起動
- 格納庫 -
反射的に全員目をつむる。しかし……衝撃波どころか豆鉄砲の音さえ出てこない。
「な、なんだ、これは……」
停止していた。 Phantom と Eagle が機能停止して膝をついていた。
「東山さんの悪戯か!」
東郷の怒声に相良が我に返る。
「今の内だ!オルコック、誘導しろ !! 」
「はいよ!」
唯一稼働するAM、 Tomcat は Wyvern への扉を蹴り壊した。
「トマスのとっつぁん、早く頼むぜ!」
トマスを先頭に、 オペレーションスタッフ、そして殿に相良が Wyvern に搭乗した。
「こ、虚仮にしたな!」
AM再起動。 Eagle は銃を投げ捨てた。
「イェン、投降しろ!」
シンの呼び掛けに、東郷が首を振る。
「今更する気はなかろう」
「おい、隊長!」
「いいよ、シン」
Eagle は超振動単結晶ナイフを構えた。
「隊長の言う通りだ。私は Wyvern の離陸を全力で阻止する」
「何言ってんだよ!」
止めに入ろうとする Tomcat を Phantom が手で制した。
「邪魔をするな」
「……な」
本気だ。
「部下の不始末はきっちりつける」
「何バカ言ってんだよ、あんたら……」
Phantom と Eagle の間に入れない。
『オルコック、来い!』
相良からの通信だ。
「いや、でも……」
「行け、シン!私の仕事を無にするな」
「くそ!」
Tomcat は踵を返して Wyvern に搭乗。
「トマス、離陸しろ。私は事を片付けて上空で合流する」
「させん!」
Eagle がナイフを突き込んだ。
しかし Phantom は微動せず手で払い、裏拳を Eagle の顔面に叩き込む。
「っぐ……」
吹き飛ぶ Eagle 。 Phantom の向こうに Wyvern が離陸する姿を見た。
「どうした、もう機能停止したとは言わさんぞ」
……強い。
東郷隊長の実力は遊撃隊の中でも未知数だった。誰も訓練を共にした者がない。
しかし、今そこに岐立する亡霊は、巌の如く堅固であった。
……勝てるのか?
思わずイェンの顏に笑みがこぼれた。
潮時だ。
……ならば。
「まだ間に合います。隊長、貴方を倒して Wyvern を止める!」
Eagle はナイフを構え直した。
「全力を出し切ってね」
- 船内 -
装着した瞬間、ひやり、と何かが体を包む。機体と肉体の僅かな間に満たされる、液状緩衝剤だ。
『認識……赤城香織。起動承認』
脳に直接語り掛けたかと思うと、視界が開けた。
AMのようなディスプレイではない。肉眼のような視界。それでいて、網膜に抽象化された情報が走る。
……起動。
機体が引き締まる。いや、肌の一部と化した。
……いける。
「この! Guardian を降りろ !! 」
AMが再起動。
「お断りです!」
思うより速く機体が反応した。
Tiger の懐に入り掌底一閃、装甲粉砕。衝撃で Tiger が昏倒した。
反応とパワーが一桁違う。
続けて棒立ちの Hornet に蹴りを放つ。
「ぐはっ!」
そのまま Goose を巻き込み転倒。
辛うじて Shark が背後よりナイフで応戦した。香織が腕で防御すると、AMの装甲に亀裂が走る。腕を取り、そのまま床に投げつけた。
「ぃやぁぁぁ !! 」
バッテリーを一突き、AMが機能停止した。
「……圧倒的だな」
気圧される赤城に、東山が技術屋の率直な意見を述べた。
「だから嫌だったのさ、異星人の技術を見るのはよ」
AMの親、肩なしである。
「急げ、早く揚がるぞ!」
遊撃隊員はAMを強制停止させたまま監禁。赤城を先頭にブリッジへ通路を急いだ。
「東山さん……」
Guardian を解除した香織が、東山の横につけて声をかけた。
「なんで、 Guardian を今まで使わなかったんですか?」
香織と違い、息の荒い東山が眉を寄せて応えた。
「あれその物が量産出来ん……恥ずかしながら、同じ物を造る技術がない……それでは意味がないんだよ……」
東山からは技術者としての悔しさが滲み出ていた。
「だがな、もうぐだぐだ言わん……自尊心は捨てた」
分厚いドアがスライドすると、独特の空間に出た。
ブリッジだ。
「東山さん、指示を!」
久々の運動に青色吐息の東山、コンソールに取り付き PC を接続した。
「長官、今はあんたが動かしてくれ。後は適当に席へ」
赤城の他は、それこそ手近な席に腰を落ち着けた。
「行くぞ、書き下し操船 OS ポセイドン……起動!」
東山の叩いたリターン・キーに呼応し、船内全システムが光を取り戻した。




