いつか、地球で
- 月軌道 - 1 -
……終わったなぁ。
シンはぼんやりと青く輝く地球を眺めた。
宇宙を漂う Tomcat はもう動かない。スラスターの燃料も、いいとこあと2回だ。仲間に救援を望むには、ここは広大にすぎた。
「……いい最期だ」
……諦めないで。
不意に声を感じた。
これは……。
「涼介くんか !? 」
……2時の方向にスラスターを噴かしてください。
「な、なんだって !? 」
……そこにいては、爆発に飲み込まれてしまう。
「おい、君は無事なのか !? 」
……もう、大丈夫。ありがとう。
- 月軌道 - 2 -
……なんてこった。
艦載機内で赤城は頭を抱えた。連絡が尽き、合流出来たのは Wyvern だけだ。
あとは……。
「香織、涼介くん……」
……大丈夫。
声に、赤城と藤岡が反応した。
「これは、涼介くんの……」
……オルコックさんが来ます。回収してください。
「涼介くんなのか !? 」
……香織は心配ありません。先に、地球へ送りました。
赤城と藤岡は顏を見合わせた。
「間違いない、この声は涼介……。涼介、お前は無事なのか !? 」
……先生、ありがとう。本当は、父さんって呼びたかった。
「涼介、まさか……」
……もう、大丈夫だから。
「待て!だったら今からそう呼んでくれ、今から、明日にでも……涼介‼︎」
- 月軌道 - 3 -
赤く腫らした目で呆然と月を眺めていた香織は、不意に首を巡らせた。
「涼ちゃん?涼ちゃんなの !? 」
……さすが香織だね。
「涼ちゃん、無事なんだね?」
一瞬の沈黙。香織は不安に駆られた。
……地球は、やっぱり青いね。
「な、なにを……」
……みんなの帰る場所だけでも、守ることが出来たよ。
「もう、終わったの?」
……香織には感謝でいっぱいだよ。
「やだ……変な言い方しないでよ」
……笑って、香織。
「ダメだよ、涼ちゃんがいないと笑えないよ」
……大丈夫、笑えるようになるって。
香織は言葉に詰まり、激しく首を振った。
……いつか、いつかまた地球で。
「涼ちゃ……」
窓に光が飛び込んだ。月面の、あの Pavor の基地があった地点が、巨大な爆炎に飲み込まれた。
「涼ちゃん、応えて涼ちゃん!」
数十秒後、香織の脱出艇は爆発の衝撃波に激しく揺さぶられた。
もう、月面に目も向けられない。
「ダメだよ、これで最後なんてダメだよ !! 」
無力だ。
地球へ向けて衝撃波に押される脱出艇の中で、香織は喪失感と悔しさに涙が止めどなく溢れた。
いつか、地球で……
プレアデス 第7章「昴」 終




