表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/63

おにぎり

     4

     - 更衣室 -

 気付けば昨日から着替えていない。

 涼介は隊長の東郷に促され、更衣室に連れ込まれた。

 「意外に背が高いな。サイズは 175 ……くらいか?」

 へぇ……と涼介は感心した。

 「よく分かりましたね」

 「自慢にもならん。これを着ろ」

 投げ渡されたのは、東郷も着る黒のツナギだ。ボディー・アーマーも付随し、重いことこの上ない。

 「本格的ですね。ドキドキしてきまし……」

 突然東郷がロッカーを殴りつけた。

 「 Syleus を知っているのか?」

 「……え?」

 睨み付ける東郷には、殺気にも似た迫力があった。

 「お前と Syleus はどいう関係だ!返答次第では……」

 しかし、息を詰めるようにして逃げ場を探す、あまりにも脆弱な涼介に、東郷は先を飲み込んだ。

 ……こいつが機甲体だと !? 切札だと !?

 そんな事実と、彼の過去が交錯した。

 記憶を失い、冷凍睡眠中の 10 年を失い……恐らく家族も。恐らく家族も連れ去られ、運悪く……。本来なら、自分たちが守るべき弱者なのだ。そして、目の前の涼介には、肉体的にも、精神的にも、 18 歳の大人に成り切らぬ脆さがあった。

 迂濶にも東郷はその時、彼を引き取った藤岡の心情を理解した。いや、分かってしまった、と言うべきか。

 「くそ!」

 東郷は振り上げた拳の代わりに悪態を吐いた。

 「まぁどっちでもいい。奴からの伝言だ。『計画は発動した、永田町で待つ』だそうだ」

 …… Syleus が。

 涼介は唾を飲み込んだ。

 「俺は……」

 「関係ない」

 東郷は背を向けた。

 「お前が奴とどんな関係だろうと知らん。しかし、私は奴を殺る。やつを殺るのは私だ。近江の敵討ちを邪魔するなら、貴様とて容赦せん !! 」

 東郷はもう一度ロッカーを殴り付けると、先に更衣室を退室した。

 残された涼介は、

 「まいったね……」

 ツナギと格闘しつつ、眉を寄せて呟いた。


  -GDS 集中発令所 -

 「 Pixy からの映像、来ます」

 正面に展開する大型ディスプレイにノイズが走る。数秒おいて、航空写真のような映像が鮮明に現れた。

 首都高4号線と 国道246 号線に挟まれた、新宿区霞岳町……神宮だ。そこに、砲火と見られる光点が集中していた。

 「さっさと拡大しろ!」

 赤城の一喝に、神宮外苑前、 JR 信濃町駅が拡大された。そこに……。

 「機甲体か!」

  10 を越える機甲体。対して陸上自衛隊が防衛線を張り、装甲車と銃火機を用いて応戦していた。

 それもあと何分保つのか。

 「神宮外苑には何人の民間人が待避している !? 」

 「約3千人です!」

 赤城は相良をみやる。相良は顎を引いて受話器を持った。

 「陸自に要請。前線を維持しつつ、民間人を連れて後退!後は GDS が引き受けた !! 」

 そして赤城は格納庫に連絡。

 「東山さん、 Wyvern へAMの搬入、急いでください!」

 『急かすな。全 10 機には間に合わん。積み込みには6機が限界だ。いいな !? 』

 飲むしかない。

  Sound only の通信に、赤城は無言で頷いた。



     - 待機室 -

 更衣室を出た涼介は、しばし足を躊躇させた。

 正面に大型のディスプレイを据えた室内に、折り畳みのパイプ椅子が雑多に並ぶ。そこで、黒いツナギの隊員たちが思い思いに雑談を交していた。

 部外者には、にわかに立ち入り難い空間だ。

 「涼ちゃん、こっちこっち」

 右端の空間で手を振る香織。同じく黒のツナギに着替えていた。

 その隣には恵美が腕を組む。

 「おお、似合うじゃん」

 香織の口許は笑っていた。

 「からかうなよなぁ」

 明らかに香織の方が様になっている。

 「ぼやくと朝ご飯あげないぞ」

 言われて初めて空腹を思い出した。

 「座んな」

 恵美は顎で香織の隣を示した。

 「おにぎりだけど……」

 三角形に海苔の巻かれた、ふわりと温かいおにぎり。掌に、ぽんと置かれた特大のそれを、喉を鳴らしてかぶりつく。

 柔らかに握られた飯粒に包まれた塩鮭が口の中で鮮やかに広がり、心の内より熱い物が込み上げた。

 「……どうしたの?」

 胸が痛い。

 涼介の心に様々な思いが交錯し、胸を締め付けた。

 目に浮き上がり、溢れそうな涙を堪えながら、喉に押し込んだ。

 「これ……うまい」

 「うん、そうだね」

 香織はただ、頷いた。


 「でさ……」

 不意に恵美に声を掛けられ、涼介は喉を詰まらせた。

 「頬っぺた、ご飯粒付いてるよ」

 「ふもご、ふもほも!」

 混乱する涼介に、香織よりテルモスのお茶が渡された。

 「東郷の兄さんに、何言われたんだい?」

 喉を潤した涼介の動きが固まった。

 「言われたんだね」

 恵美に振り向いた涼介は、既に笑顔であった。

 「いやぁ、俺素人だから、戦闘中の注意を少し」

 恵美は舌を打つ。

 「何を言われたか知らないけどさ、気にすんじゃないよ。あいつは思い込み激しいからさ」

 「隊長のことになると姉さんは」

 背後に煙草の臭い。

 「元彼だからって、あまり喧嘩売っちゃぁいけないぜ」

 恵美と香織が振り返る。

 「シン!」

 「オルコックさん!」

 金髪の優男が白い歯を見せてウィンク。シン・オルコックだ。

 「あんた、骨折いいの !? 」

 「ね、どーなんしょ。どんな薬使ったやら、骨折や内臓の損傷が10 時間そこそこで回復しやがんの。勝手に実験台にしやがって」

 喜んでいいやら悪いやら……。

 しかし、楽観的なシンは気にしている風でもない。涼介の肩に手をかけ笑って見せた。

 「君か、見掛けによらず強いってのは。俺はシン・オルコック、 tomcat だ。昨日は助かったぜ。よろしくな」

 そして耳に口を寄せた。

 「あの姉さん、美人のわりにゃぁキツい性格だ。隊長と別れたのもその辺らしい。気ぃ付けろよ」

 「聞こえてるよ」

 そして片目をつむる。

 「ついでに地獄耳だ」

 涼介と香織は思わず吹き出した。

 「シン、ガラにもなく心配したんだから」

 「光栄だね」

 シンは恵美の隣に座る。

 「恵姉さん、あんまり隊長につっかからんほーがいいぜ」

 恵美は、ふんと鼻を鳴らした。

 「つっかかっちゃないわよ。ただ、あいつのエラソーな態度にムカつくだけ」

 「……これだよ。ほれ、噂のお人が来ましたぜ」

 東郷隊長が正面の壇上に上がった。

 「静かに、静かにしろ!おいシン、ここは禁煙だぞ!」

 「ぅへぇ~い」

 生返事を返すと、シンはポケットより携帯灰皿を出して煙草の火を押し付けた。

  18 人からなる遊撃隊。昨晩の欠員により、ここに集まるのは 17 人……。

 めいめいにくつろいだ雰囲気だが、張り詰めた緊張が痛い程伝わった。

 「作戦方針が決まった」

 東郷に視線が集中。

 「昨夜より認識された機甲体を、侵略の意図を持つ異星人と断定、断固目的を阻止する」

 隊員の一人が口笛を吹いた。

 「いいね、エイリアンか。 GDS は地球防衛軍ってな」

 「ふざけんじゃないよ」

 恵美が釘を刺す。

 「おやおや、惨敗した minx ちゃんかい」

 「今ここで火遊びするかい?」

 「やめろ!」

 東郷が机を殴り付けた。

 「私も惨敗した。そして、近江もな……」

 水を打ったように静まった。

 「AMの改装が遅れている。第一陣は私と minx 、 tomcat 、 rabbit 、 eagle( イーグル ) 、 elephant( エレファント ) だ」

 一斉にブーイングが上がった。

 「おいおい、殆んど負け組じゃねぇかよ!」

 「元から壊れた機体の方が改装し易かったんだ!順次改装が終了次第、出撃してもらう !! 」

 ぴしゃりと非難を抑え込み、神宮周辺の航空写真をディスプレイに表示した。

 「まず、第一目標に、避難する民間人の待避支援。第二目標は永田町クレーターへの攻撃」

 そして、機甲体の Eridanus と Syleus の映像に。

 「見ての通り、異星人の機甲体はAMに類似している。敵味方識別コードを徹底しろ。それと……」

 東郷は言葉を詰まらせ、映像を変えた。

 「最も機甲体に類似した我が方の機体だ」

 再びざわめきが。部外秘扱いだったが、この手の噂はまたたく間に飛び火する。既に知っている者が殆んどだ。

 白地に赤のラインを引いた、スリムな機体。両目 ( センサー ) が青く光る。

 涼介…… Pleiades だ。

 東郷の視線が涼介に突き刺さる。

 「第一陣に同行する。藤岡先生の御子息、藤岡涼介。機体コードは Pleiades 。識別コードを搭載していない。誤射には注意しろ」

 東郷が同行に納得した訳でないのは見て取れた。

 と、スピーカーより呼び出し音。

 『格納庫より、 Wyvern の出撃準備完了。出撃要員は速やかに搭乗せよ!』

 ……来た。

 涼介は胃に、掴まれたような痛みを覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ