AM
- 医務室 -
……人間?
隣、CT撮影室の外壁の爆発に反応し、緊急事態のZ三連を発信してしまったのだが。
「何者です!」
すでに撮影室に飛び込んでいた祥子の悲鳴にも似た詰問に、外壁より現れた男は首ごと視線を巡らせた。
異様な気配……しかし、見た目は 20 代の男性だ。しかも、東洋人。
「あんたには関係ない。その男、 pleiades( プレアデス ) を殺す邪魔をしなけりゃ勝手にしてな」
「な……させません!彼は私の患者です !! 」
祥子は涼介の前に立ち塞がる。
「やめるんだ、横山クン !! 」
衝撃でくらむ頭を振りつつ藤岡が制止した。
「嫌です!初めて反応が出たんですよ !! 」
「……そうか」
応じたのは男だった。
「なら余計に早く殺さねぇとな」
「ひっ」
「やめ……」
「先生下がって !! 」
香織だ。香織が藤岡を制止した。
彼女は鞄より鉛色の塊を引き抜き、 safety を解除。狙いを男の脚へ……すると、
「 Arm On!! 」
男より閃光が放たれた。
その、鋭い光で一瞬ぼやけた男の輪郭が、再び像を結んだ。
まるで、機械の鎧に身を包んだような……。
「何よそれ。まるでAM……ううん、それより無駄がない」
あまりの光景に、香織の判断が遅れた。
「はぁぁぁぁ !! 」
男の掌より光弾が放たれ、撮影室とそして、祥子を吹き飛ばした。
「横山クン !! 」
叫ぶ藤岡は、爆風に身を転倒させた。
しかし香織は……物陰で衝撃をやりすごしつつ唇を噛む。
……涼ちゃん!
呼吸を計って飛び出した。
その目に入ったのは、外壁全てを瓦解した撮影室と、青い光の球体に守られ膝をつく涼介。
「……涼ちゃん?」
その涼介へ男が歩み寄る。
「 pleiades も目覚めたか」
虚ろな涼介の目が上を向く。
「やめろ……俺は昴……まさか Eridanus( エリダヌス ) 、き、君は……」
そして、見る見る涼介の瞳に怯えの色が浮いた。
「く、来るなぁぁぁ!もう嫌やんだよぉぉぉ !! 」
唖然とする香織の見る前で、涼介は嘔吐した。
「ふん……情けねぇ。こんな奴に 15 年も無駄足食らったかと思うと泣けてくるぜ」
男、 Eridanus は再び、いや、今度は至近より確実に右掌を涼介に向けた。
「涼ちゃん伏せて!」
香織の両手に固定された拳銃、 CZ75 が火を噴いた。それは全弾正確に Eridanus の腕で金属音を上げた。
「小娘が !! 」
振り向くが、既に香織の姿はない。Eridanusの足元に飛び込み、涼介の腕を捉っていた。
「てめぇも殺す !! 」
機械の赤い目が憎悪を以って香織を睨めつけた。
「レディーに向かって口悪いってのよ !! 」
ジャケットの内ポケットより、ピンを抜いた手榴弾を投げつけた。
「こんな……」
直後発光。
「……くぅ!」
発光弾だ。
「逃げるよ!」
「香織……お前」
「話は後」
廊下に向けて走り出した。……しかし、
「子供騙しでいい気になるんじゃねぇ!」
疾い!既に Eridanus が待ち構えていた。
「死ね !! 」
Eridanus の右手、その掌に光が収束するのを目の前にして、それでも香織に焦りはなかった。
「どきな!」
背後の声に応じ、涼介を抱えて右へ飛ぶ。
「 shot set …… Fire!! 」
口径 20mm の弾丸が5発、 Eridanus に集中。
「ぐぁ!」
Eridanusは表面を爆発させて廊下へ吹き飛んだ。
「無事だね?」
医務室の破孔よりスラスターで飛び込んだ、真っ赤なペイントに Minx の文字を胸部に白く刻んだ人型の機械体。北条恵美のAMだ。
右腕の Stinger20mm ライフルを天井に向けた Minx( 恵美 ) 。頭部センサー ( 両目 ) は廊下を外さない。
「なんだい、ありゃぁ。AMに見えたよ」
「遅いよ恵ねぇ」
「あんたこそ何でAM用意しとかなかったんだよ」
「大学の駐輪場にAM置いちゃダメだって言われたんだもん」
「さよーですか。さてさて、あれでやられちゃいないだろ。香織は坊やと joker (藤岡)を連れて現場を離脱 !! 」
「了解 !! 」
香織が涼介と藤岡を助け起こす間、廊下の瓦礫がごそりと動く。
「さぁて、第2ラウンドだよ」
群青色の空を一筋の光芒が駆け抜けた。
「危ないあぶない」
Minx のディスプレイに頭部側面装甲の破損状況が表示された。
『 caution ……』
「余計な情報はいらないわ。出てきなさい。不意打ちしたってかすめる程度よ」
「なるほど……」
瓦礫を分けて、 Eridanus が立ち上がる。
……小さい。
AMは全身の防御と関節部の稼動補助を行うために、使用者よりも半回り大きくなるのが道理だ。
しかし、目の前に立ち上がった機体は、女の恵美が装着するAMとほぼ同じか、やや小さいくらいだ。
……何であれ、負けられない。
「ったくよぉ、起き抜けで調子出ねぇってのに……後悔するなよ、デク人形。邪魔をするなら殺す!」
Eridanus が動いた。
「くっ!」
気付いた時には目の前だ。
「何者かは知らねぇが、容赦はしねぇ !! 」
Eridanusの右拳が Minx の腹を狙う。
恵美は反射的に肘でブロック。機体内に金属の衝撃が伝播した。
「そりゃお互い様よ !! 」
80km/h 走行のトレーラーをも止めるAMの緩衝装置をしても、恵美の腕に激痛が走った。
機体監視システム左が瞬時に黄色く点灯。
「なんてパワー」
しかし踏ん張り、右手に持つライフルのストックを Eridanus の腹に叩き込む。
「ぐふっ」
くの字に折れた体へ、
「ぃやぁぁぁ !! 」
続けてMinx渾身の回し蹴り。超伝導モーターの焦げる臭気をさせながら頭部にヒットしたそれは、 Eridanus を壁に激突させ、隣の部屋にまで吹き飛ばした。
「ふぅ……。なめんじゃないわよ !! 」
恵美は真ん中からひしゃげたライフルを Eridanus に投げつけた。
「図に乗るなよ、ガラクタ!」
光円一閃、ライフルが空中で両断された。
Eridanus の左手にナイフが光る。
「いいわ、今度は斬りあいね。…… ツールセット。 ナイフ‼︎」
腰のツールボックスよりナイフが飛び出した。
Eridanus の突き込む刀身を受け流し、恵美は懐へ肘を打つ。しかし、それは Eridanus の手が受け止めた。
「……ちっ」
その下よりナイフが襲う。
「このっ」
彼女は反射的に Eridanus のナイフを腕ごと足で押さえると、それを足場に後転で間合いを空けた。
「やるじゃねぇか」
Minx のディスプレイに反応。
『 caution ……』
右母指部損傷。
……そんな。
斬られた感触はなかった。
「 サーチ 」
センサーが Eridanus のナイフを探る。
「ちょっと……」
刀身がレーザーだ。
「ヤバいかも」
「逃げようったって遅いぜ!」
猛然と襲い来る連撃。恵美は数合受けるが、ついにナイフがへし折れた。
「なろ ! 」
最後の手段。必死と腕ごと捕まえ、レーザーナイフを止めた。
……そのまま投げ !!
しかし、 Eridanus の右掌が至近で開く。
「しま……」
「終りだ」
光と衝撃。
『 DANGER!!Life save system ready ……』
機体監視システムが損傷箇所を真っ赤に染め上げ、 Minx は白煙を曳いて校舎より吹き飛ばされた。




