まだです!
第 6 章 そら
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厳戒体制にある日本の夜は、いつになく暗かった。
雲一つない新月に、満点の星空。 21 時 30 分、南天に輝くアンタレスの更に天頂方面……刹那の静けさに誘われ、ある人は自宅のベランダより見上げ、ある人はマンションの屋上に、そしてある人は避難場所の校庭で。
振り仰ぐ夜空に、幻想世界が広がった。降り注ぐ無数の流星。
それは幼い頃に夢見たお伽話のハッピーエンドその物だった。或いは…… 15 年前のラスト・インパクトを彷彿とさせた。
一時の幸せな思いは一転覆された。
その、3分後……主要都市に降り注ぐ銀の楔、衝突による爆発、衝撃波。人類は、荒れ狂う災禍に為す術もなく蹂躙された。
そう、無抵抗……。
人工衛星を失った地球は、その被害を最小に止めることが出来なかった。
-Warwolf ブリッジ -
「総理とは連絡着かないんだな !? 」
赤城には分かっていた。上空に打ち上げたプローブより送られる大宮駅周辺の映像。これは廃墟である。植林されたが如きトランスプラント・セル以外、岐立する人工物が失せていた。
「くそ!時間を無駄にした !! 」
赤城は手を付きコンソールにうなだれた。
「赤城くん、自分を責めるな。あれは渡瀬の謀反が原因だ」
藤岡の言葉に首を振る。
「しかし、その謀反に気付けなかったのは自分の責任です」
「今更悔やんでも意味なかろう」
「それは……そうかもしれませんが……」
Pavor の移植工場がこんなに来ては……。
「侵略を止められない……」
「まだです!」
全員が声の方を振り返る。
ブイサインを出す香織の隣に立つ彼は……。
「涼介!」
藤岡が席を立った。
「無事だったんだな!」
涼介は明るく笑って見せた。
「それはこっちの台詞だよ、先生。俺は、死なない」
……良かった。
変わらぬ涼介の姿に胸を撫で下ろす。いや、少し変わっただろうか……。
「それより……」
赤城が割り入った。
「まだ……とはどういうことなんだ?」
すがるような赤城の視線に、涼介は一つ頷いた。
「あのトランスプラント・セルはまだ稼動しません」
- 月面 -
「うぉぁぁぁぁ!」
恐怖、痛み、喪失感……溢れる負の感情に圧され、洋介は培養漕より身を起こした。
……ここは !?
溶液にまみれる体をしばし見た。
……俺は、死んだんじゃなかったのか。
「お目覚めだな」
そこに、 Pollux が入室した。
「……昭人?」
「やめろよ、その名で呼ぶのは。気持悪い」
腕を組みつつ昭人…… Pollux は壁に寄りかかる。
「引き継ぎだ。セルは落としたぜ。防衛線にも艦を展開した。後は頼む」
「……あぁ」
洋介は両の手を見つめた。
……俺は誰なんだ?
洋介は僅かに引き吊る左肩に触れた。心臓の直上にまでも達する傷跡だ。だが、もう塞がっていた。
……俺は、また負けたのか?いや、そもそも負けるとは?それに誰のことだ?
「……俺?」
「おい Syleus 、大丈夫か?」
「昭人、まだ居たのか……」
「それで呼ぶなと言ったろう。んじゃ、俺は聖母の護衛に戻るんでな。じゃぁな」
Pollux が消えて、しばし心臓へ手を当てた。
……何だ、この違和感。
『邪魔だ!』
「シリウス !? 」
頭に無数の光が襲い、神経が無数の針に侵される。
「ぐぅぅぇぇぇぇ!」
吐いた。胃の内容物を撒き散らした。
吐く物がなくなり、呼吸を落ち着けた。
ゆっくり、俯いた体を起こす。すると、洋介の目に暗い光が再来した。
「そう……私は Syleus 」




