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30. 首都はスパイシーな薫り

 

 冒険者ギルド。ゲーマーならそう聞くとワクワクするだろう。テンプレの怖いお兄さんは居なくって、何だか余り活気もない。


「人がいないな」


「今は昼間だ。こんな時間に来るヤツは少ない」


 最もである。受付に行って登録の手続きをする。書類に名前、年齢、職業又は得意な事等を書くのだが、さっぱり読めない。テオが代わりに書いてくれた。


 受付のオッサンもやる気無いな。ここは美人のドジっ子がいてほしい。事務手続きを済ませると、依頼ボードを除き混む。


「初心者はここだ。草むしり、ドブさらい、ペットの世話とかだな」


 冒険要素が何もない。普通にアルバイトの紹介って所か。まあ戦えないけどさ。期待したイベントは名にもなくギルドを後にする。しかし国民探しか…… どうやって募集したら良いんだろう。


「国民ってギルドで募集出来んのかな?」


「よその国で堂々と勧誘する気か」


 テオの言い分も最もである。エルモニアみたく王城に乗り込む訳にも行かないし…… 詰んだな。


 一応他所を見て回る事で気付く事もあるだろう。この国の首都もそんなに遠くはない。リンドガルディアはこの大陸で最も繁栄した国である。エルモニアの三倍はある国だと門番が言っていた。


 夕方になり宿でエレノアと合流する。宿で夕食が出るので一緒に食べる。普通の塩味の鶏肉とパンくず野菜のスープ。エルフ村のパンよりもパサッとしている。


「ユキツネのせいで、味覚が贅沢になっちゃったわ。ユキツネの手料理が食べたい」


「俺は料理人じゃないってーの。大体普通は女の子が料理してくれる方じゃないの」


「料理人は男ばかりじゃない」


 正論である。旅の間も米や芋を美味しく食べていたが、流石に宿屋に居るときは料理はしたくない。


「この魔法の粉をかければどんな肉も美味しくなるぜ?」


 そう言って小さな瓶を取り出した。何にでも使える万能スパイスである。


「カレー粉じゃないの」


 エルフ村ではカレーが大いに流行った。俺が教えたスパイスや森の材料も使って各家庭で競ってスパイスを作っている。特別に配合したカレー粉を旅の調味料として持たせてくれた。普通のカレーは勿論、肉にかけたりスープに加えたり、何でもカレー味にしてしまう物だ。


「今はカレーって気分じゃないの」


 当然エレノアもカレー味に馴れている。お気に召さなかった様だ。


「それはなんだい?肉が美味しくなるって」


 突然隣のテーブルから声が掛かった。四人組の男の一人が聞いていた様だ。


「特別なスパイスだよ。贅沢に色んな香辛料を使っているんだ」


「それは是非とも味わってみたいな。金なら多少出すよ」


 こんなところで小銭を稼いでも仕方ない。少しだけ出してやる。


「この粉に肉をつけるとうまいぜ。本当は煮込んだ料理の方が良いけど」


 皿にカレー粉を出してやると臭いを嗅ぎ、肉を付けて恐る恐る食べる。すると。


「ほう、こりゃあ香ばしい。何とも言えない複雑な味がするな」


 男は仲間にも粉を付けて食べろと促す。他の連中もおっかなびっくり口をつけた。


「おお、こりゃあ驚きだ。これは結構な値が張るんじゃないのか?」


「ふふーん、ユキツネの料理は凄いのよ。何でも美味しく作るんだから」


「おい、余計なこと言うな」


「ほほう…… それはまた。是非ともうちの屋敷で味わいたい物だ」


 くっそ、エレノアのせいで余計なイベントが発生してしまった。俺は異世界料理人ではない。ただの王様である。


 その後もお断りしたのだが、是非とも主に食べさせたいとお願いされてしまった。彼の主は首都に住んでおり、俺達も首都を目指しているので断りづらくなってしまった。おのれエレノアめ。


 そんな訳で十日後に首都の広場で落ち合う羽目になったが、次の日も町を見て回って夜明けに首都へと旅立った。門番に盗賊の件で報奨金が出るから、これを持っていけと札を渡された。手配書の出回っている盗賊は金に成るらしい。


 首都に行く道には幾つかの旅の商人等がおり、安全に旅が出来た。トカゲは馬に抜かれまくりで、俺達はゆっくり首都へ向かった。


 首都はこれまでよりも大きな壁に囲まれていた。出入りも多く待ち時間も長かった。トカゲは馬に嫌われるので、入り口が別だった。他にも何かヤバそうな生き物を乗り物にしてる奴もいた。

 あれってティラノサウルスじゃねえの?みたいな嘴が在るから鳥?背中にオマケみたいな羽が生えているよ。

 ダンゴムシみたいのが、触手伸ばしてるのとか絵面的にアウトなんだけど。


 うちの子は亀とゾウの中間みたいなので良かったよ。


 門番のおすすめの宿に向かいその日は就寝。翌日に役所に行って町で貰った札を差し出す。報奨金を貰って首都を歩く。結構発展しているな。大きな建物が目立つ。

 首都で他国に行きたい人がいないかと市場で聞いてみるが、この国は一番安全な国だから、出たい奴は少ないと。


 確かに活力に溢れ、発展している良い国だと分かる。野菜だけは豊富なヒ・イズルとは偉い違いだ。今日もエレノアが別行動なのでテオと歩く。あんなのでも女子が居ないと淋しい物だ。テオは無口でなに見てもリアクションが薄いし。


 折角遠くまで来たのに収穫を得られないまま、待ち合わせの日となった。約束の時間に広場で待っていると宿で出会った男、ジョンさんがやって来た。


「やや、ユキツネさん。良く来て下さいました。さあ此方の馬車にお乗り下さい」


 立派な黒塗りの馬車が出迎える。三人で乗り込むと馬車は一軒の大きな邸宅の門を潜る。何部屋有るんだろう。玄関には執事とおぼしき老人が出迎える。メイドに案内され厨房へと向かった。


「此方のが厨房です。材料は豊富にございますが、足りない物は使いを出しますので申し付け下さい」


「あんたが流れの料理人かい。俺はこの厨房を預かるケバブってもんだ。宜しくなあんちゃん」


 何やら美味しそうな名前の料理人来た。そして俺は料理人ではない。おのれエレノアめ。


 テオにも皮むきを手伝ってもらおう。先ずはカレーだな。カレー粉見せたから、カレーで良いだろう。材料を刻んで炒めて煮込む。米も沢山持ってきたから、米を炊く。


 付け合わせの野菜を用意する。そして玉子草が売っていたので、マヨネーズもどきを作る。おしゃれにスティック状にして、グラスに盛ってみたよ。


 デザートを用意する。生憎俺にはレパートリーが少ない。だがここにはあったぜ玉子と牛乳。プリンを作る。カレーにプリンはミスマッチだが仕方有るまい。


 夕飯に併せ用意したそれらを、料理長と一緒に運ぶ。ご当主様との御対面だ。


「ダルウィン様、本日此方の料理を用意してくれたユキツネと申す者です。旅の途中に無理を言って来てもらいました」


「ユキツネ殿ですか。ダルウィン・デルケッシェと言うものです。私は商会を営んでいまして、変わった料理に目がないのですよ」


 ダルウィンさんは丁寧に挨拶してくれた。俺も名乗り握手を交わす。


「それにしても随分と独特な匂いがしますな。この距離でも薫りが届きます」


「旦那様、コイツは病みつきになる、危険な料理ですぜ」


 料理長のケバブは当然試食をした。不味い物は出せないからと。結果お代わりしようとするのを慌てて止めた。大男のケバブが食べ出したら全部無くなりそうだ。


 ワインと水を用意し、カレー、スティック野菜を出す。スパイスの香ばしい薫りが充満している。スプーンを口に運び一口。


「これは………… 」


 その後は次から次へと口に運ぶ。そこで俺は取って置きのヤツを出す。


「ダルウィンさん、これを少し振りかけると、味が代わりますよ」


 エレノアがやらかした唐辛子の粉を置く。少量を取るように小さなスプーンで。ほんの少しにするように注意して、食べてもらう。恐る恐る食べたが、やっぱり刺激が強いようだ。


 カレーを堪能した後はプリンを食べてもらう。黄色くプルンとした見た目にダルウィンは目を丸くする。食べて更に驚く。


「これは玉子なのか?甘くて上のソースは苦みがあって香ばしい」


 砂糖は今回持参したとうきびである。甘味が一般的なのかは分からないから、持ってきた。


「まさかこれ程の料理に出会えるとは。どちらも素晴らしい、洗練された料理です」


 ダルウィンに料理を気に入ってもらえたようだ。


「ユキツネ殿、王都に店を出しませんか?ユキツネ殿なら繁盛間違いなしです。投資は惜しみませんよ」


 話が変な方向になってきた。おのれエレノアめ。


「俺は料理人じゃないし、やる事があります」


 そう告げるとダルウィンはとても残念そうだった。危うく国造りからさすらいの料理人になるとこだったよ。









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