新手のガラクタ
「早く先に!私が食い止めます!」
階段から響く香織の声を、 Eridanus は鼻で笑い飛ばした。
「言ってくれる。お嬢ちゃんに出来るかな」
……まずは小娘!
ナイフを構えて踊り場へ。
しかし、誰も居ない。足下に小型のスピーカーが……。
「騙しゃぁがったな!」
踏み潰した瞬間通電、 C-4 が発火。踊り場の一角ごと Eridanus を校庭に吹き飛ばした。
- 屋上 -
「どうにも派手だね」
息荒く涼介を下ろした藤岡は、未だ微動する屋上にどかり、と腰を降ろした。胸ポケットより煙草を一本、くわえてライターを探る。
「駄目ですよ先生。煙草は体に悪いんです」
手を止めて振り向いた。
「涼介。気付いたか」
そこには思ったより明るい涼介の笑顔があった。
「いやぁ、みっともないトコ見せちゃって、すいません」
- 校庭 -
Tomcatが現着最初に目を引いたのは、 4 階と 2 階の黒煙だった。
「おいおいおい、随分と派手だなぁ」
シン・オルコックは呆れて呟いた。
「姉さんがやったのか?」
『いや、 2 階は rabbit だ。 Minx は通信システムの不調で現在不明』
「あの人のことだ、無事だぜ多分」
と、熱源センサーが不振な動きを捉えた。
「姉さん……いや、AMと少し違う」
小型の……報告にあった機体。
「なるほど……。 phantom 、交信終了だ」
『おいどうした!』
一部空間が揺らぎ、黄色と黒でドクロのペイントを入れるAM、 Tomcat が姿を見せた。
Eridanus も Tomcat の存在に気付いたようだ。
「新手のガラクタか」
各所に焦げ目を付けた機体はナイフを構えた。
「笑わせてくれるぜ。 tool set 、 Gun!! 」
Tomcat のツールボックスより銃が右手に送り出された。
Tomcat を敵と認識した Eridanus は、ナイフを突きの構えで走る。背中のスラスターが更に加速させた。
「ぇヤァァァァ !! 」
それをシンは 3 連射。
常識外にホットロードされた弾丸は初速マッハ 7 を超えて射出。ソニックブーム ( 衝撃波 ) で校庭をえぐり、全弾 Eridanus の左手に集中した。
「ぐぉ!」
左手に命中……いや、ナイフを撃ち砕いた。
「やってくれる!」
更に連射……。しかし、銃身に目を移すと、衝撃波と薬莢の高温に耐えかねた金属が割れ、溶けただれていた。
「だぁ、使えねぇ!」
シンは銃を投げ捨てた。
「 tool set 、 knife!! 」
ツールボックスよりナイフが右手へ。そのまま Eridanus へ肉薄、胸に突き込んだ。
「くぅ……」
うめきを漏らしたのはシンだった。
「どうした、なんともねぇぞ」
Tomcat の膝、腰、肩、肘のモータは唸りを上げる。しかし、ナイフの切っ先は Eridanus の装甲を前にびくともしなかった。
……なんて堅さだ !!
- 屋上 -
「で、涼介。記憶が戻ったんだな」
「……はい?」
確信を以って訊いた藤岡だったが、涼介の反応に固まった。
「いやちょっと先生、俺の記憶、戻ったって……本当ですか?」
どうやらトボケている訳でもないらしい。
「何で逆に質問されにゃならん!あれをエリダヌスと呼んだのはお前だし、あれはお前を殺しに来たんだぞ !! 」
「そーいえば!先生、あれはなんなんですか !? 」
「それはこっちが訊きたい。AMのような生命体など……本当に知らないのか?」
涼介は肩をすくめた。
「知っているよーな、知らないよーな……。すごい頭痛と吐き気がきて、少し意識飛んでましたから……って先生、香織、銃なんか撃ってましたよ!しかも手榴弾まで。あいつ、なんであんなこと……」
屋上の扉が勢いよく開いた。
「それはね、あたしが GDS 東洋方面遊撃隊の隊員、 rabbit だからよ」
「香織……」
「おぉ、香織クン。無事だったか」
安堵する藤岡へ、香織はブイサインをしてみせた。
「あいつ、頭悪そーでしたから」
こういう所はまだまだ子供である。
「ちょっと、話まとめないでくれよ」
香織は涼介へ、ついぞ見せない真剣な顏を向けた。
「一般社会には秘匿された国際組織、 GDS 。私も、先生も GDS の職員なの。そして長官は私の父、赤城秀三」
涼介は一瞬言葉を失った。
「……悪の秘密組織?」
「違う!言うなれば正義の !! 」
どうも今一つ実感が湧かないようである。
「と、いうことはさぁ、香織は大学生にして社会人でもある訳か !! 」
妙な所に感心する涼介。香織は思わず頭を抱えた。
「知らなかった。香織、すごいんだなぁ」
「すごいのは涼ちゃんだよ。あたしの任務は涼ちゃんの護衛なんだから」
「え……俺、護衛されてたの !? 」
助けを求めるように、藤岡へ顏を向けた。
「護衛……と言うより、保護観察だ」
戸惑う涼介を、藤岡は正面から捉えた。
「実感がないのは当然だ。私の独断で、お前に普通の生活をさせた。ただ、 15 年前のあの日、墜落した異星人の宇宙船でお前を保護した時から…… 5 年前、冷凍睡眠から目覚めた時から、全ての謎がお前の記憶にかかってしまったんだ」
涼介は眉を顰めた。
「あたしだって実感なかったよ」
香織が肩をすくめた。
「さっきのアレが涼ちゃんを殺しに来るまではね」
そして、確に涼介は「アレ」を知っていた。
「くぅ……」
「涼ちゃん?」
再び頭痛が襲う。と、校庭に雷鳴のような轟音が走り、校舎の窓が一斉に粉砕。屋上にも爆圧のような烈風が襲う。
「なに !? 」
校庭を覗き込む。
そこには例の Eridanus と見慣れたAMが。
「 Tomcat !オルコックさん来たんだ !! 」
そして、頭上に一筋の光芒が。
『よう、 Wyvern だ。お姫さまの Rabbit 持ってきたぜ!』




