38. 王の資質
リンドガルディア国から手紙が届いた。是非とも招待したいと。カイラスはヒ・イズル国にとって大事な申し入れだと。国王として他国との交流は避けて通れぬ道だと。
俺は再びリンドガルディアに行くことになった。今度は国王として、正式な訪問である。三ヶ月後の訪問に向けてカイラスの指導は続いた。礼儀作法やテーブルマナーに至るまで、細かく指導される。
そして誰を連れて行くかでもめる。カイラスは国を運営するので国から出られないと言うこと。そこで代わりのエルフの若者を付けると言った。護衛にドワーフが何人か随行すると言ったが、テオが必要ないと言った。余計な人間がいるとかえって身動きが取れないと。
しかしドワーフにも思うところが有るようで、結局エルフ二名とドワーフ二名と言う形で落ち着いた。エルフからはエルモニアに一緒に買い物に行ったシャルルとヘイルのコンビ、ドワーフからはドイルとクルトと言う二人。エレノアは留守番である。
今回森を出るにあたり、テオが馬車を引く生き物を探して来てくれたのだが。
「グォオオオ………… 」
あかん、これ絶対駄目な奴。背中に鬣のあるトカゲ、いや恐竜?口許に金属を嵌め込みあんまり開かない様にしているが、完璧に肉食獣の牙が見えている。
「森を抜けるまでは引かせればいい。そこからは歩きだ」
当然の如く街に入れる生き物では無いようで、速さ重視らしい。エルフとドワーフもさすがにビビっているが、テオが御者を勤める。
「ウォオオオ!」
唸り声をあげ走る恐竜。前回切り開いた道もあるので、スムーズにそして素早く森を走る。流石にコイツにちょっかいをかける魔物は居ない様で、僅か五日程で森を抜けた。前回の長旅とは比べ物にならない。
森の出口付近まで来るとテオは繋いでいた部分と口輪を外してやった。すると大人しく森へ帰って行った。乗ってきた荷台を隠しそこから歩く。森から一番近い町の宿屋に行って、手紙に同封されたリンドガルディア王家の紋章を見せれば、タダで宿屋に泊まれて迎えが来る手筈だ。
その夜は宿の手厚い歓待を受け、豪華な料理に舌鼓を打った。翌朝に朝食を終えれば既に馬車の用意が整っている。黒塗りの高級感溢れる馬車に乗り込めば、お供の四人は緊張している。テオはいつも通りだ。
首都ガナディウスに到着し、一直線に城を目指す。紋章入りの馬車は簡単な確認だけで城の門をくぐった。エルモニア国よりも大きな城だ。馬車から降りれば左右に並んだ兵士達が胸に手を当て出迎える。
城に入ると一人の男が駆け寄ってきた。
「これはようこそ遠路遥々おいで下さいました。私はこの国の宰相をしているアムル・カフロスタと言う者です。ヒ・イズル国の王をお迎え出来て何よりです」
俺達六人は迎賓室へと迎えられた。リンドガルディア王は執務中なので、手が空き次第出向くそうで飲み物と軽食が振る舞われる。紅茶にスコーンっぽいもの。サンドイッチに焼き菓子。英国スタイルだな。以外に食文化のレベルが高いのかも知れない。
テオは無造作にバクバク食べてるが、四人は緊張しまくっている。まあ一般庶民だものな。エルフは紅茶を飲むみたいだけど、ドワーフの二人は初めてだったみたいだ。甘い焼き菓子に感動していた。
結構な時間が経ってテオはゴロゴロしだした。見張りの兵士がぎょっとしているが仕方がない。ここ最近は獣の姿で自由気ままだったのに、人間の姿でじっとしているのは退屈なのだろう。そうしている内に迎えがやって来た。
「大変お待たせ致しました。皆様此方の方へどうぞ」
宰相が迎えに来てくれた。奥の部屋へと進みそこへたどり着くと両側の兵士が扉を開けた。
「ようこそ!ヒ・イズル国の王よ。私はリンドガルディアの国王、カレッサ・ジオ・リンドガルディア。噂は予々窺っている。我が国とは是非とも懇意にして頂きたい」
そこにいたのはやや大きな男で長髪がワイルドに生えた、ハリウッドスターみたいな感じだ。大国の王だけあって、半端ないオーラがある。
「俺はユキツネ・ヒヤマ。ヒ・イズル国の王をやってます」
「まあ立ち話もなんだ。全員座ってくれ」
楕円のテーブルに座らされる。エルフとドワーフの四人は戸惑っていたが、椅子を引かれ着席した。
「エルモニアでは随分活躍したと聞いた。所で精霊とやらは俺にも見えるのか?」
「精霊は人前に出るのを嫌います。エルモニアではあっちが手出ししてきたんで、仕方なく現れたんだと思う」
「成る程………… ではどのように契約を?」
「さあ?」
俺は特別主に成りたいと思ったわけではない。気付けば勝手に主にされていたのだ。
「ふふふ、流石に簡単には語れないか。では、同行している者達の紹介をしてもらえるか」
勝手に深読みをしている様だ。俺は五人の簡単な紹介をする。今回一緒に来てはいるが、良く考えると皆の事をあんまり深く知らない。エルフとドワーフは離れて暮らしてるし、テオは霊獣だしな。
「エルフにドワーフ、そして獣人。よくも見事に揃えたものだ」
別に俺が揃えた訳ではないが。その後も俺が国を立ち上げる迄の経緯を聞かれた。精霊が勝手に城を作ったと言えば驚かれた。最初は城だけの場所に人が集まったと話した。カレッサは感心しきりだ。
「では最近はゼキベアの難民を受け入れているのか」
「俺の国はまだ人手が足りないから、増えるのは有難い」
「ふむ。俺の国ではそう簡単には受け入れ出来んからな。城壁の外に難民が暮らしている」
リンドガルディアにも大量の人が流れ込み、困っているそうだ。こっちは俺の国みたく余分な土地を直ぐに開拓するのは難しいし、食料の問題もある。
「俺としては是非ともヒ・イズルと仲良くしたい。そこでだ、ヒ・イズル迄の街道を作り、街の外の人を受け入れてくれないか?」
意外な申し出を受けた。難民を送る代わりに食料を支援すると言ってくれた。このままでは治安が悪化し、大きな問題に発展してしまうので、いっそ難民を引き受けて欲しいそうだ。難民をそのまま雇いいれ、道を整備させる。その費用と食料を受け持つと言われた。
俺や今回のメンバーでは決めかねる話なので、一旦国に持ち帰らせて欲しいと申し出た。その夜は城に泊まり俺とテオが同室で他の二人ずつにも部屋が宛がわれた。
「テオはどう思う」
「人間の決まりは良くわからん。だが、簡単には返事をするな」
今回ちっこいオッサンは出て来てくれない。テオが見張られているからだと教えてくれた。見張りがいるせいでテオも人間のままでいた。カイラスが居れば適切な判断をしてくれたのに。
翌日はカレッサの案内で軽く国内を見て回った。四人乗りの馬車にはカレッサと騎士、俺とテオ。続く馬車に四人は乗っている。
「ユキツネ殿はその獣人を信頼しているのだな」
「俺の護衛だし、とっても強いからな。いてくれれば安心だ」
「大陸ではユキツネの護衛の獣人みたいな者は差別されている。何処にいようとも」
それは俺も感じていた。本来は霊獣とは崇められる対象らしいのだが、テオが人になる時は四つ耳だ。人でも獣でもないと居場所がない。
「俺にとってテオはテオで、姿形は関係ない」
まあそうは言っても獣の時が一番嬉しいけどさ。手触り最高だし。猫っぽいところが堪らない。
「エルフやドワーフも嫌う人間もいる。ユキツネ殿の国は全てを受け入れるのだな」
「だってそんなに変わらないだろう。言葉が通じてわかり会える。それで十分だ」
「そうだな。王とはそうあるべきだ」
リンドガルディアはいい国だ。街も整備されてて活気がある。これだけ多くの人を抱える国王は大変なのだろうな。まだまだ新米の俺には想像もつかないけれども。




