28. 森の外へ
前回までのあらすじ。ユキツネは勢い良く旅立った。
旅は順調…… かにおもえたが。ザワザワと葉が揺れ、ウホウホと騒がしい声がする。そのうちざわめきは大きくなり、ギャアギャア喚く声にすっかり囲まれた。
猿だ。白くって人間位に大きい。真っ黒な顔に赤い瞳、長い牙。チビッ子が見たらお漏らししちゃいそうな強面の猿。それが何十頭も居るんだ。エレノアは立ち上がり、腕に仕込んだクロスボウを構える。
ドワーフが作ってくれた物で、魔力を媒体に普通の弓よりも攻撃力が高い。バシュ!と音を立てると一匹の猿に命中した。
「ギャワア、グゲグゲ!」
仲間が一匹やられた事で他の猿が騒ぎ出す。だがその時テオが現れた。車から出ると、その姿が変わる。黒光りする美しい獣へと。
「えっ、ちょっと嘘でしょう?!」
そう言えばエレノアに何も言ってなかったな。ま、今更だしいっか。テオの姿を見た猿共は、ウホウホ鳴き始める。
「グヲォオオオオ!!」
テオの鳴き声を聞いた一匹の猿が叫んだ。それを合図に猿は逃げ出した。ついでにトカゲもプルプルしてる。テオってそんなに怖いのか。
「ユキツネどういう事?説明してよ!」
いかん、エレノアさん激おこである。仕方がないので説明する。俺もテオの事は今一はっきりわからんのだが。
「…… って事でテオは霊獣?なんだと」
「霊獣…… 。噂でしか聞いたことないわ」
本来の姿に戻ったテオはすっかり寛いでおられます。毛繕いに余念がない模様。
「まー本人もあんまり喋んないし、拾われた恩返しみたいなもんかな?」
我関せずのテオ。エレノアに正体がバレたのでそのまま素の姿でいる様です。寛いでんな。テオの声にビビったトカゲもどうやら立ち直った様子。そのまま進める。
遠巻きに猿達の咆哮が聞こえるが、テオを恐れてか手出しはしないみたいだ。暫く進むとテオが立ち上がった。
『ユキツネ、この先に大きいのがいるから、ちょっと行ってくる』
テオは飛び降りて先に進んでいった。トカゲがちょっとビビってる。テオが居なくなるとちょっぴり不安だ。二十分も経った頃だろうか。テオが大きな獲物を抱えて現れた。
デカい。テオよりも一回りは大きいそいつは猪みたいだ。凄いの捕まえて来たな。
「グレートボアじゃないの。それ、狂暴なのよ」
テオが人型に戻る。
「凍らせておく。開けた場所で解体しよう」
テオがそう言うと、猪はピキピキと音を立てて行く。ロープで縛って荷台の後ろに吊し上げた。
「あなたそんな魔法も使えたの?凄いわ。何でユキツネの所にいるのかしら」
確かにテオなら一人でも生きて行ける。出会った時は倒れていたが、空腹だったみたいだし。エレノアの問いには応えず荷台の奥に引っ込んでしまった。猫科だから気紛れだな。
「ユキツネ凄い仲間がいるのね」
「まあ悪いヤツじゃ無いんだ。テオは無口だからあんまり自分の事、話さないんだよ」
その後開けた場所に出ると、猪の解体が始まった。木に吊るして皮を剥ぐ。ちょっとグロくて俺はビビる。
「ユキツネも手伝いなさいよ。大きいから大変なの」
やりたくないとは言えない。大丈夫、これはお肉だ。ただのお肉。包丁を取り出して、皮を剥ぐ。お肉ってこんな風に作ってるんだな。直ぐに油まみれだ。何回も包丁をぬぐって切って行く。はぎ終わればすっかり日が暮れていた。
「それしても勿体無いわ。こんなお肉塩漬けにしても余ってしまうし」
「凍らせて運ぶから問題ない。町で売れる」
「本当?!やった!毎日お肉が食べられるわ」
肉食系エルフの女子である。その後も解体を進めて内臓と頭は少し離れた場所に埋めておく。他の獣が食べるだろう。解体は二人に任せて俺はご飯の支度だ。今日はシンプルにポークステーキだな。味噌汁とパンと。
「肉、固いな」
「普通は熟成させて食べるのよ。まだ新鮮だからね」
醤油に砂糖を加えた甘辛のタレで食う。肉は叩いとけば良かった。肉って新鮮な方が良いんじゃ無いんだな。テオは肉を五枚も食べた。固いのも気にせずどんどん食べる。
トカゲにも肉をやった。口が大きい割りにチマチマ食べるな。テオは獣の姿になり、三人で荷台にこもり寝る。横にはなれないので座って寝る。外で異変が在ればトカゲが暴れるからと。
森にいる間は外に見張りをたてないが、森を出たら用心が必要らしい。この世界で一番怖い動物は人間だから。
翌日も日の出と共に進む。大きな木や岩を避けてうねった道を進み、ゆっくりと。獣になったテオが声を上げれば大抵の魔物は近づかない。最初はビビっていたトカゲもテオに馴れて来た。
時々テオが降りて森の中に走って行く。恐らく危険なヤツを排除しているのだろう。テオのお陰で安全に旅が出来る。そんな生活が二十日も続いた頃。とうとう森を抜けた。
視界が開けた事で人口物が見えた。あれは人の住む町だ。町を目指し車を急がせる。ゆっくりだけれども。そのまま日が暮れて荒野で一泊。日の出と共に進み、やっと町に着いた。
「トルオルスの町へようこそ!」
証明書だけで簡単に入れた。三人はそのまま門番の紹介した宿屋を目指す。この旅の足である地竜が泊まれる宿屋が一軒しかないからだ。思わぬ落とし穴である。
馬車を引く生き物は何種類かいるが、馬が嫌がる生き物は一緒に泊まれないのだった。
「トカゲ駄目じゃん」
「仕方ないよ。馬は高いし足の早い生き物の方が人気あるもの。こっちは安いけど遅いから、人気は低いの」
乗り物としてはマイナーなトカゲは泊まれる場所が少なかった。宿に行き俺とテオ、エレノアは一人部屋に別れ泊まる。テオが元の姿になったので、ブラッシングして心を癒す。
町を見るのは楽しみだな。その日は早めに就寝した。




