表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/63

反乱の記憶

    - 艦内食堂 -

 艦内で 10 名以上が落ち着いて会話の出来る場所……ブリーフィング・ルームがない訳ではないが、やはり気を落ち着かせる意味もあって、食堂が選ばれた。娯楽施設を兼ねた場所とあって、装飾は武骨ながらもリビングのような造りであった。

 赤城や藤岡を連れて足を踏み入れた涼介は、頭の奥に鋭い痛みを覚えた。

 記憶が……記憶が蘇る。それも、最近は頻繁にフラッシュする。

 ……これは、父さんの?それとも俺の?

 混濁した記憶に吐気が込み上げる。

 移植をして間もなく、セルを離れてこの巡洋艦、 Warwolf に移された。

 一人……そう、たった一人残された苦しさに、リュオスたちの差し出す食事を拒否し続けた。それでも衰弱しないこの体。それもまた苦しくて……。

 今では、そのウォルフ星人たちの心遣いが懐かしい。出来るならあの時にまた戻りたい。

 拒絶ではなく、共に食卓を囲みたかった。謝りたかった……。

 『大丈夫だ、分かっている』

 そうだ、まだ一緒に居るのだ。だから……。

 涼介は強く頷いた。



 「さて、本題に入りたいのですが」

 先を急かしたのは相良だ。他にも、白木、東山、小林、シン、そして香織が同席した。

 「結論から言います。あのセルにはまだ移植前の Pavor が居ません」

 数日前、 GDS の会議室とはうって変わり、今の涼介には明瞭な意思が感じられた。

 「そうか……」

 呟いたのは藤岡だった。

 「全て思い出してしまったのか」

 涼介は表情を歪めて頷いた。

 「思い出したくなかったけど……。全部、話した方がいいかな」

 聞くのが辛い。過去の痛みが伝わるのだ。しかし、聞かずには済ませられない。

 「頼む。辛いとは思うが……」

 「もう、大丈夫」

 いや、嘘だ。

 「聞いて欲しい。このまま消えるには悲しすぎる」

 意を決した涼介が、ぽつり、ぽつりと語り始めた。

 「 16 年前、まだ名前が昴涼介だった頃……父さんも母さんも、それに洋介兄さんも一緒だった。何事もなく、ごく普通の家族だった……」

 藤岡が目を眇めた。

 「青葉区に住んでいたね。あの地区の住民が行方不明となり、当時話題になった。 Pavor 、だね?」

 涼介は頷いた。

 「町内会の遠足で、丹沢へ……。そこで Pavor が現れたんです。新たな寄生生命体を求めて。まずは適合実験の為、偶然居合わせた俺たちを次々に捕獲し、月に連れ去った」

 「月に Pavor の基地が !? 」

 赤城が身を乗り出した。

 「はい。当時建設中だったツェルコフスキー基地の北西です。そこのセルで心臓を取られました。俺の移植をする直前、反乱が起きて、3ヶ月近く人工心肺で眠りました」

 「……反乱?」

 「オリジナルの Pleiades と、地球の前に侵略されたウォルフ星人の生き残りによる反乱」

 一同の目が答えを求めていた。

 「今ここにある心臓、この Pleiades は父から受け継いだんです」

 シンが口を滑らせた。

 「受け継いだって、親父さんは?」

 訊くな!

 シンは冷たい視線に晒された。

 答えは明白なのだから……。

 「死にました。母を殺した後、兄、 Syleus に斬られて……」

 しばし息を飲む。

 ……家族で殺し合うなど。

 しかし、涼介は笑みを見せた。あまりにも痛々しい、切ない微笑みだ。

 「仕方なかったんです。父は希な精神力で、唯一 Pavor の支配から逃れました。ウォルフ星の生き残り、リュオスたちと父はコンタクトを取り、地球を救う手段を知ったんです。 Pavor はそれ自体では生命活動を行えないばかりか、子孫を残すことさえ出来ないんです」

 「成程。だからより強い生命体に寄生し、種を維持しようとするのか」

 藤岡の結論に、涼介が頷いた。

 「そして…… 1/1000 の確率で適合する、 Pavor 母身。女王蜂みたいなものです。彼女を倒せば、それ以上の繁殖は有り得ない」

 「ウォルフ星の母身は?」

 「既にリュオスたちが倒したそうです。そして、その候補者さえも居なくなりました」

 ……絶滅。

 絶望的な事実が浮かぶ。

 「だからか、だから地球に……」

 「はい……。不幸にも適合者がすぐ見付かりました。でも父がリュオスたちと共に倒しました」

 涼介は喉に言葉を詰め、奥歯を噛み締めた。

 「まさかその Pavor 母身が……」

 藤岡は最後まで言い切れなかった。

 言わずとも知れた。

 そしてこれは、言葉にしてはならないことだった。

 「仕方なかったんです!それに、そんな目的のため生かされる母は見たくない !! 」

 感極まり、涼介机に拳を叩き付けた。

 ……嘘だ。

 本当は、例えどんな姿になろうと、生きていてほしい。そんな思いが溢れ出していた。

 「母身を倒し、最後の作戦へ向かう途中、機動部隊の隊長となった兄、 Syleus と戦い、父は負けたんです」

 ……違うな。

 藤岡や赤城には解った。もう、戦えなかったのだ。息子までも自分の手にはかけられない。耐えられない。

 あまりにも辛い選択だっただろう。

 「心臓だけは残りました。そして受け継いだんです。 Pleiades と、戦う宿命を……」

 それと、罪の心も、か。

 「戦ったんだな……」

 「はい。この心臓はウォルフ星人の命によって抑制されています。 Guardian を装着し、共に戦い、肉体を維持出来なくなったウォルフ星人の命7つ。彼らが、いつも支えてくれる」

 香織は目を見開いた。

 ……そうなんだ。

 あの、心臓を中心に回る、7つの光。

 涼介の中で、七人のウォルフ星人は確に生き続けていた。

 「 Pavor 機動部隊に大打撃を与え、大量のセルと移植前の Pavor を載せた軌道基地、それを地球衛星軌道で撃破し、俺だけウォルフ星人の巡洋艦で逃げ延びたんです」

 赤城は床を指差した。

 「この船だね」

 「はい」

 しかし、謎が残る。

 「なぜ冷凍睡眠を?」

 「記憶を封じ、完全に Pavor の意思を抑えるため、生命活動を低下させる必要があったからです」

 ……この記憶は辛いだけだ。普通に暮らせれば、それでいい。

 リュオスはそう言った。

 「じゃぁ、ブリッジの床にあった悪戯書き、あれは……」

 涼介は藤岡に笑ってみせた。

 「俺です。悪戯とはひどいなぁ。真剣だったんですよ。阻止したとはいえ、まだ危険があると思って、コールド・スリープ直前に残したんです」

 くっくっく……。藤岡は妙なおかしさが込み上げた。

 「赤城くん、参ったな」

 「何がです?」

 眉を顰める赤城に、藤岡は片目をつむってみせた。

 「 15 年前、ここで議論しただろ。異星人が残したメッセージの本当の意味は !? なんてな」

 「あ……」

 「まさかまさか、本当に日本人が書いたとはね」

 「先生、嫌なこと思い出してくれますね」

 二人は声を上げて笑った。

 涼介は心の痛みが引くのを感じた。

 「ところで涼介くん」

 笑いっぱなしの二人を無視し、相良が眉を寄せて訊ねた。

 「今回は、つまり軌道基地破壊に失敗した状態なのかね?」

 一瞬場が静まった。

 「いえ、半分ハズレです。ただセルを落としただけです。 Pavor が居ません」

 「何故言い切れる?」

 涼介は胸に親指を差した。

 「共鳴してないんです。地球にあれだけ来れば、必ず感じるんですよ。憶測ですが、先行のセル……あれは現地制圧と、現地での移植の実験だった可能性が高いです」

 今までの行動から鑑みれば頷ける話だ。

 ……ならば。

 「我々は Pavor の侵略を阻止する為に、何をすればいい」

 涼介は、欠伸を噛み殺す技術部長に目を向けた。

 「東山さん、この船の全システムを解放します」

 「おい、これでまだ不完全だったのか!」

 寝耳に水、整備の鬼の名折れである。

 「危険なんでプロテクトしてあります。東山さんはそれを調整してください」

 「見返りは?」

 涼介は指を天井に向けた。

 「俺を月に連れて行ってください。あそこで、全てを終わらせます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ