救出作戦
-GDS 丹沢本部 -
「うぉぉぉぉぉ!」
奪い取った2挺の拳銃、 SIG228 を水平に構えたシン、廊下をスライディングして乱射した。
T字路に待ち構える渡瀬派の駐在自衛官5名は足に弾丸を喰らい、 SMG( サブマシンガン ) を放り出して転倒した。
「俺の相手をしたけりゃ単位が違うぜ」
気分はアウトローである。
「時に東郷くん」
拳銃を型通り両手でホールドし、一部の隙なく廊下を走る相良はシンの姿に苦笑した。
「君はウェインの騎兵隊と、日活の渡り鳥、どちらに心酔したかね?」
同じく教本通りの構えで走る東郷も苦笑した。
「私はウィリス(ダイ・ハード)世代です。でもまぁ、シンのあれは、日活映画でしょうね」
羨ましい、の言葉を飲み込み、二人は上官としての台詞を呟いた。
「困ったものだ」
「二人っとも早くして下さい!派手に行きましょうよ、派手にね !! 」
シンは2挺の弾装を換装。 SMG のヘッケラー&コック MP-5 を3挺取ると、残りは機関部に弾丸を撃ち込んだ。
シンの言うことにも一理ある。派手に動き、身重な部隊への目を牽制するのだ。
ただ……この男はそこまで考えちゃいまい。
「そうだな」
相良と東郷はシンより MP-5 を受け取ると、慣れた手付きで腰に据えた。
「派手にやるか」
二人が先行。
「オルコック、遅れるなよ!」
「参謀、俺の台詞取るのは反則っすよ!」
- 中央坑エレベーター -
壁を伝い、僅かに破壊による振動が感じられた。
「シンの奴、楽しんでるな」
リフトを待つ赤城は憮然と呟いた。
「赤城くん、平和が一番だよ、平和がね」
藤岡が宥めに入る。
GDS 電脳中枢の耐爆使用を為す中央排気坑。コンクリート剥き出しの壁面が外部との隔たりを強く感じさせた。
文化人を自称する藤岡にしてみれば、この戦闘より離れた空間は安息の場だ。
「まったく、先生は気楽ですね」
「なに、パワーバランスさ。……香織ちゃん、どうしたね?」
藤岡は端で緊張する香織に目を止めた。
「いえ……あたし、遺跡に降りるの初めてなんですよ」
「おぉ、そういやそうか」
長官としての赤城は、娘に対しても特別待遇のない男である。
「ないのはお前だけか」
他はそれぞれの理由により、幾度となく遺跡……衝突孔の宇宙船に足を踏み入れていた。
……涼ちゃんが発見された場所。
香織にはそれが緊張の原因であった。
と、リフトが上より到着、扉をスライドさせた。
その中に、4人の先客が。
「急げ、奴ら格納庫へ……あ、長官!」
緊張する香織たちの目の前で、渡瀬派の職員は思わず揃って敬礼をしていた。
一瞬の沈黙と硬直。
鉢合わせた双方は唖然と向かい合う。……が、
「お、おい、違うだろ、脱走者だ!」
4人のうち一人が仲間に肘打ち。慌てて MP-5 の セイフティに手をかけた。しかし、
「長官、失礼します」
白木葉澄が赤城を背後より引きずり倒し、抜く手も見せずに懐のメスを投擲。リフト内の二人が蹲る。
そこへ香織が乱入。
「ぃやぁぁぁ!」
まず一人、腹へ当て身を入れて昏倒。残る一人が香織に銃口を向けた瞬間、肘関節が逆を向き、頬が床に押し付けられていた。
「リフト確保!入って下さい」
唖然とする男性陣。白木などは、何事もなかったかのように赤城を助け起こした。
「申し訳ありません、咄嗟とはいえ……」
「い、いや……」
しかし香織は目を煌めかせていた。
「白木さん凄いですよ」
対して白木は柔らかな笑みを浮かべて曰く、
「長官補佐のたしなみ程度かしら。護衛も仕事のうちです」
たしなみで助けられた男は面目丸潰れだ。
リフトに入って ID カードを挿入、パスワードを入力した。
「早く乗ってくれ。秘密の地下室まで直行するぞ」
- 待機室 -
「今開ける、下がれ!」
格納庫側入り口に取り付く相良は、爆薬を仕掛けて物陰に駆け込んだ。
直後爆発。
格納庫に粉塵が吹き出し、ドアが粉砕した。
「みんな無事か !? 」
相良は室内へ。
「参謀!」
咳き込みつつオペレーションスタッフや機長のトマスが駆け寄った。
「爆薬多過ぎです……」
「……悪い」
現場を退くと感覚が鈍るものだ。
「とにかく全員いるな !? 」
「はい!」
誰もが次の行動を待ち焦がれていた。
「これより Wyvern を奪取し、基地を逃れる!」
ざわり、と動揺が走る。
殆んどが実戦経験のない非戦闘員だ。
「参謀、逃れると言われましても、 Wyvern ごときで……」
「おいおい、俺の腕を信用してくれよ!」
機長のトマス・フリードが声を上げた。
「空軍の防空警戒網を何度も潜り抜けてきたんだぜ」
「今回は上空待機すれば……」
相良は呼吸を止めた。
妙な排気熱に……漂う粉塵が一部ゆらめいた。
ステルス モードだ。
「迂濶 !! 」
MP-5 を腰だめに連射。 7m 先の空間で弾丸が弾かれた。
「誰だ!」
-GDS 深奥部 -
地下 300m の衝突孔に眠る遺跡。
ここを基幹に建設された GDS にとって、心臓部、或いは脳髄とでも言うべき場所である。
エレベーターの戸が開くと、冷徹に張り詰めた空気が僅かに揺らぐ。一瞬間を置いて点灯した照明に目が馴染むと、その空間の広大さに圧倒された。
まるで、ドーム型球場だ。
ここが地下だなど信じられる話ではない。
「……あれが」
香織は思わず立ちすくむ。
その中央に、埋もれるように眠る黒色の金属塊。流線型をした巨大な物体。
「あれが、人類が初めて認知した異星人の宇宙船だ」
対象物のないここでも、その巨大さに圧倒された。いや、未知の物への畏怖であろうか。
「さて、ぐずぐずしてる時間はない」
赤城は先頭に立ち、船の搭乗口へ歩き出した。
15 年前、初めて足を踏み入れて以来、幾度となく通った扉。
その扉が、不自然に焼け焦げていた。
香織は眉を寄せた。
……これは、火器使用の痕。
舌打ちした彼女が気配と排気熱に銃を構えた……瞬間、手元より銃が弾き飛ばされた。




