戦闘態勢
3
-Warwolf ブリッジ -
艦長代理として席に着く相良は、うたた寝に首を落として目を覚ます。
「……いかんイカン」
先ほどまでの、東山との囲碁対局に少しの疲れが出たと見える。
ブリッジを見回すと、ワッチを残し、半数が席上で白川夜船である。
正面のディスプレイに映る半月が、圧する程に大きく輝いていた。これから戦場にしようというその天体が、あまりにも美しい。
……乙な物だな。
「これは赤城さんに同行すべきだったか」
酒は相良の嗜好品だ。
……ま、地球に帰ったらな。
微笑みつつ、タイマーに目が行った。
到着まであと……3時間。
その視線の端に赤い光が差し込んだ。
……何だ?
確認するより早く、ワッチの浜崎が振り向いた。
「参謀、前方約6万 Km に艦影多数あり!」
交代要員も目を覚まし、ブリッジ内がやおら騒然とした。
「やはり待ち伏せか!進路現状維持。浜崎と吉岡は解析。稲葉と影山、それと高山は火器管制チェック、習熟しておけ。大林、食堂に内線!」
「了解!」
相良は月を睨め付けた。
…… Pavor 、人類をなめるなよ !!
-Warwolf 食堂 -
耳を衝く呼び出し音に、迂濶にも熟睡した4人は飛び起きた。
……この音は?
初動の遅い赤城に代わり、白木が壁面のディスプレイに取り付いた。
「あら、相良参謀。ご苦労様です」
白木も少し寝惚けているようだ。
『いや、そんなことはいいんだ。艦長、至急ブリッジに上がって下さい』
ディスプレイに映る相良の表情がやけに堅い。
「 Pavor ですか?」
『前方に艦影です。恐らく……』
「分かった。涼介くんも呼び出してください」
『了解です』
ディスプレイが切れると、赤城は三人を促し食堂より駆け出した。
-Warwolf 個室 -
ベッド脇の通信ディスプレイから呼び出し音が鳴る。香織は反射的に目を覚まし、振り返ろうとする……が、足が重い。
「……あぅ」
涼介が膝枕で寝たままだ。
「しょうがないなぁ……」
起こさないように動き、通信を入れた。
『……何で香織くんが?』
「あ、参謀」
『まぁいい、涼介くんを連れてブリッジに上がれ』
香織の表情が戦闘使用に変化した。
-Warwolf 通路 -
ブリッジに向かい、駆け抜ける通路の照明がにわかに変わる。白から赤へ。
「戦闘態勢への移行だ」
この艦で戦闘経験のある涼介。寝惚け眼がふっ飛んだ。
次いで警報発令。
「随分と派手にやるのね」
香織は眉を寄せた。
「それだけ敵艦が近いんだろ」
2人がブリッジのドアを抜けた瞬間、喧騒が吹き出した。
「有効射程距離まで暫定 35 分!」
「解析終了!防宙巡洋艦7隻!」
「数に間違いはないな !? 」
光学センサーの最大望遠に捉えた映像も7。
応えはあらぬ方向より返された。
「間違いなく7隻。それしか残っていません」
赤城が艦長席より振り返る。
「涼介くん……。根拠は?」
涼介はディスプレイを睨めつけた。
「旗艦ヘパイストを含む Pavor 艦隊 25 隻は全滅させました。でも、ドックに隠れた7隻の巡洋艦……親衛隊所属の7隻だけは討ち損ねました。それがあの7隻です」
頷く赤城は不敵な笑みを見せた。
「隠れるような奴らには負けん。……そうだろ」
涼介は親指を立てて見せた。
「勿論です」
赤城は満足気に笑みを広げると、再びその表情を引き締めた。
「香織と涼介くんは格納庫へ。艦載機で出撃準備をしてくれ」
「はい!」
そのまま踵を返そう、としたが、ふと香織は父の視線に気が付いた。
香織は手を後ろに組み、父の、赤城修三の目を覗き込む。
「おとぉ~さん」
こんな呼び方をするのは、すごく、すごく久し振りな気がする。
「行ってくるね」
香織が明るい笑みを向けると、赤城は恥ずかしそうに目を逸らした。
「あぁ……。戻ったらな」
「……え?」
「無事に戻ったら、母さんと買い物に行こう。何でも買ってやるぞ」
「ホント !? 」
「勿論。卒論の評価次第でな」
大きく笑う赤城に、香織はしかめっ面で舌を出す。
「行ってきます !! 」
涼介を促し勢い良く駆け出した。
……無事でいろよ。
「すまん」
思わず口を吐く本音。
……すまん、香織。そして涼介くん。
白木がそっと赤城の肩に手を添え、無言でかぶりを振った。
「君もありがとう。席に着いてくれ」
そして、赤城は相良と視線を交す。作戦は、もう飽きる程検討した。
人事を尽くして天命を待つ。
そう、人事を尽くす刻だ。
「相良さん、そろそろ行きますか」
相良はゆっくりと頷いた。
「これより本艦は戦闘体制に入る!全艦砲雷撃戦よ~い !! 」
プレアデス 第6章「そら」 終
To be continue ……




