41. 平和な日常
帰って来た。お隣リンドガルディアに呼ばれてはや数日。お出かけするのも大変だ。荷台は凄い揺れるし、危険な森での野宿は落ち着かないし。
何が落ち着かないって荷台を引っ張っているヤツが一番ヤバいってこと。まあそのお陰でちょっかい掛けようって魔物は現れ無かったけれども。テオはよくあんなの捕まえたよ。
行きと同じく口輪を外せば大きな唸り声を上げて帰って行った。やっと我が家に帰れる。街に入る門でエルフが出迎えてくれる。門を潜るとエルフが国旗を掲げていた。
「王のご帰還だ。皆の者敬意を持って出迎えろ」
高らかに宣言するが、野次馬がごった返している。まるで知らない国に来てしまったみたいだ。ざわめく人々。誰が王様だなんて声がする。俺が居ない間にも人が増えたのだ。
「おーさまお帰り。これどうぞ」
チビッ子がそこら辺に生えている小さな花を渡してくれる。
「おう、ありがとな。嬉しいぞ」
それを見て、え?あれが何て声もするが、まあ今更だ。俺が王様らしく無いのは重々承知だ。
「お帰り陛下。今日は歓迎のご馳走を用意しているよ!」
食堂のおばちゃんとメイド部隊だ。なんだか嬉しいな。前回の方が長旅だったけど、まだ見習いって感じの顔ぶれだったのが、すっかり馴染みの顔になっている。
ここが俺の家なんだ。
久々に人化したままのテオを皆が恐れている。霊獣とは不可侵の存在であり、敬わなきゃいけないものらしい。城の皆はテオの正体を知っているので、どうしていいのか戸惑っている様子。
皆で食堂に行き、料理を食べる。大きな猪の丸焼きがあった。香草をタップリ塗り込んで塩で味付けされたもの。添え付けられた野菜にも肉の旨味が染み込んでいる。他にもトマトのパスタや野菜スープ。天婦羅も並んでいる。
帰国したメンバーと共に食べた。特にドワーフの二人は感動していた。城の料理がこんなに美味しいとは知らなかったと。
「俺達ドワーフは工房に籠りっきりだから、こんなに旨い料理があるなんて知らなかった」
エルフは見回りや手伝いがいるから、しょっちゅう食堂のお世話にもなるが、ドワーフはあんまり来ないからな。
「これで酒が飲めれば最高だな」
「今日は特別に用意したよ。王様の為にね」
何とエルフが酒を買っておいてくれたみたいだ。ワインとエルフの作った果実酒も並ぶ。これには皆喜んだ。俺は二、三杯で酔ってしまうんだけど。
結果直ぐに潰れた俺は早々に部屋に戻った。
「テオ~モフモフさせて」
取り敢えず癒しを求める。相変わらずの抜群の手触りだ。いっそのこと俺の布団になって欲しい。
「エエのか?エエのか?ここがエエんだな」
ブラシをかければ艶々に輝いて光る毛並み。テオの体温と肌触りが堪らなく気持ちいい。ブラッシングに熱が入る。
『ユキツネ、起きろ』
「んあ?柔らかいなー」
今日の枕は黒っぽい。何時もはもっと青かった様な…… この手触りはたまらん。肉の感じが何とも、ってこれテオの毛じゃないか。慌てて起きると俺はテオを枕に寝ていた様だ。すっかり朝だ。
「悪い、昨日は寝落ちしてしまったんだな。あんまりにも手触りが良すぎて…… 」
『別に構わない』
そう言うとテオはグッと姿勢を落とし伸びをした。ずっと同じ姿勢で寝させてしまったものな。獣に戻ったテオと食堂に向かう。テオが獣の時は他の人と距離がある。大きな猛獣はやっぱり怖いらしい。だからテオは大抵隅っこで大人しくしている。
獣になったテオはこの後狩りに行く。肉料理が少ないので自分で仕留めたい様だ。旅先でも肉ばっかり食べていたもんな。すっかり野生に戻ったみたいだ。人口が増えたことで門にも兵士がついた。テオを送り出し、帰ってきたら開けてくれと頼む。
門番は初めて見る大きな獣にビビり捲っていた。まあ俺も初めて出会ったのがこの姿だったらビビる。昼時になればエレノアが顔を出した。
「ユ、王様元気だった?随分帰るの早いんじゃないの。前はもっと時間が掛かったのに」
「テオが凄いヤツを捕まえて荷台を引かせたからな。ちょっと飛ばし過ぎで疲れたけど」
エルフの子供達もまた遊びに来たいと思っているそうだ。まあDVDがみたいんだろう。村では豆乳のプリンを作って、これも好評だそうな。味噌造りを任せているから、大豆も沢山ある。まさか大豆がデザートに成るとは思ってもいなかったそうで。
「王様の故郷は何でもデザートにするんだね」
正月にお汁粉を食べたのを思い出したらしい。またお菓子を食べたいと言われるが、料理本はスイーツ系は無い。姉に良く手伝わされたが。
昼の後は政務室に顔を出す。カイラスが一生懸命働いているのだ。俺の代わりに。俺には政治はサッパリだからとっても助かる。
「………… って訳で、難民を受け入れる代わりに支援をするって言われたんだが」
「そうですか。でも成るべく支援は受けない方が良いですね。今後の国同士の利権にも関わる問題です。交通の問題は王の精霊が解決してくれるでしょうが、食料は安く提供してもらう形が良いと思います」
まあ既に一部は切り開いているから…… またオッサンの踊りを見なきゃいけないのか。こればっかりは他に任せられないからしょうがないんだけれども。トンネル以上に時間が掛かるな。
そんなこんなで数日後には俺は再び旅立った。自転車に乗って。テオが旅のお供として付いてきてくれるのが、唯一の救いだ。
『エンヤァコオーラどっこいしょ。進め進め、果てなき道さ。俺等は大きな道を作るよ』
『ハアこりゃあ目出度い。大きな大きな国になる。主が大きな国作る』
この怪しい歌と踊りを延々と眺める。夜になれば宿場も作る。今は俺とテオだけだけど、隣の国から人もやって来るだろう。何も無いが宿泊だけは出来る施設は必要だ。
時々テオが狩って来てくれる肉を焼いて食べたりしつつ、二十日程度掛けて道が出来た。魔物に襲われない様に頑丈な壁がそびえ立つ。
「やっと開通したな。これで隣と行き来し安くなる」
こうしてお隣リンドガルディアに難民を受け入れる旨と、森を切り開いた事をエルフを通じてお知らせする。通信だけなら魔法に依って、いちいち人間が往き来しなくてもいいのだ。
良い仕事したぜ。主にちっこいオッサンがな。




