4.一国一城ってそう言う意味じゃないんだよ
俺は混乱している。
部屋から障子を全開にすれば、縁側からガラス越しに広がるだだっ広い土地。だがその先は、見たこともない大きな木がわんさと聳えている。
時折聞こえるギャオー!とか、ワオゥウウウなんて声は、気のせいと思いたい。
「どうすんだよこれ」
『主殿は心配性じゃな』
『取り敢えず土地を柵で囲いますじゃ』
『うむ、家も補強しようかの』
『そうじゃ、これだけの土地じゃ。おっきい城がええのう』
『おお。ここが主殿の国に成るのだな』
なんか知らんがちっこいオッサン達が勝手を言ってる。オッサン達は輪になって不思議な呪文を唱えながら、盆踊りのように回り始めた。ミシミシと音をたてて辺りの木々が動き出した。
それらはあっという間に丸太になり、どどっと音をたて周囲に整列していく。
─── そして。
「う、うわ何だ? 地震?」
ゴゴゴと地面が揺れ出した。俺はパニック状態で頭を抱えて床に伏せた。僅かな振動が体全体に広がる。
『主殿~もう大丈夫ですよ』
その言葉に目を開けると、不思議とさっきよりも視界が開けた気がする。空が広いと言うか …… え?
庭だった場所が石畳になっている。そうっと庭に出てその端っこまで行ってみた。眼下には爺さんの土地、それを囲む丸太。その先が森だ。
「なんじゃこりゃー!」
振り返れば相変わらずの平屋が建っているが、それがビルの屋上みたいな場所に有ったのだ。
『主殿の城を建てたぞい』
『うむ、もとの家はそのままが良いと思ってな。城の上に載っけたのじゃ』
何ですと?!
慌てて飛び出した俺は、家の後ろに扉があるのを発見した。
『主殿、これは貴方様専用の鍵になります。持っていて下され』
ちっこいオッサンの一人が不思議な石を渡してきた。うっすらと光っていて、呼吸をするように光が大きくなったり小さくなったりしている。
『他の者には使えん、この城の鍵になりますじゃ』
俺はその石を持って扉に近づくと、ガチャンと音がして、扉が開いた。そうっと進むと階段がある。階段を下ると大きな広間が見えた。その広間の奥に一段高くなった場所、城と同じ石の椅子がある。
「あれは?」
『玉座すなわち王の椅子、主殿の椅子じゃ』
うん、思ったよ。一国一城の主になったってさ。でも本当の王様に成りたかった訳じゃない。
「いや、勝手に城とか建てちゃ駄目じゃないのか」
『主殿この周囲は深い森に囲まれ、誰も所有しておらん』
『儂らも他人の土地はいじれんからの』
『誰の物でもないのだから、建てたもん勝ちじゃ』
そうなのか。それでいいのか。
「え、ちなみにご近所さんは」
『うむ、居らんぞ。この周辺は主殿の好きに開発出来るぞい』
『隣の国はあの山々の向こう側じゃ』
何と一番近いのが山の向こう側、その反対側は鬱蒼とした森が広がるばかりのようだ。
「つまり」
『つまり?』
俺はひょっとして異世界でぼっちって事か。
「うおーっつ!」
何だよそのハードモードは。これからどうしたらいいんだ。
取り敢えずカップ麺をすすって、俺はふて寝した。買いだめしておいて良かった。
オッサン達が建てた城は広かった。広いががらんどうだ何もない。オッサン達は家とかは創れるが、家具は創れないのだ。だから城の上にもとの家を載っけたんだな。
そして城の屋上は日本庭園に創かえられた。殺風景だった場所が、松の木やらの植物が植えられている。元々爺さんの土地に生えていたものだ。
「しかし…… 何もないな」
大きな城の回りは立派な塀で囲われている。その先遥か向こうに森の木で作った丸太に囲われた土地。
『主殿、ここに街を造りましょう』
「街?」
最初に出会ったオッサン、ドノムって名前らしいのがそんな事を言い出した。人が森に迷い混んだ時に、街があった方がいいって。有るのかそんな事。前人未踏のジャングルに人が来る──── いや、無いだろそんなシュチュエーション。
ともあれ小さな街が出来て行く。かなり広めに城の回りを塀で囲い、そこから続く場所は広場となった。
広場は石畳で固められ、中央に噴水が出来た。そこから大きな建物が造られる。将来的に馬車が往き来出来る道。街の外側は丸太の柵でぐるっと囲われた。
お城の上の自宅に戻って見渡せば、円形の丸太の中に映画のセットみたく街がある。普通なら延々と続く街並みがぶっつり途切れている感じだ。
『将来が楽しみですのう』
「…… そだね」
俺が生きているうちはご近所さんに巡り会えないかも知れない。遠い目で景色を眺めた。
だが、俺の予想は意外と早く裏切られる事となる。