月面
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背後より鋭い閃光が駆け抜けた。
「まさか!」
トマスは最悪の事態を連想した。
後方レーダーで確認。敵艦Bの爆発轟沈だ。
しかし、至近での轟沈に、 Warwolf も誘爆で被害を受けていた。
「……くそ」
トマスに迷いが生じた。
……戻って加勢すべきか。
と、格納庫より内線。
『行ってください!』
既に Guardian を装着した香織からだ。
『止まらず、月面へ……』
トマスの口がにやりと笑う。
「いい覚悟だ。すぐ届けてやるぜ」
トマスは後方の全センサーをカットした。
- 格納庫 -
Wolf Guardian のValkyrie を装着した香織、そして機甲体の Pleiades となった涼介は刻々と近付く月面に目を凝らしていた。
……見えた!
ツェルコフスキー基地だ。
銀の楔、セルの突き立つ廃墟に顏を曇らせた。
「トマスさん、ここから北西です」
『間違いねぇな!』
涼介は頷いた。
「……間違いない」
北西方向より心臓に突き刺さる、共鳴。
「 Syleus はあそこだ」
機体が傾き、眼下の岩石群が勢いよく後方へ流れていった。
-Pavor 前線基地 -
……来るぞ、もうすぐそこだ!
Syleus の心臓も Pleiades に反応していた。
「隊長、親衛艦隊残存3隻です。プロキオン、アルデバランに敵侵入、白兵戦を開始!」
ほぉ、と洋介は感心に声を出す。が、その表情は冷淡だった。
「放っておけ」
「……え?」
「艦隊など無用。私の戦いに無駄な虫が付かぬように網を巡らせたまで」
そして踵を返す。
「ど、どちらへ?」
「お前たちも来い。迎え撃つ」
直後レーダーが小型機の存在を確認した。
-Wyvern-
金属反応あり。
「へ……涼介よ、クリティカル・ヒットだぜ」
トマスは緊張に震える舌で呟いた。
前方 18Km 。マッハ 15 の超低空飛行なら一瞬の距離だ。
トマスの神経は極限まで削られた。
『トマスさん、ありがとう。降ります』
「あぁ?」
生返事を返したトマス。その目の端に、赤の警告灯が写る。
……格納庫開放。
「おい待ちやがれ、ガキ共!」
機体が振れた。
「……くぉっ!」
立て直した瞬間、 Wyvern は軌道まて弾き飛ばされた。
- 月面 -
漆黒のそらへ身を翻すと同時、 Valkyrie の背より翼が展開。スラスターの口径が拡大し、先行する Pleiades を追って加速した。
蒼い流星が二筋、荒涼とした月面に降下。重力 1/6 の世界に砂塵が舞い上がる。
「偉大な第一歩ね。 rabbit が月に着地なんて、洒落が効いてると思わない?」
初の月面着陸に、香織は余裕のコメント。
「ウサギは壊して、今は戦争の女神だろ」
「……でした」
涼介の突っ込みに香織はくすくす笑う。
「さて、準備いいな?」
右掌を地面に向ける Pleiades に、 Valkyrie は頷いた。
「いつでも」
足下の金属反応に向け、掌が光を集め始めた。
「はぁぁぁぁ!」




