明鏡止水
3
セルの破孔に突入した瞬間、 Rabbit は背後に衝撃を受けて転倒した。
後続の機甲体だ。
「……もぉっ!急いでんの !! 」
そのまま前方に回転し、身構えた。
『 caution 』
左飛翔フィン破損。
機甲体の構える槍が恨めしい。が、
「戦闘に支障なし!」
正面に3機。
「 ツール セット、 ソード!」
抜刀と同時に三本の槍が Rabbit を襲う。
しかし彼女はその三本を同時に峰で絡め、床に封じた。
「はっ!」
槍を踏み台に背後へ転じ、1機の心臓を一突き。振り返って、横薙に振るわれた槍を下に避け、腕を斬る。その腕が飛んだ。返す刀身を袈裟に、胴を縦に両断。そのまま八双の構えから、残った機甲体の首を絶つ。
「ふぅ……」
3機一斉に倒れた。
とその時、セルの奥より轟音が。
「……なに?」
気が逸れた。
いつの間に来たか、新手の機甲体が槍を構えていた。
……間に合わない!
覚悟して身を固めた。
と、機甲体の胸部装甲が吹き飛び、膝より崩折れた。
「油断禁物ってんでしょ、香織」
Minx だ。仮面の奥に恵美の笑顔が想像出来そうである
「恵ねぇ、今、奥から……」
Minx は頷いた。
「アイツだろうね。急ぐよ」
「ぅおぉぉぉ !! 」
3層目の床に再び左掌の衝撃波を放ち、更に下層へ。
この技は体力を大きく奪う。しかし、涼介は構わない。とにかく早く兄の、いや、 Syleus の前に。
……この下に!
瓦礫と共に落下。
人に Pavor たる心臓を移植し、安定させるためのプラント。
目下洋介の姿が見えた。
いや、銀色の装甲をした…… Syleus 。
「ぅえぁぁぁぁぁ !! 」
そのまま頭頂に長剣を振り下ろす。
「……荒い」
気配もなく Syleus は半身横へ。
刀身は床を斬り裂いた。
「くそ!」
Pleiades の首を狙い三又の槍、ハルバートが襲う。それを後方に転じて躱し、そのまま間合いを置いた。
「涼介、お前に戦いは似合わない」
「兄さんの口で言うな !! 」
激情に駆られ、不用意に斬り込んだ。 Syleus はそれを三つ叉で絡め、 Pleiades の手より刀を弾き飛ばした。
「この体、そしてこの記憶……間違いなくお前の兄、洋介だ」
周囲の容器が割れた。
溶液を撒き現れたのは、移植間もない……蛹体の機甲体。
神宮外苑で倒れた、自衛官たちである。
「だから、私は手をくだしたくない」
「よくも……最低だ……」
襲いかかる蛹体の拳を無造作に止め、涼介は呟いた。
「お前ら最低だ!」
拳を握り潰し、殴り飛ばした。
「兄さん……いや、 Syleus も Pavor も最低だ !! 」
「なら罪もない被害者を殺すお前は何だ!」
殴りかかる蛹体の右拳を躱し、顔面へ肘を叩き込む。
「俺はもう……人じゃない !! 」
次いで背後に回った蛹体へ蹴りを放つ。
「何一つ自分の手を汚さない……生物に寄生して、代わりに動かし、あまつさえあんたはそれでも自分で手を汚さない気か !! 」
蛹体の腕を取り、 Syleus に投げつけた。
「愚弄するか!」
ハルバートの一振りで蛹体が両断された。
「 Syleus ……これでまた1対1だ」
「弟と思って手心を加えてやれば……」
「俺はもう……人じゃない。 Pavor にとっての悪魔になる」
「いいだろう…… 15 年前の屈辱、濯いでみせよう」
気配もなく突き込むハルバート。
Pleiades は咄嗟に身を翻す。
「……くっ」
僅かに胴をかすり、火花を上げた。
「ぬるい!」
刹那の間、 Syleus が面前に迫る。
「ぬん!」
首筋を狙う柄を、クロスした腕が防ぐ。しかし、体ごと飛ばされた。
「えぇぇい!」
続けて襲う三つ叉が、間一髪壁にめり込んだ。
「さっきの威勢はどうした! 15 年前、私を圧倒した Pleiades は幻影か !! 」
Pavor 機動部隊長たる実力。 Eridanus や Vega とは格が違う。
……剣、蒼流剣さえあれば。
突き付けられたハルバートを上へ弾き、床に転がる剣へ身を翻した。
「浅ましい!」
後頭部に柄が直撃。
「くぅっ」
目が眩み、一瞬センサーが明滅。長剣を手にすることなく吹き飛ばされた。
「見え見えだ!そんなに剣が欲しいか !! 」
……くそ!
意を決して身構えた。
「いらない。そんな物なくたって、お前に勝つ!」
「荒い動きの貴様に洗練された動きが出来るか……思い知れ!」
「知るか!」
ハルバートを躱し、スラスターで加速。 Pleiades の拳が Syleus の装甲を捉えた。
Pleiades の拳と Syleus の顔面装甲の衝突に、その金属音は大気を揺るがし壁面にひびを入れた。
しかし……。
「だから言ったのだ、弟よ……。お前は戦いに向いていない」
涼介は奥歯を噛み締めた。
右拳のクリーンヒットを浴びた顔面が微動だにしない。 Vega の時と同じ。
……何が足りない。
仮面越しに、洋介の口が笑みに歪むのが伺えた。
「思い知れ、本物の……戦士を!」
Syleusの激しい連激。圧されつつ Pleiades は紙一重で躱し続けるものの……。
「おぉぉぉぉぉ!」
Pleiadesの各所装甲に亀裂が入る。
……もたない!
Syleus はハルバートの柄で Pleiades の両腕を跳ね上げる。
胴が……空いた。
「せあぁぁぁぁ !! 」
Syleus の蹴りがPleiadesの胸に直撃。胸部装甲が弾け飛ぶ。
「涼介、最期だ!」
左掌が当てられた。
必殺の、衝撃波 。
……殺られる!
涼介が息を詰めた……その時。
「涼ちゃんになにすんのよ !! 」
純白のAMが天井より急降下。不意を突かれた Syleus の背中に、スラスターによる回転を加えた蹴りを叩き込む。
「おまたせ!」
Syleus を吹き飛ばしたAM、 Rabbit が涼介に向けて親指を立てた。
「香織!」
「涼ちゃん、シリアス似合わないよ」
「大きなお世話だ!」
一瞬気の抜けた Pleiades は、膝を崩して座り込む。
「少し休んでて」
「え……待て香織 !! 」
待つ娘ではない。
「 ツール セット、 ソード!」
刀を抜いて、倒れる Syleus に斬り掛る。
「ぃやぁぁぁぁぁ!」
「かなう相手じゃない!」
Rabbit の超伝導モーターが唸り、刀が消えた。
……疾い!
しかし、 Syleus は音もなく躱し、刀を振るう Rabbit の肘を押さえていた。
「……うそ」
「小娘……よくも足蹴にしてくれたな」
Syleusの左掌がRabbitの胸に。
「やめろ Syleus!! 」
「 胸部シールド最大‼︎」
『 protection ready ……』
Pleiades が体当たりをすると同時、 Syleus の 衝撃波が Rabbit に……。
『 DANGER!! 』
Rabbit が、人形のように床を転がった。
「香織ぃぃぃぃ !! 」
叫んだ。
「香織、かおり、かおり !! 」
「へ……平気」
微かに声がした。しかし、言葉通りの状態でないのは容易に知れた。
「シリウス !! 」
Pleiades の、涼介の胸に再び光が浮いた。
……そうだね、リュオス。
ウォルフ星人の、共にある仲間の声が聞こえた。
『荒波を鎮め、鏡の水面に立て』
……そう、そうだった。
体から力みが消えた。
「香織、少し我慢な。すぐ助けるから……」
Rabbit を横たえ、 Syleus を一瞥した。そして未だ握り込む彼女の手より、刀を受け取った。
Syleus が動けない。Pleiadesに隙がないのだ。
「情けないものだな。女一人で取り乱すか」
「焦りを誘っても無駄だよ。あの時も……そう、 15 年前もこうだった」
怒りを通り越して訪れた……清澄。
Syleus はハルバートを構えた。
「よかろう。次で決める」
「……そうだね」
今の涼介には Syleus の呼吸さえも見えた。
……参の型、飛燕。
「せぁぁぁぁぁ !! 」
先に動いたのはSyleusだった。鋭い突きがPleiadesを襲う。
「せぃっ」
それを刀で絡め、手首の返しで弾く。
「……な」
ハルバートが飛んだ。
「せぃやぁぁぁぁ !! 」
閃く刀が Syleus の肩口を鋭く斬り裂いた。
「ぐっ……」
超振動単結晶の刀身は機甲体の、 Syleus の装甲を苦もなく裂いた。
しかし……浅い!
Pleiades の蒼流剣より僅かに短いこの刀、踏み込みが不十分。それでも深手だ。左肩がざっくり割れていた。
「こ……このぉぉぉ!」
Syleus は左掌の衝撃波で刀身をへし折った。
「 Pleiades !この勝負、預けた!次は必ず倒す !! 」
肩口より鮮血を流す Syleus は、フィンを展開しスラスター噴射。
「 Syleus 、逃げるなぁぁぁぁ !! 」
あの方向は……脱出艇。
追撃しようとするが、体のダメージがそれを許さない。
それ以上に……。
「涼……ちゃん」
香織の呻き声が聞こえた。途端、涼介の心は乱された。
「香織、平気だよな、死なないよな!」
急ぎ Rabbit を抱きかかえた。すると、
「涼介くん、それに香織。無事だった !? 」
天井より顏を覗かせたAM、 Minx 。
「め……恵美さん。香織が、かおりが!」




