」
「おい、勝手に話を進めるな。俺は料理人ではない」
「ほう?料理人でも無い奴が舐めた口を。だが逃がさんぞ、お前の事は組合に知らせて監視してやる。勝手に街から出たら引きずってでも連れ戻す」
「エエッ!?」
どうしてこうなった。テオをチラッと見るが、知らんぷりだ。お前俺の護衛だろう。助けてくれないのか。
何故か俺が料理にケチをつけたみたいになって、対決するはめになった。料理対決ってテレビ番組の中とか、漫画の話だよね?なんでこうなる。
おのれエレノアめ。




