51. まさかの再開そして
西の大陸へやって来た俺達だが、独特のピリ辛料理はエレノアにはキツかったみたいだ。しかしいきなり料理は作れない。場所もないし。エレノアはみかんを食べている。オレンジではなくみかん………… 俺の畑に生えてるやつだな。みかん持ってきていたのか?
取り敢えず次の街を目指そう。乗り合い馬車で安全に旅が出来る。こっちの馬は大きい。鬣も長く、足は太い。テレビで見た道産子って馬みたいだ。普通の馬よりも厳つい感じはする。
二十人程の乗り合い馬車で、首都まで行ける。途中には無料のキャンプ場があって、井戸も使えた。米を持ってきてるので今日はピラフを炊く。刻んだ野菜と干し肉を研いだ米と一緒に炊くだけだ。スープと共に頂く。
「やっと普通の食事にありついたわ」
ピリ辛料理から解放されて、エレノアが一息つく。そのまま各々テントを張ったりして、一夜を明かす。そうして五日を過ごせば首都へとたどり着いた。最初の街とそう雰囲気は変わらない。強いて言えば馬車が多く目立つところか。
街の奥に王宮らしき建物が見える。四角いだけの町並みと違い、少し凝った建物が見える。まあこの国の王宮に立ち入る事も無いだろう。ヒ・イズル国も此処まで噂は届いていないだろうし。
この国でも冒険者の真似事をする事にした。テオが守ってくれるし。冒険者ギルドの扉を叩くと、俺は目を疑った。
「いらっしゃい、冒険者ギルドへようこそ」
「おおっ!」
ケモミミだ。正真正銘の女の子のケモミミがおる。三角の大きいケモミミが俺を出迎える。
「登録はお済みですか?依頼を受けるならそちらへどうぞ」
成人女性みたいだが、随分小さい。種族の違いだろうか。後ろを向けば太い尻尾が付いていた。わさっとした毛並みを撫でてみたい。
「ユキツネ」
ふと見ればテオが険しい顔をしている。いかん、思考が駄々漏れだっただろうか。気を立て直し依頼ボードに目をやる。………… うん、俺読めないや。
「エレノアこれ」
「私だって読めないよ。言語も違うし」
エレノアによると、此方は言葉も違うらしい。エレノアが喋れるのも、エルフの魔法の首飾りのお陰だって。エレノアの首に付いてたのは只のアクセサリーじゃなかったのか。これも今回の旅に備えた物だった。
テオが読んでくれた。テオは不思議生物であらゆる言語が分かるみたいだ。そうだよね最初から人じゃないし。俺はちっこいオッサンの効果だろう。その中でもテオお進めの依頼を受けてみた。泉に現れる魔物を捕らえるものだ。
泉には貴重な植物が生えるが、大きな魔物が現れて採取出来ないそうな。三人でその場所に行ってみる事にした。
泉までは草がまばらにしか生えていなかったが、近づくに連れ緑が増える。何か足の長い鳥がいるが、何かに反応してギャアギャア叫びながら逃げていった。
「あっちに何かいるな」
俺とエレノアには分からないが、テオは奥の岩影を見ている。すると何かガサガサと足音がする。
そこに現れたのは、アリクイが巨大化したみたいな生物だ。毛が少なく足が六本も生えている。のっそりと現れたそれは、水を飲み始めた。カバみたく大きいから、迂闊には近寄れないだろう。
しかし大分距離があったがソイツは俺達に気付いた。
「ブルヲォオオオウ!」
叫びながら走ってきたぞ!エレノアはクロスボウを直ぐに構える。バシュッと音を立てると、奴の頭に…… 当たらない。巨体に似合わずサイドに飛び退き避けた。テオが獣になる。
「グォオオオオ!」
一瞬怯んだがテオに向かって突進してきた。テオは素早く飛び付きその背に乗った。鋭い牙で首に噛みつくが、首が太いからダメージは少ないみたいだ。テオを振り払おうと滅茶区茶に暴れている。
「ブヲォオオ」
そのまま奥の方へ行ってしまい、暫く暴れている物音がしたが、テオが戻ってきた。汚れた口許を泉で洗い流す。少し落ち着くと人の姿になった。
「仕留めたぞ」
テオに従い奥へ進むと、奴は倒れていた。近くで見ると凄く固そうな皮膚だ。しかしテオは凄いな。自分よりも大きな獲物をこんな風に倒せるのか。
エレノアが討伐の証拠である牙を剥ぎ取る。こいつも大きいので後でギルドの職員が回収してくれるだろう。肉は余り食えた物ではないが、皮膚は使い道があるらしい。
その足でギルドに戻ると、獣人の女の子が驚く。
「ええ?まさかもう討伐したんですか。今まで何日も燻っていた案件だったのに」
奴がいるせいで色んな人が困っていたみたいだ。証拠の大きな牙に職員は感心していた。
「あんちゃんこれだけ大きいと、大変だったろう。街を代表して礼を言うぜ」
買い取りのコーナーのおっちゃんがガハハと笑う。早速職員を向かわせると言っていた。じゃらっと音を立てた袋が置かれる。テオが中身も確認せずに金を受け取った。テオがいれば金には困らないな。そのまま袋は俺に渡される。
「何か旨い肉が食いたいな。適当に店を見繕ってくれ」
いい店が何処かはわからんが、テオのリクエストに応えねばならんだろう。エレノアに聞いたらいい店は、中心地で繁盛している店だと言った。幾つかあるレストランでも大きめの店に入った。
「いらっしゃいませ。この店は全部個室ですが宜しいですか?」
おっと何やら高級店っぽい雰囲気にビビるが、マント姿で文句を言わない所を見ると、俺達でもオッケーらしい。メニューもサッパリなので、一番美味しい肉料理をリクエストする。金に厭目は付けないぜ、言ってみたいセリフである。
暫くするとコース料理みたいのが運ばれて来た。ただし一品づつではなく、一辺にだ。前菜、スープ、肉料理に付け合わせでライスがあるぞ。インディカ米っぽい。パンも付いている。
エレノアの分はなるべく辛くない料理にしてくれって頼んだ。テオは肉大盛で頼んでいる。流石高級店っぽいだけあって、結構な料理である。ただピリ辛の味付けは何処でも似たような味だ。エレノアのは鶏肉のサッパリした見た目の料理だった。
それなりに満足して店を出た。そこで声をかけられる。
「ユキツネさん、ユキツネさんじゃありませんか」
そこには何とリンドガルディアで出会った商人の当主、ダルウィンさんがいた。
「あれっ、何で此方の大陸に?」
「それは此方のセリフですよ。まさか危険な海を渡ったのですか。私は大枚をはたいて魔方陣を使いましたよ」
ダルウィンさんの店は輸入品を多く扱っていて、定期的に大陸を渡っているのだとか。魔方陣を使った転移は世界に数ヶ所あるが、料金が高いので普通の人はまず使わない。大店の商人であるダルウィンさんだから、出来ることだ。
「流石に食通は違いますな。態々海をも越えるとは、その食に関する意気込みは見上げたものです」
何やらダルウィンさんの中で俺は、相当なグルメみたいだ。全然違うけど高級店から出て来て、否定するのも変な話だ。大陸を渡った言い訳も面倒くさいし。
「ここで会ったのも何かの縁です。ユキツネさん、是非に美味しい料理を作って下さい。私の屋敷に招待しますよ。近々此方の知り合いとの細やかなパーティーを予定しているのです」
パーティーまでは屋敷に泊まれば良いと言うが、そもそも俺は料理人ではない。王様だよ?
初めは断ったが金貨をいくら積めば来てくれますか等と、食い下がる。前回作ったカレーの衝撃が忘れられないと。身なりの良い紳士が大通りで頭を下げて頼み込むので、仕方なく折れた。
身内だけのパーティーだから、庶民の料理で構わないという話だ。メインはダルウィンさんの屋敷の者が作るが、立食形式で食べるので、二、三品有れば申し分ないと。
これは困ったな。一体何を作れば良いのだろう。どうして俺は息抜きの旅行で料理をするのだろう。




