おかえりなさい!
終章 想い
6month later in jap (6ヶ月後、日本)
- 丹沢 -
今日も朝から雪である。
鉛色の雲より舞い降りる白い綿毛を見上げる香織は、はぁっと白い息を吐き出した。
「涼ちゃん、きみはどこにいるの……」
丹沢山中の GDS 本部はすっかり雪化粧を施していた。
香織の立つ巨大パラボラアンテナから見渡す施設も、すっかり復旧がなされていた。
月面の大爆発。地球の日中にも肉眼で確認出来た程の爆発だった。
しかし、ツェルコフスキー基地をも巻き込んだその爆発は、人類反旗の号砲であり、勝利を確信した祝砲でもあった。
あれから6ヶ月……既に地球には政府の機能がほぼ存在しなかった。それでも僅かに残存した GDS の機能を活用し、人類は復旧の道を歩み始めた。
地球に残る Pavor も、指揮系統を失えば脆い物であった。
「ねぇ涼ちゃん……もう、戦わなくていいんだよ」
そして、香織は微笑んだ。
「あたしも、やっと笑えるようになったよ」
しかしそれは、涙を見るよりも悲し気に思えた。
涙はもう、出尽した。
香織の乗っていた脱出艇は大気圏突入のタイミングまで設定済みで、見事にこの丹沢に着陸した。
そう、全ての始まりである Warwolf も、この丹沢だった。
思い出すと、また目頭が熱くなる。3ヶ月もの間、泣いて過ごしたのにまだ……。
と、背後に気配を感じた。
「やぁ、香織くん。やはりここか」
振り返ると、マフラーを手にした藤岡が居た。
雪を踏みしめる音をさせて近寄る藤岡も、どこかしら疲れに老けを覗かせていた。
「風邪をひくぞ」
藤岡は香織の首にマフラーをかけた。
「毎日通ってるそうだね」
マフラーを首に巻きつつ、香織は無言で頷いた。
今、月方面に対する最前線はこの GDS 丹沢本部である。香織の目的は……明白だ。
「涼介な、最後に、父さんと呼びたかった、なんて言ってな……」
脱出した艦載機の中で聞いた涼介の『声』は忘れられない。
あの直後、その『声』に導かれたシンと合流したのだ。
誰もが、涼介に救われた。
「やめて下さい。……最後だなんて」
香織は藤岡を睨みつけていた。
そんなことを言われると、何のために自分がここに通っているのか……。
藤岡は自嘲しつつ香織の肩に手を置いた。
「そうだな……悪かった」
香織は首を横に振る。
藤岡も養父として辛いのだ。
すると、香織の胸ポケットより通信機の着信音が鳴る。
……呼び出し?
首を傾げつつ通話ボタンを押した。
「はい、香織です」
『香織、早く来い!』
赤城長官の声だ。
「お父さん !? 」
『いいから下、モニタールームに来い!月と通信が繋がった!』
一瞬香織は藤岡と目を合わせると、急に駆け出した。
- モニタールーム -
「月は……どんなですか !? 」
戸を開くと同時に第一声。数度転んで雪まみれな香織を、室内に集まる GDS 職員が振り向いた。
赤城長官を始め、白木補佐官、相良作戦参謀、東山技術部長、小林医局部長、そしてシンとトマス、オペレーターの面々。
あの宇宙で、涼介に救われたみんながそこにいた。
「まだ詳しい話をしていない」
赤城が応えた。
「向こうもやっとシステムが復旧した所だからな。相手はツェルコフスキーの隣、フォン・ブラウン基地だ」
月との通信も半年振りである。
あの爆発により、月面各基地でも大きな被害が出ていた。
「で、なんて言ってるの !? 」
急かす香織を、シンがなだめた。
「落ち着けよ。圧縮したデータ通信が先だ」
そこに、藤岡も入室した。
「で、そのデータは?」
狭いモニタールームの奥で、オペレーターが振り向いた。
「今、解凍しました」
画面に文字情報が流れた。
誰もが固唾を呑んでそれを読む。
……復旧率 40% 。3日前に要人及びツェルコフスキー基地の生存者をシャトルで地球へ送還。
眉を寄せた。
ツェルコフスキーは既に壊滅状態にあった筈。そこに生存者など……。
「おい、搭乗者リスト!」
赤城に急かされ、リストを呼び出した。
その羅列される名前の中に…RyohsukeFjioka。
香織の呼吸が止まる。
……まさか、まさか。
「シャトル、もう地球軌道に乗る所です。通信要請も来てます。ツェルコフスキーの生存者がコクピットに来ていて、直接話させたいらしいのですが……」
「早く繋げ!」
そして赤城は香織の肩を掴み、コンソールの前に押し出した。
戸惑いの表情を見せる香織に、みんなが頷いた。
「お前しかいないだろ」
「映像繋がりました!」
びくっと肩を震わせ、香織はモニターの前に。
そこに映る顏は……。
『心配……した?』
香織の胸の想いが溢れ出し、尽きた筈の涙が流れ出す。
「涼……ちゃん」
その顏は間違いなく涼介だった。あの時、別れた涼介に間違いなかった。
『なぁ、泣くなよ』
「バカ!心配してないし泣いてもいないわよ!」
……帰ってきた。生きて、帰ってきた!
「笑ってるでしょ!」
嬉し涙に濡れた頬は、隠しようもなく笑顔に溢れていた。
『だって、怒ってるだろぉ。俺だって、驚いてるんだよ。何で月に居たんだかさぁ』
……え?
『俺、宇宙人にでも拐われたのかな』
「涼ちゃん!」
『はいぃぃ!』
「覚えてないの?」
『ないよ。分かってたら香織も連れて来たって。』
そうか、そうなんだ!
記憶だ。記憶が抜けている。ウォルフ星人だろう。彼等が、リュオスたちが記憶を封じてくれたのだ。
……良かった、よかったね、涼ちゃん。
いらない。あんな、辛い記憶はいらない。そう、あの時涼介が言ったじゃないか。
過去なんていらない。
香織は俯き、息を詰めるように涙を流した。
『ご、ごめん……。次は香織も連れてくからさ』
首を横に振る。
「いい。もういいの……。月なんていい。ただ、涼ちゃんが帰ってきてくれた、それだけでいい……」
これで、本当に全部、終わったんだよね。
モニターの涼介は少しばつが悪そうに言った。
『えっと……。ただいま』
そして、香織は6ヶ月分、万感の想いを込めて応えた。
「おかえりなさい!」
Pleiades / Mission all over ……
奇しくも、平成最後の日に最終話投稿となりました。
荒い文章にお付き合いいただき、申し訳なくもあり、ありがたくもあり……
基本的に宇宙という舞台が大好きです。
ライカ犬やユーリガガーリン、アンナテレシコワ、ライトスタッフやアームストロング……
宇宙はワクワクする。
月の基地として名前を使用したツェルコフスキーやフォン・ブラウン……実際に月のクレーター名として存在する。
液体燃料のゴダートと並ぶ、宇宙開発の父三人。
多段式ロケット推奨のツェルコフスキー。
ナチス政権下で初のロケットを開発し、後にアポロ計画責任者となったフォン・ブラウン……
ええ、もう宇宙開発は大好きです。
宇宙飛行士を目指し、ある理由で諦めた自分は、そのはけ口が文章になったと言えるかもしれません。
文章ならば、現在の移動限界も物理法則も越えられる。
自分の空間に、新たな世界を多く創りあげられれば最高です。
松本零士先生が、ある番組のゲストで言ったあの言葉
「私は実際に深海に行きたい、宇宙に行きたい!そして、行ったような嘘をつく」
心に残る名言でした。
驚くような実体験も、そのまま描くと面白くない。
ちょっとした嘘くささ、ファンタジー感が面白さを生む。
さて、その絶妙な感覚は自分に出来るでしょうか。
書き溜めがありますので、近日投稿しようかと思っています。
また、お付き合いいただければ幸いです。




