表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/63

トランスプラント・セル

     2

 「 サーチ、何機⁉︎」

 AMの AI がセンサーの情報を瞬時に解析、ディスプレイに必要最低限の情報を表示した。

 『 twelveth 』

 全て『蛹体』呼ばわる装甲未だ未完成な……サナギのような存在。

 つまり、昨夜クレーター周辺の警備にあたっていた犠牲者たちだ。それを思うと……。

 「香織、気後れするんじゃないよ」

 見透かされていた。

 「出来ることをやる。これ以上の犠牲者、出さないようにね」

 ……そうだ。

 「はい、恵ねぇ!」

 相対距離、 600m 。

 「 ツール セット、ソード!」

  Rabbit 特有の刀を抜き放つ。

 恵美は Minx のディスプレイに表示される新装備に口許を弛めた。

 「東山のおっちゃん、気が利くじゃない」

 それは、両手首に内蔵されていた。

 「 ツール セット、スタンアーム!」

  Minx の手首に高磁フィールドの圧縮端末がセットされた。

 「いっっっっけぇぇぇ !! 」

 更に加速。

 二人は急降下で 12 機からの機甲体をすり抜けた。

 不完全とはいえ、さすがは機甲体だ。反応は早かった。宙空でスラスターを全開にし、一斉に身を翻す。

 「やっぱ相手しなきゃ駄目か」

 あわよくば、そのままトランスプラント・セルに取り付こうとしたのだが。

 「何よ、やっぱり恵ねぇだって……」

 ふわり、とクレーターに着地。

 「無益な殺生は、ってね。しょーがない、『セル』ってのを背中に迎え撃つよ」

 「なぁる、右手の兵器封じる訳ね」

 上空より取って返す機甲体が右掌をかざすものの、放てない。

 と、なれば一斉に地表へ降下、接敵。

 「やぁぁぁ !! 」

  Rabbit はスラスターで加速。機甲体と交錯した。

 槍を持つ機甲体の腕を交い潜り、胴を両断。そのまま囲みへ飛び込んだ。

 ほぼ手応えがない。超振動ブレードの前に、蛹体の装甲は紙同然だった。

 「香織、一気にいくよ」

 いつの間に来たのか、 Minx が背中合わせに構えていた。

 「そのつもりです!」

  Minx は機甲体の群れへ駆け出した。

 ……軽い!

 接近戦となると、改良されたAMの利点がダイレクトに伝わった。

 横薙の槍へ踏み込み左腕で止め、それを右腕で叩き折る。

 「ぃやぁぁぁ !! 」

 続けて繰り出す掌底が機甲体の頭部に直撃。

 「がはっ」

 掌底から発せられる磁場の衝撃波に、機甲体の装甲は砕け散る。

 想像以上の威力。 スタンアームへ目をやった。

 「ふぅ……いいね、これは」

 その背後より槍が突き込んだ。

 「油断ですよ」

 火花を散らし、 Rabbit の刀が槍を弾き返す。

 「 Thanks !」

 螺旋に身を沈めた Minx は背後の機甲体の足を蹴り払う。そしてとどめの掌底。雷光が装甲を粉砕し、地面に孔を穿つ。

 そこで、二人の耳に涼介の声が飛び込んだ。

 「どけぇぇぇぇ!」

 咄嗟にスラスターを噴かして離脱。

  Pleiades の右掌より放たれた光弾が、数機の機甲体を巻き添えに楔の表面を直撃した。

 それを追うように、白い影が一直線に駆け抜けた。

 「涼ちゃん!」


    - セル内部 -

 破孔より潜入した Pleiades は、この光景に一瞬目眩を覚えた。

 ……デ・ジャ・ヴュー ( 既視感 ) 。

 「……くぅ」

 胸に痛みを感じ、脳に弾丸を撃ち込まれたような衝撃を受けた。

 思わず装甲を解除した。

 トランスプラント・セル。

 これと同型の物。 15 年前、月面でセルの一つを占拠したウォルフ星人によって、 Pleiades を植え付けられた。そうしなければ死んでいたとはいえ、忌まわしい記憶だ。

  Pavor の軌道前線基地に運ばれたセルを水際で破壊した時が、リュオスとの別れだった。

 あれで全て終わったと思っていたのに。自分が孤独を受け入れ、全てが平和に治まると思っていたのに……。

 「どこだ、兄さん。居るんだろ」

 胸に光が宿る。 Pavor の共鳴だ。

 『来い、 Pleiades 』

 呼び掛けが心に響く。

 「違う、俺は涼介だよ」

 頭にイメージがフラッシュした。

 培養室だ。

 ……知っている。

 あそこで2ヶ月、 Pavor (心臓)と同化し、そしてウォルフ星人を受け入れた。

 当時を思い出すように、涼介は足を踏み出した。



    - セル外部 -

 「まぁたあいつはぁ!」

 また一機、 Minx は機甲体を破壊しつつ吼えたてた。

 「先に行くなってのに……香織、続くよ」

 傍に Rabbit の姿がない。

 「ぇやぁぁぁぁ !! 」

 超振動単結晶の刀身一閃、 Rabbit を取り囲む機甲体3機の関節が斬り刻まれた。

 「邪魔しないで!」

 一つ叫ぶと、刀を腰の鞘に納刀。

 「 フライ モード!」

  Rabbit がフィンを展開、スラスターに火が入る。

 「恵ねぇ、お先に!」

 飛翔。

 数機の機甲体を引き連れ、破孔へ飛込んだ。

 「あ~らら、やる気じゃない」

 負けじと Minx もフィンを展開し、後を追った。



    - セル内部 -

 ……この廊下の突き当たりに、中央シャフト。そこにリフトが。

 涼介の運ぶ足に迷いはない。

 ただ辛いのは、心臓に残った記憶。この Pleiades は、父より受け継いだ心臓だ。自分が血液循環器に繋がれ、身動き取れぬ間に起きた事実を、断片的ながらも知ることが出来た。

 涼介はシャフトの前に立ち、リフトを待った。

 リフトが上がり、戸がスライドした。

 分かっていたつもりが、それでも涼介は息を呑む。

 「……兄さん」

 リフトの中より現れた男が、柔らかい笑みを見せた。

 「涼介……大きくなったな」

 4歳離れた兄、昴洋介だ。

 涼介は奥歯を噛み締め、涙を滲ませた。

 変わらない……記憶の中にある、全幅の信頼を寄せていた、優しい兄さん。いつも守ってくれた、強い兄さん。

 「 15 年振りか。元気そうで嬉しい」

 涼介がふと困惑した表情を見せ、洋介が納得したように頷いた。

 「いや……コールド・スリープだ。お前はコールド・スリープで、目覚めて5年なのだったな。お前にとっては5年かもしれんが、私には 15 年……。我々は再生に 15 年かかった。その間、眠りに就くことも、動くことも叶わなかった。この再会をどんなに待ちわびたか」

 あまりにも暖かい、懐かしい匂いがした。

 「なんで……」

 しかし、涼介は吐気を覚えた。

 脳の中心を弾丸のような記憶が突き刺さる。 16年前の…… Syleus に胴を斬られた記憶。いや、これは父さんの記憶だ。そして、軌道基地での攻防。あの時の自分の殺意は、確かに本物だった。そしてそれは、 Syleus も同じだ。

 「なんで笑顔で話しかけるんだよ!俺は兄さんを殺そうとしたし、兄さんは父さんを殺したんだぞ !! 」

 洋介が微笑みながらかぶりを振った。

 「兄弟だろ」

 「そうだよ!だから……」

 胸が痛い。心臓の記憶が痛みを訴える。

 あの時確かに誓った。そして、父の記憶がそれを新たにさせる。

 そう、兄を許さない。 Pavor を許さない。

 しかし、洋介はどうしようもなく肉親だった。

 「そうだ。だから、兄弟で再び手を取り合い、 Pavor として戦おう」

 差し延べられた手に、愕然とリュオスの言葉が思い出された。

 『彼は諦めろ!』

 「我らと共に戦うなら、兄弟だ、特別に反逆罪には問わず、俺の部隊に編入しよう」

「やっぱり……」

 悲しみと絶望が押し寄せた。

 「兄さんなんかじゃない!」

 「涼介……」

 「兄さんが母さんを殺した奴らの味方になる筈ない!」

 洋介は冷たい笑みを見せた。

 「間違えるな。母さんを殺したのは、父さんだ」

 腹より熱い怒りが込み上げた。

 「だから父さんを殺したのか !! それに……父さんだって殺したくて殺したんじゃない!もう……もとの母さんじゃなかったから……殺すしかなかったから……」

 「詭弁だな。生きていて欲しいなら、どんな姿でいても生きていて欲しい。私は、そう望んでいた」

 「姿だって !? 姿があったって、心がないじゃないか !! 兄さんだってそうだ。もう、洋介兄さんの心なんてない!地球の侵略なんかじゃないんだ、心の侵略だよ !! 」

 洋介は目を眇めて涼介に手を伸ばした。

 「そう……心か。そうだな、お前はそこから調整する必要がある」

 涼介はその手を叩き落とした。

 「必要ない!もういい。洋介兄さんはもう居ない!お前は、おまえは……」

 リュオス、父さん。もう迷わない。

 「そうか、飽くまで逆らうか」

 洋介は踵を返し、リフトの中へ。

 「待て!」

 ドア閉鎖。リフトが降下した。

 「……下、プラントか!」

 すると、シャフト裏の戸、階段が解放、5機の機甲体が涼介に襲いかかった。

 「ふ……ふざけんなぁ !! 」

 胸の光が七つに分裂し、涼介を包み込む。

 「 ぅおぉぉぉぉぉ!! 」

 体内より浮かぶように装甲が現れ、涼介は機甲体 Pleiades に変貌した。

 「蛹体で俺を止められるか!」

 一斉に突き込む5本の槍を、跳躍で躱す。そのままスラスターで後方へ転じ、

 「ぇやぁぁぁぁ !! 」

 Pleiadesの右拳の突きが、背後より背骨を絶つ。

 「蒼流剣!」

 長剣を振るうと、残る4機は一瞬に斬り裂かれた。

 その4機を確認するでもなく、 Pleiades は左手を床に付く。

 「 Syleus 、今行く !! 」

 左掌の衝撃波が、轟音を立てて床を瓦解させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ