洋介兄さん
4
「ぐぅえぇぇぇぇ」
涼介は嘔吐した。
限界に近い同調による精神的負担。肉体にも影響が大きかった。
『やはり、無理が……』
「気にしないで……。何よりも、終わらせなきゃ。それに……」
涼介は立ち上がり、扉に手をついた。
「……確かめなきゃ」
同調を一度緩和した Pleiades の装甲は、鉛のように重かった。いや、涼介の肉体が蝕まれているのだ。
……確かめるんだ。
涼介の母は、父の手により死んだ。その後、 1/1000 の適合率を越えて、第二の Pavor 母身となった者がいる筈だ。そいつを倒せば全て終わる。……と思っていた。
しかし、 Syleus から耳打ちされた事実は……。
「嘘……だよな」
荒く息を吐く涼介。意を決して重い扉を押し込んだ。
確かめるために、終わらせるために、もうこの命さえいらない。
機械を壁一面に配した空間の先に、女性がいた。
背を向けた、髪の長い……無機質な女性。
「来ましたね」
……嘘だ!
涼介の胸は締め付けられた。
「私の産んだ子たちを滅ぼす…… Pleiades 」
その女性が振り向いた。
「か……母さん」
一瞬懐かしさに息をすることさえ忘れた。
振り向いたその人は、紛れもなく涼介の母だった。
「生きて……いたんだね」
しかし、その幻想は冷徹な彼女の視線に打ち砕かれた。
目は赤く光り、敵を見るような憎悪の色。いや、それどころか、頭部と上半身の右側が完全に機械化され、壁面の機器と有線で繋がれていた。
「……なに、これ」
「許しません!」
母が指を振り上げた瞬間、閃光が視界を襲う。
光学兵器だ。
涼介は動けない。そこへ、銀の影。
「見誤るな!」
スラスターを全開にして乱入した、 Syleus だ。
Syleus は残った左腕の一振りで、閃光を中和した。
「 Syleus !」
膝を付く Syleus の胸より血が滴り落ちた。
「涼介……言った筈だ。姿は母さんだが、もう記憶さえない、ただの機械人形だと」
Syleus はその銀の装甲を赤く染めて立ち上がる。
「裏切りましたね、 Syleus 」
母身の言葉を Syleus はせせら笑う。
「裏切る?貴様らが勝手に俺の体を使っただけだろう」
……裏切り?
「悪いが、残党は全て始末した。隊長の責任として……」
「おのれ……。最も信頼していたのですよ!」
「黙れ!」
Syleus は吐き出すように叫んだ。
「侵略者を産むためだけに再生された機械人形が!」
「再生された……?それに、 Syleus 、何で?」
「聞くんだ涼介。母さんの後、適合者は現れなかった。そこで何をしたと思う。瀕死の母さんを機械と融合させ、改造した。ただ、 Pavor を産むだけの存在として。こんな冒涜は許せん!そして、それに荷担した自分も許せない !! 」
「……でも、あの人は」
「甘えるな!俺の心臓に刃を突き立て、 Pavor の意思から解放したお前はどこに居る!」
Syleus は Pleiades を正面から見据えた。
「母さんの肉体を、解放しよう」
「……え !? 」
母身が立ち上がる。
「裏切り者に罰を!」
「笑わせるな!」
Syleus はスラスターで加速。
「兄さん !? 」
「ぅおぉぉぉぉ !! 」
……あれは Syleus じゃぁない!兄さん、洋介兄さんが戻ってきた !!
「せぃやぁぁぁぁ!」
Syleus の放った拳を、母身は掌で軽々と受け止めた。
涼介は愕然とした。
……俺は、自分を取り戻した兄さんに剣を突き立てたのか !?
「威勢だけはいいようですね……死に損いにしては」
「くぅ……」
Syleus の拳を押さえる母身は余裕であった。
「その心臓も、鼓動が止まりかけています」
「だから……どうした!」
Syleus はスラスターを噴かし、左腕を軸に回転。母身のこめかみを狙い蹴りを放つ。しかし、母身はこれも悠然と捕えた。
「 Pavor に弱い存在は目障りです!」
母身の口が大きく開く。その奥より、狂暴な光が……。
「うぁぁぁぁ!」
膨大なエネルギーをまともに喰らった Syleus は、装甲の表面を溶解させて飛ばされた。
「愚かな……」
母身は無様に転がる Syleus に、汚物を見るような目を向けた。
「兄さん!」
涼介はほぼ装甲の溶けた Syleus に駆け寄った。
「悪いな……涼介」
もはや原型を留めていない。
「後始末を……任せる。先に……楽にさせてくれ……」
「何を……」
「うぉぉぉぉぉ !! 」
スラスター全開。
Syleus は母身に加速し、心臓が光を放ち、爆発した。
自爆。
Syleus は母身に飛び込み、その身を賭けて自爆した。
「兄さぁぁぁん !! 」
高熱の爆風に耐えながら叫んだ。
……そんな。話したかった。話したいことか沢山あったのに!
その爆炎が急速に収束。
「愚かな……」
母身だ。しかも……無傷。
「うぅおぉぉぉぉ !! 」




