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5.何もないと早起きになる

 

 皆さんこんにちは。桧山祐紀経と申します。良い子の皆、元気だったかな?…… なんてな。いやぁぼっちになると人間独り言が増えるものさ。

 引っ越した新居でまさかの異世界にこんにちは、なんて誰も思わないものだろう。しかも人っこ一人居ない深い森の中、ドラゴンさんに出会えるカモネ☆



「なんてな」


『主殿~どうしたのじゃ』


 この家には精霊が住んでいる。十人も、だ。一家族一人の所大盤振る舞いの十人だ。彼らの能力は凄まじく、十人もいれば相乗効果で何倍もの力を発揮する。

 そのパワーで異世界に転移し、城を造り街を造った。ただし場所が問題だ。ここは深い森の中聞こえるのは獣(魔物?)のうなり声ばかりだった。俺が異世界ぼっちになって一ヶ月が過ぎた。


 城の上にある一軒家は水道は蛇口をひねれば綺麗な地下水が出てくる。オール電化の家で、ソーラーパネルが設置されているのだ。元はど田舎の家なので災害とかに備えた設備だ。家をくれた爺さんに感謝しつつ、朝食を作る。

 メニューは野菜炒めだ。


 裏の畑から引っこ抜いた野菜を炒める。なお、肉は無い。


「あー分厚いステーキ食いたいよね」


 野菜炒めと全く同じ具の入ったスープを啜り、白米を掻き込んだ。家と共にやって来た畑と果物のお陰で飢える心配はない。テーブルに置かれたミカン、これも裏庭で採ってきたものを食後のデザートとして食べていた。


『おお主殿、大変ですぞ』


 精霊であるちっこいオッサンが声を荒げた。


『人の気配がしますのじゃ』

『おお何人かおるのう』


「何ですと?!」


 この家、城の周りと街には結界が張ってある。その近くに人が居ると言うのだ。

 慌てて庭から城の外を見渡すと、森の一部がガサガサとしている。鳥達が騒いでいて何かのうなり声が聞こえる。


 急いで外に飛び出して街の外壁である丸太へ近づいた。


『主殿、ここに扉を作りましょう。彼らを導くのじゃ』

『主殿、お気を付けなされ。扉を開ければ魔物が入って来るやも知れん』


 その時だ。外から声が聞こえた。


「誰か、誰か居ませんか?助けて欲しい」


 ドンと何かで丸太を叩いているようだ。躊躇っている暇はない。意を決して扉を開けると、金髪の男が二人入ってきた。長い耳、緑の瞳。


「グワッツ!」


 続けて大きな猿のような獣が入って来る。金髪の一人が手に持っていた槍をその胸に突き刺した。


「グォオオオオ……」


 断末魔の悲鳴と目の前で起きた出来事に俺はビビって動けなかった。


「皆こっちだ!ここに扉があるぞ」


 男の叫び声に、今度は女が数人入って来る。扉の向こうでは激しい雄叫びと怒号が飛び交っていた。暫くやり取りが続いたが、数人が続いた後、大男が入ってこれで最後だと告げると、急いで男たちが扉を閉めた。


 その場にいた誰もが満身創痍である。中には酷い怪我をしている者もいた。


「ありがとう、皆を代表して礼を言う。私はエルフ族のジルフィンという者だ」


「…… ああ」


 俺はそれだけ言うのが精一杯だった。この一ヶ月城でぬくぬく暮らしていた俺には、信じられない出来事だったのだ。思えば異世界に来て、エルフの綺麗なお姉さんに出会えたらいいな何て妄想はしていた。

 だが初の原住民との交流が、こんな激しい物だとは想像もしていなかった。


 彼等は井戸が無いかと尋ねるので、取り敢えず広場の噴水に案内した。


「これは…… 」


 噴水はチョロチョロと流れながら水をたたえていた。


「水だ」

「水だぞ!」


 彼等は両手で掬ってゴクゴクと飲み始めた。皆涙を流しながら水を飲み、顔を洗った。ずっと森を歩いていたのか、彼等は一様に薄汚れている。


「重ね重ねすまないが、どこか休める場所は無いだろうか?馬小屋でも何でも構わない」


 馬小屋なんて物はない。何せ馬どころか人っこ一人居ないからな。なので噴水の前にある建物に案内した。皆は大きな建物に案内された事に驚いたが、中ががらんどうなのにも吃驚していた。


「ここは…… 貴方の持ち物なのか。中は何もない様だが」


 ジルフィンは唖然としていた。


「ああ、まあな。何もないけど雨風位は凌げるだろう」


 数人がウウッとか苦し気な声をあげる。そうだ怪我をしているのだ。


「少し待ってろ、薬を持ってくる」


 そう言って俺は建物を飛び出した。城の階段を駆け登ると、ぜいぜいと息が切れる。


「くっそ、この城無駄に広いっつーの」


 薬箱を手にとって丸ごとリュックに詰め込む。ふと考え、裏庭にまわってリンゴとミカンを詰め込む。本来ならば時期外れの果物も、ちっこいオッサンがあっという間に育ててしまうのだ。

 一本の木になる果実でも、一人では食べきれない収穫がある。


 噴水の水をがぶ飲みしていた彼等は痩せている。きっと食うにも事欠いていたのだろう。リュックの他にスポーツバックを取り出して果実を詰め込んだ。






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