人工衛星沈黙
- 朝霞駐屯地 -
朝霞の駐屯地に仮設された、 GDS 集中発令所。
自衛隊基地内ということもあり、造りが武骨なのは仕方ないとして、 オペレーションスタッフが全て自衛官というのがいただけない。
「作戦は?」
そこへ、渡瀬がふらり、と現れた。
「各国総攻撃、カウント入りました」
右上のデジタル時計が 0:00 へ向けて、着実に時を刻んでいた。
同時総攻撃まであと7時間 12 分余秒。日本時間の 22 時が開始予定時刻だ。
遅くとも夜明けまでには決着がつくだろう。各国支部は日本の本部程AMの設備は良くないものの、米国などの通常軍事兵器はレベルが高い。数を以ってすれば、 Pavor もなんとすることか。
……時間まで寝て待つか。
渡瀬は入室ものの2分で踵を返していた。
と、不意に慌ただしく交信が始まった。
「……どうした?」
渡瀬は振り返り、不安気に訪ねた。
「パラナル天文台、野辺山天文台が衛星軌道に未確認物体感知!」
「長官、衛星回線が途絶えました!」
言ってる意味が解らない。
渡瀬は無言のまま固まった。
「それは、どういう……」
問題が発生するなど渡瀬の計算には存在しない。
「各国順次断線 !! 」
見る間にディスプレイへの情報が変化。地球の立体映像に、多数のライン、衛星の軌道図が重なった。
「相模原 ( 宇宙科学研究所 ) のデータ繋ぎます!」
衛星の軌道図が、次々に赤く染まる。
「監視衛星フォルクス、シェイド、鷹乃、沈黙。あ、通信衛星サンタナも沈黙 !! ……これは」
理由は歴然だった。
人工衛星の破壊。耳目を奪うつもりだ。これでは連携が取れないばかりか、防衛ライン監視もままならい。
いや、それ以前に敵は地上だけではないのだ。宇宙 ( うえ ) にこそ真の敵がいる証だ。
「長官 !! 」
スタッフの目が一身渡瀬に集中した。
「あ、う……」
言葉が出ない。いや、何も浮かばない。重圧に心臓が押し潰される。
「……総理に」
意見を求めた所で、自分の無能を露呈するばかりだ。
……そうだ!
浅はかに回転する渡瀬の脳は、監禁検査する涼介を思い出す。
……奴なら Pavor に対抗する作戦を知っている筈だ。
脂汗の浮いた渡瀬はスタッフに背を向けた。
「長官!」
現場放棄。
しかし、彼の耳には誰の言葉も入らなかった。
-GDS 医務室 -
ベッドに座り、毛布を被る。
暗く、暗く……。少しでも外界を隔てたかった。
……嘘だ。
受け入れたくない。香織にとって、恵美は姉そのものだった。例え自分が死ぬことがあっても、恵ねぇだけは生き延びる。そう信じていた。
強くてさっぱりしていて、妙に優しい。心の支え、依るべき存在。
思い出す度、静かに、静かにしとど涙が落ちた。
……今のあたし、情けないよね。恵ねぇ、叱りに来てよ。
『あんたにはまだ守る者、あんだろ』
でもね、今、居ない……。手の届かないとこ、行っちゃった。
『あんたはあんたの任務、果たしな』
……どうやって?
『勝手に諦めてんじゃないよ!行動しなきゃ終りだろ !! 』
香織は唇を噛み締めた。
そうだ……勝手に終わってた。あたし、勝手に終わってた。
……まだ、終わってない。あたしは生きてる。それに、今こそ涼ちゃんを助けなきゃ!
『行くよ、香織!』
「香織ちゃん」
カーテンの向こうより白木が声を掛けた。
「開けるわよ。長官が呼んで……」
カーテンを開けた白木は言葉を呑んだ。
額にバンダナを締め、口を引き結んだ香織が頷いていた。
「うん、行けます。涼ちゃん助けに行くんですよね」
まだ声は震えていた。目も、赤く腫れていた。しかし、瞳の光は恵美を思わせる、力強さを宿していた。
「そう……行けるのね」
思わず白木は香織を抱き寄せた。胸に埋まる香織の目が、再び濡れる。
でも、それでもいい。
それでも白木は、香織を抱きしめずにはいられなかった。




