助けてみせます!
4
- 4階廊下 -
香織は廊下を駆け抜けつつ、内ポケットより通信機を取り出し左耳にセットした。その勢いでジャケットを脱ぎ捨てる。
「こちら rabbit 。 phantom 聞いてますか !? 」
鞄より帯嚢とショルダーホルスターを引っ張り出し、装着。鞄も投げ捨てた。
『 phantom だ。無事か?』
「保護対象(涼介)と joker (藤岡)も無事です。現場を離脱しました。現在 Minx が交戦中」
『了解した。現場の状況を詳しく報告しろ』
「不審人物乱入後、その容姿が変貌。例えるなら……AMのような……」
『なんだって !? 』
「そうとしか言いようがないんですよ!それが判別不能の兵器で横山祥子殺害。目的は対象の殺害です」
階段だ。
……下へ。
振り返ると、藤岡に引きずられるようにして、涼介は遥か後方だった。
「あぁ、もぉ!」
とって返す香織。
するとその時、足下を揺るがす衝撃が。
耳に一瞬の雑音。爆発による電磁波の乱れだ。
……なに !?
不吉な予感がよぎる。
『…… antom だ。 Minx が ライフ セーブ モード に入った !! 』
香織は一瞬固まった。
ライフ セーブ モード。AMが行動不能に近いダメージを受けた、或いは搭乗者が生命に関わる事態に陥った場合、自動で発動するシステムだ。
AMの実戦は初めてだが、まさか初舞台から……。
「そんな……恵ねぇが……」
『今は任務が優先だ。 Minx の支援は望めない。 Tomcat と Wyvern を向かわせた。それまで凌げ !! 』
「……了解」
香織は、ぱんと頬を両手で叩いて気合いを入れた。
「先生、涼ちゃんをおぶって下さい。校庭に急ぎます」
「あ、あぁ。任せろ」
未だ涼介は視点が定まらない。しかも支援は無きに等しい。
訓練で想定していた事態から考えれば……下から数えた方が早いくらいだ。
……それでも。
「絶対私が助けてみせます!」
それは、自分への激励でもあった。
- 医務室 -
「ちっ……」
Eridanus は舌を打ち、右手に目をやった。
手応え不十分。
「起きたばかりで調子が出ねぇか」
しかし、深追いしている場合じゃぁない。
「下……だろうな」
左手のナイフを床に振るい、コンパスのように切りつける。円形に抜けた床へ、 Eridanus の姿が吸い込まれて行った。
- 東階段 -
「先生、仮にも GDS のスタッフなんですから、頑張って下さいよ」
身軽な香織はいい。涼介を背負う藤岡は踊り場で作業する香織を睨めつけた。
「君ねぇ、僕ぁ非戦闘員だよ。それに年寄りは労るものだ」
「たまには運動して下さい。それに、英国紳士は年齢に関係なくレディー・ファーストですよ」
……ここは日本だ!
声を大にして言いたい。しかし、いざという時香織が動けなければ意味がないのも事実だ。
ふと、コンポジット4 (C-4) 爆薬に雷管をセットする香織が作業を中断した。
「……気配が」
香織は手早く作業を終え、口にくわえたマグライトの照明を落とした。
「……まさか」
「しっ」
香織は唇に指を立て、ホルスターの銃を抜く。 藤岡にハンドサインでその場を動かぬよう指示。safety 解除。ハンマーを起こし、下、2階へ足を忍ばせた。
既に気配は藤岡にまで感じられた。
彼女は壁に背を当て、呼吸を整える。
……1、2の3!
銃を構えて廊下へ。
「動くな!」
「うぉあぁ!」
人影が仰け反り転倒。
……げ !
「せ、先生 !! 」
香織は慌てて銃を戻した。
心理学助教授の大郷だ。
「き、君は赤城くんか」
大郷は眼鏡を直しつつ立ち上がる。
「まったく、遅くまで何をやっているやら……」
……やっばぁ。
話し出すと長い先生なのだ。
「す、すいません……」
「ところで、これは君のせいなのか?停電になる、電話も繋がらない。爆発音がしたみたいだが、警備の……」
不意に大郷の表情が固まった。
「先生?」
首がずれた、と思った直後、大郷の首が落ち、鮮血が吹き出した。
「いやぁぁぁ !! 」
不覚にも香織は悲鳴を上げた。
死に対する感覚の接続を切るための訓練は受けてきた。が、面前でこれは衝撃が大きすぎた。
「嘆くこたぁねぇ。次はお前だ」
首のない大郷の向こうに赤く光る、一対の目。
……あいつ !!
香織の頭は瞬時に切り替わる。
「先生ごめん!」
香織は大郷の遺体を Eridanus に蹴り倒し、階段へ飛び込んだ。
「……く、この!」
Eridanusは不意を突かれて出遅れた。
「香織クン、今の悲鳴は !? 」
藤岡の開口一番、香織は唇を噛み締めた。
「何でもありません……。ただ、あいつが先回りしてました」
「なんだって !? 」
藤岡の狼狽へ首を振る。
「予想は出来たことです。先生は涼ちゃん連れて屋上へ」
「しかし君は?」
香織は精一杯の笑みを見せた。
「すぐ追い付きます」




