16. 隣国での謁見
俺、桧山祐紀経は王様に ━━━━━ なった?ので、取り敢えず国民を集めなきゃならないらしい。
何もない所にエルフがやって来て、ドワーフもやって来た。彼等の暮らしを良くする為には、もっと人材が必要だ。そこで国を興した宣言をすべく、先ずは手紙を送った。
俺は此方の文字とか、そもそも何を書いて良いのかも分からないので、エルフの一人が書いてくれた。
しかし手紙を書いたからと言って、国を作ったから会いたいなんて要望が簡単には通らないと予測された。
隣の国の郵便ギルドに以来し、手紙を届けて貰った。返事もそこのギルドに届く予定。
郵便ギルドと言ったが、郵便専門ではなく何でも屋と言って良い。要は宅急便みたいな商売だ。地方の村なんかは番地みたいなのがないから、郵便物を局留めみたく預かってくれる。
手紙を出してから一ヶ月後、会うだけ会ってみると返事を貰った。
初めて王様として他国へ赴くのか。
「緊張するなー」
「カイラスも一緒に行くから大丈夫だよ」
エレノアの言うカイラスって人は、エルフの中でも唯一王都に住んだ事があって、お役所みたいな場所で働いていたんだって。今回の件も色々手を回してくれたんだ。
それと護衛役としてドワーフ族のゴルドって人が着いてくる事になった。まあ王様の取り巻きが二人っ切りなのはしょうがない。更に約束の日までに話す内容等を煮詰めて、いよいよその時を迎えた。
「じゃあ行ってくるよ」
エルフの村の全員が見送りに来てくれた。お気をつけてなんて独身の美女二人に言われれば、鼻の下も延びようってもんだ。
「ユキツネだらしない顔してるよ」
「エレノア五月蝿いぞ。お前も少しはしおらしく見送れよ。折角の気分が台無しだよ」
転移専用の小屋に入り、ジルフィンが呪文を唱え魔力を載せる。俺達三人は王都付近へと降り立った。
王都に入ると俺達三人はとても目立った。 今日は国を代表しているので、三者三様の正装で臨んでいる。
カイラスは役所で働いていた時の正装、ゴルドは護衛だから鎧姿、そして主役である俺の正装と言ったら。
「ユキツネ殿、とても変わったデザインの服ですね。見たこともない生地で仕上げられているのが分かります」
カイラスは感心したように呟く。俺の服はスーツである。紺色でストライプが斜めに入ったネクタイ。ダークグレーのスーツ。会社ではラフな格好で出勤してたから、ほぼ新品のスーツだ。
既製品ではなくオーダーメイドの品だが、片手で足りる程しか出番がなかった。母と姉からの就職祝だった。
王都に来て最初に向かったのが、馬車のレンタル屋だった。貧乏な貴族とかは御者ごとレンタルするんだって。そんなシステムあったのか。
貴族の住む街は壁で区切られていて、入るには審査が必要になる。カイラスが胸元から取り出した物を見せると、アッサリと中に入れた。
王城に着くとここでもカイラスが門番とやり取りをして、中に入る事が出来た。馬車が城の正面に着くと、カイラス、ゴルドが降りて最後に俺が降りる。二人共に胸に手を当て、敬意を示す。
「我が王の御前である。敬意を持って出迎えよ!」
周りの兵士にカイラスが告げると皆が整列し、胸に手を当てた。ゴルドの背負っている斧が取り上げられそうになったが、カイラスが一括すると兵士は怯んだ。
護衛として認められ、謁見の間に進む。
謁見の間に入ると整列した兵士、更には綺麗な模様の入った鎧を纏った人物が数名王を取り巻いていた。多分あれが騎士だろう。
王はイメージ通りの中年のやや小太りな、髭面の男だ。
玉座の前まで行くと、カイラスとゴルドは俺の後ろで片ひざを付き頭を垂れる。俺は突っ立ったままだ。
「ふん、良く来たなと言ってやろう」
カイラスの予想通り、偉そうな男だ。
「この度は私との対面をお許し下さり誠に感謝する。我が名はユキツネ、ヒヤマ。隣国の王に成った者だ」
舌を噛みそうな台詞を何度も練習した。
「それで貴様は何をしに来た?野猿にくれてやる物はなにもないぞ」
王の取り巻きの騎士がクスクスと笑う。
「俺は国民が欲しい。貴国ではスラムに住んでいる者が多くいる。それらを引き受けたい」
「ほう?あの様なクズを欲しがるとは、流石は野猿。我には考えも及ばん」
「彼等を引き受ければ、貴国も治安が良くなろうと言うもの」
「ふ。断る。大人しく山に帰るが良い」
王が言い放った所で、騎士が口を開く。
「我が君、この者が私に勝てれば下民を与えても宜しいのでは?」
「ほう…… それは面白い。ユキツネとやら、我の騎士と戦ってみるが良い!」
無茶振り来たよ!俺に戦闘能力なんか、皆無だっつーの。
「ま、待ってくれ。俺は戦えない」
「ほら、訓練用の剣を貸してやる。かかってこい」
騎士が合図を送ると後ろの兵士が剣を持ってきた。これって予定調和ってヤツじゃないの。有無を言わさず剣を握らされる。
「お待ち下さい。我が王の代わりにここのゴルドが戦います」
カイラスがナイスフォローを入れる。
「ならん、余はこ奴の戦いが見たい」
この腐れ王様、ニヤニヤと人を見やがって。嫌がる俺に騎士は剣を向けてきた。
「先に攻撃する事を許可する」
無理、絶対無理。その時だった。俺の前に光の玉が現れ、騎士の構える剣にまとわりつく。
「な、なんだ?!」
騎士が戸惑っていると、騎士の剣が錆び付いて来た。
「わ、我が家の家宝が!」
騎士の剣はボロボロになってしまった。
『我が主に対し、これ以上の暴利は許さん』
「ドノム?」
ちっこいオッサンの代表、ドノムの声が響いた。すると光の玉が
次々現れ、王の座る玉座が崩れた。
「何事じゃ!何だこれは」
周りの兵士が一斉に剣を抜くと光が素早くまとわり付き、その刀身をボロボロに変えて行く。
『我が主を傷つける者は、精霊に敵対するものと考えよ』
『我が主は我等の庇護にある。我等は主を護る』
『主殿に仇を成すならば、この城を瓦礫と化してくれようぞ』
そう言うと、城の外側の壁が砂となって崩れ落ちた。あまりの事態に兵士達は怯え、うずくまる者もいた。
「我が王は精霊に愛されし者だ。我が国ヒ・イズル国は独立を宣言し、貴国の干渉を拒む。尚、スラムの住人は希望者を受け入れるが宜しいか」
カイラスは朗々と延べると玉座から転げた王が、口を開いた。
「解った、貴殿の国、ヒ・イズルを認めよう。スラムの住民は好きにするが良い」
「ご理解頂き有り難く存じます。努々今日の出来事を忘れませぬ様に。精霊の怒りを買えば、国などは簡単に滅びます」
カイラスの綺麗なお辞儀を見て、何か映画を見ているみたいだと思った。すっかり吹き抜けになってしまった謁見の間を後に、カイラス、俺、ゴルドの順に退場する。
兵士達はすっかり怯え、黙って俺達を見送った。
「ユキツネ殿の精霊は素晴らしい。とても貴方を大切にしてらっしゃるのですね」
「俺は出番が無かったな。ひと暴れぐらいしたかったが」
カイラス、ゴルドはそれぞれの反応を見せる。滅多に人前に現れない精霊が、こんな大勢の前でその力を見せつけた。これは希な現象だとカイラスは言う。
精霊は気まぐれで基本、快楽主義だ。楽しい事に全力を尽くし、たまに人に手を貸す。そんな伝説上の生き物が人前に現れたのだ。精霊の怒りを買って国が滅びたと言う伝承は幾つか存在するらしい。
勿論直接見た人は少ない。そんな話は只のおとぎ話だと、誰もが呟く。それを直接見ることが出来たのは幸運だったとカイラスは言った。
「村に帰ったら、是非とも書き記さねば。後世にヒ・イズル国の功績を書物に纏めます」
そんなこんなで、色々あった謁見も何とか済んで無事に帰国を果たした俺達であった。




