表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/63

違和感

     3

    - 医務室 -

 「涼介、静かに入ってこんか!」

 藤岡の一喝に、涼介はきょとんと動きを止めた。

 「あれ先生……今日は何で?」

 「……いいかげん父さんとかって呼んでくれんかなぁ」

 「いやぁ、先生みたいに立派な人が俺の親じゃ申し訳ないよ」

 祥子と、そして香織も吹き出した。

 「はいはい、この親馬鹿さんはね、君の検診が心配で忙しい中見えられたのよ。だからちゃちゃっと済ませましょ」


    - 検査室 -

  CT スキャンを終え、脳波感知器具をセットすると、祥子は操作室に取って返した。

 「 CT と心電図は良好ですね。相変わらず健康だけは取り柄みたい」

 ガラス越しに横臥する涼介を見つつ、手はコンソールを激しく行き来する。

 「確に……ね。ただ、 5 年間一切の傷病がない、というのはどうかな?」

 祥子は藤岡の言葉に手を止めた。

 「 good でも、 100% の good は best じゃない……と?」

 「普通、有り得ないだろ。それに……記憶も異常だ」

 確かに、祥子も違和感を感じないでもなかった。病気どころか、彼にバンドエイドを貼った記憶すらない。……記憶。記憶も不自然だ。誘拐された前後とそして、家族と自身の記憶だけが、まるで狙ったように抜けているのだ。

 しかし、この世のどこに怪我や病気を喜ぶ健全な精神があろうか。記憶とて、誘拐と一家離散という辛い物なら、いっそ戻らない方がいいのかもしれない。

 「いや、私の思い過ごしなら……」

 それきり話題は打ち切られ、ディスプレイに無味乾燥な波形が連続するだけとなった。

 そんな、あまりにも退屈な一時、香織が欠伸をもらした時、室内の内線電話が電子音を響かせた。

 「はい操作室横山」

 視線だけはディスプレイを離れない。

 「……え、教授?」

 藤岡は眉を跳ね上げ自分を指さした。

 「教授、外線です。長官からですよ」

 ほぉ、と藤岡は腰を上げて受話器を受け取った。

 「よぉ赤城クン、どうしたね」

  GDS 長官、赤城秀三だ。

 『まったく、先生は呑気ですねぇ』

 どこかで聞いた台詞だ。

 「悪かったな。どうせ戦争とは無関係だからね」

 『拗ねないでくださいよ。娘は、香織はそこですね』

 藤岡は肩をすくめて視線を送る。

 「代わるかね?」

 『いえ、確認しただけです。緊急事態が発生しました』

 元危機管理室室長、赤城秀三。 15 年前、丹沢で墜落船の探査を指揮し、最も謎に近いとされる男。

 更に挙げれば、香織の父である。

 「おいおい、今朝のパラナルと言い、穏やかじゃないねぇ」

 香織が眉を顰め、祥子もディスプレイより目を離す。

 『ツェルコフスキー基地との連絡が途絶えていたのですが、つい先程、壊滅が映像で確認されました』

 「壊滅だって⁉︎」

 『 GDS 本部は非常体制に入ります。教授も至急本部へ……』

 不意に回線が途絶した。

 「もしもし、もしもぉし!」

 「あの、先生?」

 香織が藤岡の顏を覗くが、藤岡はかぶりを振った。

 「分からん。しかし……」

 直後、照明が瞬いた。続いて激しい爆音と共に、医務室の外壁が吹き飛んだ。

 「探したぜ、涼介。いや、裏切り者……」

 祥子は涼介の心電図と脳波が激しく変化するのを初めて確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ