兄弟喧嘩
- 排気口 -
「うぅおぉぉぉぉ !! 」
機甲体の激しい連続攻撃。それを Valkyrie は全て躱す。が、面前に迫るナイフを躱した瞬間、腹に重い衝撃が突き抜けた。
「くぅ……」
まともに食らった蹴りに香織は呻きを漏らす。
しかし、そのまま足を捕え、捻を加えて自ら回転。
折れた。
脚があらぬ方向へ向き、悲鳴を上げる機甲体。
香織はその隙を見逃さない。
「 ソード!」
Valkyrie の右脚より柄が飛び出した。手に持つと光の刃が伸びる。
ライトニング・ブレードだ。
「っせぃ!」
機甲体の心臓を貫いた。
「やっと5体……」
香織は膝を付く。
ここの機甲体は強かった。神宮での蛹体とは違う。サナギより羽化した成虫のようだ。
明らかに Vega と同等、或いはそれ以上だ。
Guardian でなければ一瞬で消されていただろう。
「立てるか?」
Pleiades が手を差し延べた。どうやらここの機甲体は一掃したらしい。
「完全体を集めたらしいな。精鋭だよ」
見上げる涼介が、今は頼もしかった。
「だからって問題なし。楽勝楽勝。低重力にまだ馴染めないだけだって」
見え見えの強がりだ。
「それは良かった。安心したよ」
言葉の割に、涼介からは激しい緊張が伺えた。
「次は、もっと強いらしい……」
「次?」
Guardian のセンサーにも反応が現れた。
香織の背中に悪寒が走る。
Valkyrie のセンサーは物理的な物とは少し違う。メンタルな要素が多分にして強い。
……この感覚。
香織の愛機、 Rabbit を破壊した機甲体と同じ気配だ。
「なぁ香織……」
腕を一振りし、 Pleiades は蒼流剣を出現させた。
高まる闘気に圧されるようだ。
「俺、戦うことに慣れてきた。すごく嫌なのに、慣れてきた。もしかして、 Pavor に支配されてきたのかな」
香織は目を細くした。
「バカ。男の子だもん、当たり前だよ」
……でもこれは、兄弟喧嘩。人類存亡を賭けた、兄弟喧嘩。
壁を隔て、巨大な威圧が吹き出した。
「兄さん……いや、 Syleus 」
涼介は無意識に香織を背中に庇う。
「負けちゃ、ダメだよ」
……来る!
壁が真円に切断され、ごとり、と倒れた。
「悲しい宿命だな、 Pleiades 」
銀色の機甲体、 Syleus がそこにいた。銀の刀を持ち、一歩、二歩と歩み寄る。
「そうだね……。でも、腹は据わったよ。全てをなくした訳じゃない。まだ、守るものが沢山ある」
「その覚悟、試してやろう」
Syleus がゆらり、と動く。一面凪いだ湖面に、僅かなさざ波が揺らめくように。
……何、この威圧感。
香織の肌が粟立った。
「お得意の槍 ( ハルバート ) じゃないのに……」
「違うよ」
合わせて、 Pleiades も剣を据えた。
「元々 Syleus は剣の使い手だ」
Syleus の刀は風になびく羽根のように、捉えどころがない。
「父さんを斬った時は、あの刀、銀影剣だよ」
心臓の記憶が、当時の姿を鮮明に伝えた。
「そう、あの時から刀を持てなくなった」
「実の父を殺したんだ、当たり前だろ!」
ふん、と Syleus は鼻で笑う。
「それでも再び柄を握る気になった。感謝する」
涼介は奥歯を噛み締めた。
「香織、手伝ってくれ」
涼介がそんなことを言うとは……。 Syleus はそれ程の強敵なのだろう。
香織は無言で頷いた。
「行くぞ、 Pleiades !」
ふわり、と Syleus の刀が舞う。
それは、一直線に Pleiades の首をめがけて飛来した。
Pleiades は最小の動きで刀を躱す。
「はぁぁぁ!」
そのまま剣を Syleus へ。
しかし、水平に振られた剣は空を斬る。
……いない !?
「涼ちゃん下!」
香織の声と刀が同時。
「はぅっ!」
咄嗟に腕を引く。銀光が弧を描いて顏前を通過。直後足を払われ転倒した。
「甘いなぁ、 Pleiades !」
Syleus の刀が Pleiades の腹を狙って振り下ろされた。……が、その刀が止まる。
「あたし、忘れられてます?」
Valkyrie のライトニング・ブレードが Syleus の刀を止めていた。
「いやいや、少しは意識したさ」
Syleus の左手が Valkyrie の面前へ。
「……ひっ!」
香織から小さく悲鳴が漏れる。
すると、不意に Syleus が体勢を崩した。
「……くっ!」
今度は Pleiades が Syleus の足を絡め、転倒させた。
「甘いよ、 Syleus !」
「言ってくれる !! 」
Syleus は回転して間合いを開ける。しかし、 Pleiades の背を使って Valkyrie が跳躍。
「やぁぁぁ !! 」
頭上よりブレードを振り下ろす。
「ぬん!」
辛うじて刀で止めた。そのまま Valkyrie の懐に入り、肘打ちを放つ。
「ぐっ!」
吹き飛ぶ Valkyrie 。その影より Pleiades が現れた。
「せぃやぁぁぁ !! 」
金属音が空を震わせた。
「やるじゃないか、弟よ」
「俺だって、本気なんだ」
鍔迫り合い。刃と刃を合わせ、双方一歩も退かずに押し合った。
「まだまだぁ !! 」
Syleus が蹴りを放つ。まともに食らった Pleiades は壁まで飛んだ。
「とどめだ!」
Pleiades の心臓目がけて刀が疾る。
そこへ、
「ぃやぁぁぁ !! 」
光が疾り、 Syleus の刀が両断された。
「だから、忘れないでよね」
Valkyrie だ。
「この……邪魔だぁ !! 」
無用の刀を投げ捨て、右掌を Valkyrie へ。
掌に光が集う。
……防御 !!
Syleus の光弾が Valkyrie をまともに襲う。
Valkyrie は白煙を曳いて飛ばされた。
「香織 !! 」
「ったぁぁぁ」
無事なようだ。シールドが全て受け止めた。
「ウォルフの遺物が!」
「兄さん !! 」
素早く剣を繰り出した。
「いい……反応だ」
涼介は絶句した。
Pleiades の蒼流剣は、 Syleus の右腕を……肩口より斬り落としていた。
「なぜ……よけなかった」
Syleus に今の一撃は避けられた筈……。
「な……何を考えてんだよ!」
Syleus の右肩より鮮血が滴り落ちる。
もう、血は止まりかけていた。しかしいくら機甲体といえど、切断された腕は再生しない。
「覚悟は……出来ているんだろ」
Syleus の冷徹な言葉に、涼介は狼狽えた。
「それとも、兄の顏をした抜け殻に、またも情が出たか?」
「ない、そんなことはない!」
「なら殺せ、俺を殺してみろ !! 」
Syleus は無防備に腕を広げた。
「ダメ、罠だよ涼ちゃん!」
「覚悟とは口先だけか、涼介 !! 」
「ちがぁぁぁぁう !! 」
Pleiades は蒼流剣を平突きに構え、 Syleus に体ごとぶつかった。
「ぐは……」
剣は、 Syleus の装甲を、胸を貫通した。
「ど、どうして……」
Syleus は Pleiades に寄りかかる。
「駄目じゃないか……涼介」
そして、震える Pleiades の首に腕を掛け、強く抱き寄せた。
「心臓を……外れたじゃ、ないか……」
震えた。
涼介の手は震え、蒼流剣を放していた。
「なんで避けなかったんだよ!」
絶叫する涼介の耳元で、くっくと苦し気な笑い声。首に回る腕に、更に力が入る。
「避けなかったのに……僅かに心臓を外すとは……甘いんじゃないのかぁ、涼介」
「黙れ!」
「黙らん !! 」
びくり、と硬直。
「俺はお前の親を、自分の父を殺したんだぞ!そんな奴を相手に手元を狂わすお前に、何が出来る !! 」
「だけど!」
兄だ。彼はやはり兄さんなのだ……。
「こんな時に……卑怯だよ」
Syleus が腕を解き放つと、 Pleiades は膝から崩折れた。
「甘ったれが……」
ふらつきつつ、 Syleus は剣を胸より引き抜いた。
「くぅ……」
ぼたり、と血が落ちる。
「貴様には幻滅だ……」
剣を Pleiades の前に突き立てた。
「立て、 Pleiades 。俺は……今は死なん」
そして、 Pleiades の耳に口を寄せ、小さく囁いた。
「な……に?」
「嘘ではない……」
Syleus はスラスターを噴かし、身を翻す。
「それを確かめたくば……来い!」
血溜りを残し、 Syleus は通路の先へ消えた。
「そんな……嘘だぁぁぁぁぁ !! 」




