これで終わりに
- 月面 -
ツェルコフスキー基地より北西へ約 1200Km 。岩石群に隠れるように、地下への僅かな隙間が覗いていた。
Pavor 太陽系前線基地。
「シリウス!」
部下の呼ぶ声に Syleus は足を止めた。
「観測室に来てくれ。惑星上に重力場変位を関知した」
Syleus は振り返る。
「縮退炉か?」
「……恐らく」
すると Syleus は部下を置いて観測室に足を急いだ。
……そうか Pleiades 、来てくれるのか!
最上の獲物が自ら来ようというのだ。
「肩の傷、疼いてたまらんからな!」
済ませておくことが山ほどある。
-Warwolf 個室前 -
遊撃隊は休息。それが命令だった。
しかし、シンも素直に休めない質である。
今回ばかりは命を落とすかも知れない。その前に、涼介と世間話をしたかった。
ドアをノック。
「よう、居るかい?」
返事がない。
ドアを開け、中を覗くと……ベッドで香織が涼介に膝枕をし、二人で寝息を立てていた。
「これはこれは……」
頬が弛む。
「シン、そっとしておこう」
振り返ると、赤城と藤岡も覗き込んでいた。
「……いつの間に」
そっとドアを閉めたシンは、2人の幹部に両手を挙げて見せた。
「俺は、涼介くんと男同士の話がしたかっただけですよ。お2人こそ何してんですか?」
赤城と藤岡は顏を見合わせて思わず笑う。
「君を探してたのさ。食堂に来ないか?」
シンは眉を顰めた。
「酒でもやって、男同士の話をしないか?」
……げ。
普段の素行の悪さが逃げ腰にした。
「白木くんが用意してくれているんだが……」
「是非!同行させて頂きます」
-Warwolf 食堂 -
「いらっしゃい」
卓上に料理を用意する白木に、シンの心搏は急激に跳ね上がる。
……これ、これだよ!後は2人のロートルがいなきゃぁなぁ。
「おい、良からぬことを考えたろ」
赤城の視線が突き刺さる。
「めっそうもない」
赤城と藤岡は先に席に着く。
「長官、あまりオルコックさんい苛めちゃ悪いですわ」
白木はシンに席を勧めた。
「どうかシンと呼んでください」
思わず藤岡が吹き出した。
「葉澄ちゃん、そのスケコマシをあまり甘やかさん方がいいぞ」
「えらい言われようだな……」
「では、乾杯」
いつの間に持ち込んだやら、バーボンのロックを藤岡の音頭で掲げた。
「作戦前です、ほんの少しですよ」
グラスを合わせながら言う辺り、白木らしい。
「分かってる」
赤城とて、ブリッジに残した相良やスタッフを思えば自重もする。
「到着予定は何時でしたっけ」
氷の音を聞きつつ、シンは琥珀の液体を軽く舐める。
「 16 時間後だ」
「ベルヌの月世界旅行並の早さですね」
「同感」
藤岡がグラスを掲げて応えた。
「色々あったな……」
赤城の言葉に、しばし沈黙が流れた。
「 10 年も準備して、数日で壊滅寸前だ」
「俺ね……」
シンは俯いて、懐かしむように微笑んだ。
「恵美の姉さんには世話に成りっぱなしでしたよ」
床に一滴、二滴と染みが付く。
「済まなかった。私はいつも怒鳴るだけで、現場には居ないんだ」
シンは首を振る。
「誰かが謝ることじゃないですよ。ただ……」
シンの差し出すグラスに、白木は少し多目に注いだ。
「悲しみは、これで終りにしましょうよ」




