トランスプラント・セル
2
「 サーチ、何機⁉︎」
AMの AI がセンサーの情報を瞬時に解析、ディスプレイに必要最低限の情報を表示した。
『 twelveth 』
全て『蛹体』呼ばわる装甲未だ未完成な……サナギのような存在。
つまり、昨夜クレーター周辺の警備にあたっていた犠牲者たちだ。それを思うと……。
「香織、気後れするんじゃないよ」
見透かされていた。
「出来ることをやる。これ以上の犠牲者、出さないようにね」
……そうだ。
「はい、恵ねぇ!」
相対距離、 600m 。
「 ツール セット、ソード!」
Rabbit 特有の刀を抜き放つ。
恵美は Minx のディスプレイに表示される新装備に口許を弛めた。
「東山のおっちゃん、気が利くじゃない」
それは、両手首に内蔵されていた。
「 ツール セット、スタンアーム!」
Minx の手首に高磁フィールドの圧縮端末がセットされた。
「いっっっっけぇぇぇ !! 」
更に加速。
二人は急降下で 12 機からの機甲体をすり抜けた。
不完全とはいえ、さすがは機甲体だ。反応は早かった。宙空でスラスターを全開にし、一斉に身を翻す。
「やっぱ相手しなきゃ駄目か」
あわよくば、そのままトランスプラント・セルに取り付こうとしたのだが。
「何よ、やっぱり恵ねぇだって……」
ふわり、とクレーターに着地。
「無益な殺生は、ってね。しょーがない、『セル』ってのを背中に迎え撃つよ」
「なぁる、右手の兵器封じる訳ね」
上空より取って返す機甲体が右掌をかざすものの、放てない。
と、なれば一斉に地表へ降下、接敵。
「やぁぁぁ !! 」
Rabbit はスラスターで加速。機甲体と交錯した。
槍を持つ機甲体の腕を交い潜り、胴を両断。そのまま囲みへ飛び込んだ。
ほぼ手応えがない。超振動ブレードの前に、蛹体の装甲は紙同然だった。
「香織、一気にいくよ」
いつの間に来たのか、 Minx が背中合わせに構えていた。
「そのつもりです!」
Minx は機甲体の群れへ駆け出した。
……軽い!
接近戦となると、改良されたAMの利点がダイレクトに伝わった。
横薙の槍へ踏み込み左腕で止め、それを右腕で叩き折る。
「ぃやぁぁぁ !! 」
続けて繰り出す掌底が機甲体の頭部に直撃。
「がはっ」
掌底から発せられる磁場の衝撃波に、機甲体の装甲は砕け散る。
想像以上の威力。 スタンアームへ目をやった。
「ふぅ……いいね、これは」
その背後より槍が突き込んだ。
「油断ですよ」
火花を散らし、 Rabbit の刀が槍を弾き返す。
「 Thanks !」
螺旋に身を沈めた Minx は背後の機甲体の足を蹴り払う。そしてとどめの掌底。雷光が装甲を粉砕し、地面に孔を穿つ。
そこで、二人の耳に涼介の声が飛び込んだ。
「どけぇぇぇぇ!」
咄嗟にスラスターを噴かして離脱。
Pleiades の右掌より放たれた光弾が、数機の機甲体を巻き添えに楔の表面を直撃した。
それを追うように、白い影が一直線に駆け抜けた。
「涼ちゃん!」
- セル内部 -
破孔より潜入した Pleiades は、この光景に一瞬目眩を覚えた。
……デ・ジャ・ヴュー ( 既視感 ) 。
「……くぅ」
胸に痛みを感じ、脳に弾丸を撃ち込まれたような衝撃を受けた。
思わず装甲を解除した。
トランスプラント・セル。
これと同型の物。 15 年前、月面でセルの一つを占拠したウォルフ星人によって、 Pleiades を植え付けられた。そうしなければ死んでいたとはいえ、忌まわしい記憶だ。
Pavor の軌道前線基地に運ばれたセルを水際で破壊した時が、リュオスとの別れだった。
あれで全て終わったと思っていたのに。自分が孤独を受け入れ、全てが平和に治まると思っていたのに……。
「どこだ、兄さん。居るんだろ」
胸に光が宿る。 Pavor の共鳴だ。
『来い、 Pleiades 』
呼び掛けが心に響く。
「違う、俺は涼介だよ」
頭にイメージがフラッシュした。
培養室だ。
……知っている。
あそこで2ヶ月、 Pavor (心臓)と同化し、そしてウォルフ星人を受け入れた。
当時を思い出すように、涼介は足を踏み出した。
- セル外部 -
「まぁたあいつはぁ!」
また一機、 Minx は機甲体を破壊しつつ吼えたてた。
「先に行くなってのに……香織、続くよ」
傍に Rabbit の姿がない。
「ぇやぁぁぁぁ !! 」
超振動単結晶の刀身一閃、 Rabbit を取り囲む機甲体3機の関節が斬り刻まれた。
「邪魔しないで!」
一つ叫ぶと、刀を腰の鞘に納刀。
「 フライ モード!」
Rabbit がフィンを展開、スラスターに火が入る。
「恵ねぇ、お先に!」
飛翔。
数機の機甲体を引き連れ、破孔へ飛込んだ。
「あ~らら、やる気じゃない」
負けじと Minx もフィンを展開し、後を追った。
- セル内部 -
……この廊下の突き当たりに、中央シャフト。そこにリフトが。
涼介の運ぶ足に迷いはない。
ただ辛いのは、心臓に残った記憶。この Pleiades は、父より受け継いだ心臓だ。自分が血液循環器に繋がれ、身動き取れぬ間に起きた事実を、断片的ながらも知ることが出来た。
涼介はシャフトの前に立ち、リフトを待った。
リフトが上がり、戸がスライドした。
分かっていたつもりが、それでも涼介は息を呑む。
「……兄さん」
リフトの中より現れた男が、柔らかい笑みを見せた。
「涼介……大きくなったな」
4歳離れた兄、昴洋介だ。
涼介は奥歯を噛み締め、涙を滲ませた。
変わらない……記憶の中にある、全幅の信頼を寄せていた、優しい兄さん。いつも守ってくれた、強い兄さん。
「 15 年振りか。元気そうで嬉しい」
涼介がふと困惑した表情を見せ、洋介が納得したように頷いた。
「いや……コールド・スリープだ。お前はコールド・スリープで、目覚めて5年なのだったな。お前にとっては5年かもしれんが、私には 15 年……。我々は再生に 15 年かかった。その間、眠りに就くことも、動くことも叶わなかった。この再会をどんなに待ちわびたか」
あまりにも暖かい、懐かしい匂いがした。
「なんで……」
しかし、涼介は吐気を覚えた。
脳の中心を弾丸のような記憶が突き刺さる。 16年前の…… Syleus に胴を斬られた記憶。いや、これは父さんの記憶だ。そして、軌道基地での攻防。あの時の自分の殺意は、確かに本物だった。そしてそれは、 Syleus も同じだ。
「なんで笑顔で話しかけるんだよ!俺は兄さんを殺そうとしたし、兄さんは父さんを殺したんだぞ !! 」
洋介が微笑みながらかぶりを振った。
「兄弟だろ」
「そうだよ!だから……」
胸が痛い。心臓の記憶が痛みを訴える。
あの時確かに誓った。そして、父の記憶がそれを新たにさせる。
そう、兄を許さない。 Pavor を許さない。
しかし、洋介はどうしようもなく肉親だった。
「そうだ。だから、兄弟で再び手を取り合い、 Pavor として戦おう」
差し延べられた手に、愕然とリュオスの言葉が思い出された。
『彼は諦めろ!』
「我らと共に戦うなら、兄弟だ、特別に反逆罪には問わず、俺の部隊に編入しよう」
「やっぱり……」
悲しみと絶望が押し寄せた。
「兄さんなんかじゃない!」
「涼介……」
「兄さんが母さんを殺した奴らの味方になる筈ない!」
洋介は冷たい笑みを見せた。
「間違えるな。母さんを殺したのは、父さんだ」
腹より熱い怒りが込み上げた。
「だから父さんを殺したのか !! それに……父さんだって殺したくて殺したんじゃない!もう……もとの母さんじゃなかったから……殺すしかなかったから……」
「詭弁だな。生きていて欲しいなら、どんな姿でいても生きていて欲しい。私は、そう望んでいた」
「姿だって !? 姿があったって、心がないじゃないか !! 兄さんだってそうだ。もう、洋介兄さんの心なんてない!地球の侵略なんかじゃないんだ、心の侵略だよ !! 」
洋介は目を眇めて涼介に手を伸ばした。
「そう……心か。そうだな、お前はそこから調整する必要がある」
涼介はその手を叩き落とした。
「必要ない!もういい。洋介兄さんはもう居ない!お前は、おまえは……」
リュオス、父さん。もう迷わない。
「そうか、飽くまで逆らうか」
洋介は踵を返し、リフトの中へ。
「待て!」
ドア閉鎖。リフトが降下した。
「……下、プラントか!」
すると、シャフト裏の戸、階段が解放、5機の機甲体が涼介に襲いかかった。
「ふ……ふざけんなぁ !! 」
胸の光が七つに分裂し、涼介を包み込む。
「 ぅおぉぉぉぉぉ!! 」
体内より浮かぶように装甲が現れ、涼介は機甲体 Pleiades に変貌した。
「蛹体で俺を止められるか!」
一斉に突き込む5本の槍を、跳躍で躱す。そのままスラスターで後方へ転じ、
「ぇやぁぁぁぁ !! 」
Pleiadesの右拳の突きが、背後より背骨を絶つ。
「蒼流剣!」
長剣を振るうと、残る4機は一瞬に斬り裂かれた。
その4機を確認するでもなく、 Pleiades は左手を床に付く。
「 Syleus 、今行く !! 」
左掌の衝撃波が、轟音を立てて床を瓦解させた。




