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19. エルフの生活

 

 私の名はジルフィン・ル・トゥレーユウス。少し前迄は一介の狩人に過ぎなかった私が今や村長。飛んでもない冗談だと言いたくなる。

 私達の中でも最年長の男、カレスは肉体を使うのが得意で余り村長向きでは無かった。私はまだ三十九才でエルフとしては若造に過ぎないのだが、仲間内で一番、村長に向いていると思われていたので、おさに選ばれてしまった。


 以前の村には三千人程いたエルフは散り散りに成ってしまった。別れた仲間は心配だが、日々の生活で精一杯だ。

 しかしこの森は危険だが、素晴らしい王がいるお陰で生活は潤っている。別れた仲間に申し訳ない位だ。

 そんな王が最近街に人間を招き入れた。いずれはそうなると思っていたが、人族に村を乗っ取られた私達には複雑な心境だ。


 だが王が連れて来たのは私達が考えていたような人間ではなく、余り役立ちそうにない、貧しい人達だった。しかも大半が子供。


 そう、私は思い違いをしていたのだ。王は国を大きくする事より、貧しい者に手を差し伸べるそんな人物。

 私達エルフを呆気なく受け入れたのだって、思えば予想外だった。街を出ると言えば離れた場所に村まで作ってくれたのだ。私達はこの国を繁栄させねばなるまい。

 この国を大きくする事で他国と交流を持ち、離れた仲間を探して出来るならば村に招き入れたい。


 エルフの村は完全に私に任されている。村をどうするかは自由にしていいと言われた。王は謙虚な人物で余り欲がない。そして精霊を十人も抱えていると聞いた。


 驚きである。精霊に好かれているのは知っていたが、尋常な数ではない。エレノアがその目で見たのだから、間違いないだろう。最も既にこれだけの街を築き上げる事の出来る精霊。その力を疑う余地もない。


 王が隣国に出向いた先で、カイラスが精霊が王の手助けをするのを見た。色とりどりの光に包まれた玉が、王宮に風穴を開けた。昔から精霊の怒りを買えば国が滅びる、と言う伝承がある。

 それを見たものは少ないだろう。滅びた国には廃墟しか残らない。


 隣国の王はそんな精霊の怒りを買ったのだ。王宮の損傷だけで済んだのはいい方だろう。これで隣国がユキツネ殿に手出しをする事も有るまい。

 以前に他国で働いていたカイラスは、その光景を見てうち震えたと。これだけの街を作っただけでも凄いが、実際に目に見える形で精霊が現れたのは、大変な事態だ。


 エルフの同胞は精霊の友となりたいと考える。精霊は身勝手な人間には目もくれず、自身の楽しい事だけを考える存在なのだ。

 我が王であるユキツネ殿が無欲で精霊の友である限り、我が国ヒ・イズルは発展するのだ。


 ユキツネ殿はここに来る以前は普通の人だったと言う。だからだろうか様々な料理で我々をもてなしてくれる。

 ユキツネ殿に頼まれて作った醤油と味噌は劇的に我々の食卓を変えた。ダイズと言う豆を発酵させただけで、万能の調味料が出来た。味噌はスープで味わい、醤油は肉の旨味を引き立てる。


 最近ではカレー成る食べ物を教えてくれた。他国で売れば値が張る香辛料をふんだんに使った贅沢な料理だ。一度食べれば何度も食べたくなる、禁断の味だ。エレノアは気軽に畑から採ってくるが、贅沢な食事なので余り頻繁に採らない様に注意した。


 彼女━━━ エレノアも複雑な立場だ。人族ならば成人として扱われるが、エルフの社会ではまだ子供扱いされる。彼女も親が一緒ならば子供でいられたが、魔物の襲撃で親とはぐれてしまった。以前の様な場所ならば狩りに連れて行っただろうが、この森は危険だ。

 彼女を親に返すまでは大切に護らねばなるまい。だが、小さな子供でもない。そんな彼女が選んだのが食料の運搬。結果ユキツネ殿と仲良くなり、いい関係を築いている。ユキツネ殿がもっと長生きならば、是非とも彼女と結婚して欲しい。いや、彼女じゃ無くともいい。子供達だってすぐに大きくなる。


 だが、彼は駆け足で歳をとってしまう。これは私の身勝手な願いだから、胸の内に秘めておこう。そもそも私達エルフは結婚している者は少ない。

 この村は偶々夫婦が多くなったが、長生きな分恋愛の自由度が高い。大抵は恋人関係で子供が出来れば結婚、と言うのが大半だ。私もまだ若く、今は役割を全うするのに精一杯で結婚どころではない。


「ジルフィン、何してんだ」


「ああ、ニールか。私達の今後を考えていたのだよ」


「村長も大変ッスね。俺には無理だな」



 等と言いながら笑顔を向けてくる。年齢も近い彼は善き友である。


「そんな事よりテンプラ食べましょ。女性陣が作ってくれたし」


「テンプラ?」


 集会所兼、自宅を出ると何やらいい香りがしてくる。


「あっ、ジル…… 村長、テンプラが出来ました」


 どうやらユキツネ殿の新しい料理のようだ。今までの私達の生活では、シンプルな料理が多かったが、ユキツネ殿は様々な料理を作ってくれる。


「テンプラー」


「テン、プーラー」


 子供達が愉しそうに料理を頬張っていた。ここに来るまでは苦労した子供達も、大分明るい顔を見せるようになった。以前にユキツネ殿にテレビなる魔道具で、広い世界の映像を見たと言っていた。


 ここでは滅多に降らない雪に覆われた真っ白な山並み。塩だけで出来た湖。果てしなく広い海。世界にはまだ知らない場所が広がっているのだと、子供達に教えてくれた。

 私は村長となり村を出る事もないだろうが、子供達はいつか広い世界に旅立つかもしれない。


「何だこれは?」


 集会所の前に置かれたテーブルに、白っぽい塊が置かれている。汁か塩で食べるものらしい。フォークを伸ばすと子供達に注意を受ける。


「村長いただきますだよ」


「だよぉ」


 ユキツネ殿が食事前に言う、全ての物に捧げる感謝の言葉だ。


「いただきます」


 サクッ。不思議な食感と共に、口一杯に広がる風味。野菜の旨味を凝縮して閉じ込めたみたいだ。食べなれた山菜もこうすると、まるで別の物に感じられる。


「この間ユキツネ様が新しい住人に振る舞っていたのよ」


 ユキツネ殿は実は料理人だったのだろうか。とても上質な衣服を持っているから、貴族かとも思ったのだが。貴族でも軍人ならば野営の経験も有るかもしれない。


 …… ユキツネ殿に荒事は無理だな。今でこそ体力が身に付いたものの、普通に歩くだけでも精一杯の様子だった。やはり何処か遠い地の貴族で道楽で料理を覚えたのかもしれない。


 いずれにせよ我等の暮らしを豊かにしてくれる王は、かけがえのない存在だ。ただ、優し過ぎる性格は時に非情な判断を降さねばならない時に邪魔になるだろう。


 村で一番頭のいいカイラスが将来王の宰相となり、彼の代わりに判断を降してくれればいい。カイラスは知恵は回るが他人の機微に疎い。その代わり冷静に判断を出来る人物だろう。


 私は村の平穏と国の繁栄を願いつつ、国王を見守ろう。彼の進む道が決して悪いものにならない様に。





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