Show time
2
「な……何してるんですか?」
場の異様さに、香織は僅かに身を退いた。
一部壁を破壊し、そこにみんな集まっているではないか。
「おぅ、香織。来たか」
香織と白木の気配に気付いた赤城が振り返る。その顏に、先程までの娘を案じる父の面影はなかった。
GDS 長官、赤城修三の顏だ。
「東山さんの悪戯さ」
覗き込むと、壁面より東山が配線を引き出し、手元の携帯 PC に繋いでいた。
「外の連中が騒がしくなってな。まずは情報収集だ」
「と、参謀のお言葉でね」
シンの横槍を赤城は黙殺した。
「情報収集?一体何を……」
「動き出すなら今だ。涼介くん、会いたいだろ」
胸が締め付けられた。危うく滲む両目を慌てて押さえた。
「お、遅過ぎ。遅れると涼ちゃんうるさいんだよ」
藤岡が振り返る。
「あぁ、そうだな。早く馬鹿息子を迎えに行かんとな」
香織は両手で顏を覆いつつ、何度も頷いた。
「赤城の、繋がったぞ」
沈黙のままに作業を続けていた東山が、枯れた声を発した。
「まず、どんな情報が欲しいかね?」
技術部にこの人あり、と言われる東山だ。最高機密のハッキングを楽しんでいた。
「まずは……各国支部の状況ですが。出ますか?」
「出るか、だと?」
東山は懐疑的な赤城に一つ笑みを見せた。
「以前米国支部が実験機を貸し渋りおってな」
東山は喜々としてキーを叩いた。
「キース支部長官の浮気をデータから暴いてちらつかせたら……話が早かったもんよ」
この分ではここの情報もどれだけハッキングされているやら。
そんな上層部の危惧をよそに、東山はリターンキーを叩いた。
「ほれ、この通り」
一斉に身を乗り出す前で、 GDS の最高機密がスクロールを始めた。
いや、こうなってはもう機密でも何でもない。
「うほ、すっげ。おやじさん、今度女子更衣室の監視カメラを……」
「か、貸して下さい」
赤城はシンの頭を拳でひっぱたき、端末を受け取った。
「命令通信履歴を!」
ふと、赤城の手が止まる。
「長官?」
白木が赤城の顏を覗き込むと、その顏から血の気が引いていた。
「同時総攻撃のカウントが始まってるぞ……」
「やられましたね。無知な男とは思っていましたが……間に合いませんでしたか」
相良は冷静に評を下した。
「時間は如何程ですか?」
「 22 時開始……」
一斉に壁掛けのアナログ時計に視線を集中した。
……あと3時間。
「止める!」
赤城が再びキーを乱打し始めた。
「しかし長官、ここからの命令を受け付けますか?よしんば受け付けたとしても、逆探知されて……」
「構わん!無駄に戦力を減らす訳にはいかん……」
すると、その手が不意に停止した。
「……最悪だ」
赤城は相良に目を向けた。
「衛星が……全滅した」
一瞬、冷たい空気が流れた。
「人工衛星が全て ロストしている。原因は爆発」
「奴ら、本気ですね」
赤城は深く頷いた。
「本気で攻め込むつもりらしいな」
赤城は PC を東山に返して立ち上がる。
「お父さん?」
訊ねながらも、香織には分かっていた。
「時間がない。朝霞へ乗り込み、力づくで涼介くんと GDS の指揮系統を奪還する」
しかし、東山が冷然と応えた。
「そんな裸同然に無力で何をする」
赤城の顏に血が昇る。しかし事実だ。
「このまま滅びるのを待てってんですか !? 」
東山はくっくと笑う。
「君もまだ若いねぇ。誰も待つ気はないさ。ただ、力もなく動くのは渡瀬と変わらん、と言っておるだけさ」
東山の手は勢い良くキーを叩いた。
「少しの努力で、人員、AM、隠し玉を手に入れてもらいたい」
東山の提示した条件が小さなディスプレイに表示された。
「……これは」
赤城と相良が顏を見合わせた。
「私としたことが、忘れていましたよ」
苦笑する相良に赤城も呼応する。
「私もだ。長官をリコールされる訳だ」
赤城は顏を見回した。この面子でやるしかない。
「東山さん、スタッフの監禁場所を出してください」
即座に表示された。
場所は格納庫隣の待機室だ。
「……近い。幸いでしたね。長官、チームを分けます」
こうなっては相良の独壇場だ。赤城は相良に頷き、先を促した。
相良は東郷とシンに目を向けた。
「東郷とオルコックは、私と共に格納庫へ。監禁されたスタッフを解放する。同時に、 Wyvern に収容、そのまま上空へ脱出」
しかし、東郷は眉を寄せた。
「私は Wyvern の操縦技術を持っていませんが……」
「問題ない。機長のフリードも待機室に居る。それと、それぞれのAMを搬入することを優先。方法は問わない。自由にやってほしい」
シンは明らさまな笑みを見せた。
「当然、裏切り者の妨害が予想される訳ですね」
相良は小さく笑う。
「恐らくな」
すると、東山が端末より顏を上げた。
「おいシン、基地内でAMの銃は撃つなよ。危なくっていかん」
それを相良が制す。
「それは私が徹底させます」
そして香織に目を向けた。
「君は長官たちを連れて、地下へ。遺跡へ向かえ」
「……はい?」
香織は残る面子を見回した。なんとも腰の重い連中ばかりだ。
「ま、マジっすか……」
香織の呟きは相良の耳に届いていた。
「そう、マジだ。重要な任務だ。君が適任な筈だ」
相良が赤城と東山へ同意を求めると、言わずもがな肯定していた。
「俺の娘にゃもったいないがな」
「それに、 Rabbit を直している暇はない。それを考えれば遺跡に向かうのが最適だ」
香織は肩をすくめた。
「了解です。確実に届けます」
「よし。潜入したら、後は長官と東山くんが心得ている。頼むぞ」
香織は頷いた。
「ふむ、準備完了」
東山が手元の PC の接続を外して折り畳む。
「警備防御システムは殺した。要所要所にウィルスも撒いたしな。存分にやっとくれ」
……怖いおっさんだ。
頼もしいのか不穏なのか。しかし赤城は時計の針に薄笑いを見せた。
「そろそろ頃合いだ。ノックが合図、各々任務を果たせ」
「了解!」
直後、こんこん、と軽いノック。
全員振り返る。
「夕飯だぜ」
遊撃隊AM要員補欠の八島だ。
俯せに顎と両腕を捕られてシンに乗られていた。
「バカもん。ツーマン・セルの原則も忘れたか」
教官ばりにぼやく東郷。やはり部下の不甲斐なさには愚痴が出る。
「いぃじゃないの。やっちゃん、 sorry 」
首筋に手刀。八島は気を失念した。
香織が小さく呟いた。
「 It's show time 」




