2.人間って現実逃避したくなる時ってあるよね
見慣れない傘の付いた照明が目に付く。気付けばは畳の上で大の字になっていた。馴れない引越しの作業で疲れていたのだろうか。随分と奇妙な夢を見た気がする。
「小さなオッサンなんて居るはず無いよな」
壁掛けの時計が示した時刻は夕方の四時三分。二時間くらい眠っていただろうか。まだ家の隅々まで確認して無かったな、と廊下へ出る。
トイレ、風呂、台所とこぢんまりだが使い勝手は良さそうだ。部屋は六畳二間、庭には物置らしき建物。独り身には余裕の広さだ。
「おお主殿起きられましたか」
そっと和室の扉を閉める。縁側に小さいオッサン…… いや、目の錯覚に違いない。
「主殿〜、主殿っ! 主殿ぉ」
それぞれ違った声色で呼ばれる。大体いつの間に小さいオッサンの主になったと言うのか。
仕方ない、意を決して扉を開ける。うわ、その光景にオレは絶句した。オッサンが一、二、三…… 十人いる。こんなのが十人も住んでいるとは、何ていうかこの家ダメだ。
「主殿、動揺していると思いますが、話を聞いて下され」
オッサンの代表なのか、最初に現れた小人が話し掛けて来た。
何でもこの小人、行き倒れていたのをオレの爺さんに助けられたんだそうな。小人のオッサンは住まいが必要で、そううち明けたらこの家に住めばいい、と爺さんに勧められた。
オッサン等は家に付く妖精で、住処を失い倒れていた。新しい家に付くには主の許可がいる。爺さんに許可を貰ったオッサンは、同じ境遇の仲間を呼んで気付けばこの大所帯になった。
過疎化が進むこの地域では、人間に気付かれずひっそり暮らしていた小人達も、大勢が行き場を失った。そのままでは消えていく運命なので、妖精を受け入れてくれた爺さんの元にこうして集まった。本来彼等はひと家族に一人が基本なのだが。
こんな田舎の村では気味悪がられて追い出されてしまう。だが、今まではこっそり暮らしていけたのだ。追い出されたらもうその家には戻れない。ここに居るのはこの村で生き残った者達なのだ。だから、と続ける。
「主殿、わしらを否定せんで下され。ここを出たら消えて無くなるしか無いのじゃ」
と、ここまで話を聞けば流石の俺でも追い出す気にはなれない。そこまで人非人では無いのだ。
「わしらは此処に住まう代わりに、家を護る事が出来ます。手入れをし、田畑を耕し、繁栄させるのです」
成程、爺さんが居なくなったのに、埃一つ無い家。綺麗に整った庭木、雑草の見当たらない庭。
これらはオッサン等の管理によるものか。自由気ままな一人暮らし+十人の小人…… 。
精神的にどっと疲れた俺は、その日はカップ麺を啜って早めに寝ることにした。
願わくばこれが現実でありません様に、と祈りながら。