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Now,at present (現在)
-GDS 作戦会議室 -
翌朝9時、各国 GDS 支部とオンラインされた円卓に、疲労の色を隠せない面々が席を埋めた。
赤城長官はじめ、相良作戦参謀、東郷遊撃隊隊長、藤岡特別顧問、東山技術部長、小林医局部長、渡瀬業務管理官、白木長官補佐、そして遊撃隊の北条恵美と赤城香織。
その中に、部外者然とした涼介が小さく座を共にしていた。
「さて……」
赤城が重い口火を切った。
「昨夜の惨事に疲れているところ、よく集まってくれた」
力強く宣する赤城だが、やはりその裏には疲れが隠せない。
当然だろう。異星人とのコンタクト。そして完敗。その後殺到する情報に、中には未だ睡眠もなく対応するスタッフがあるくらいだ。
「惨事も惨事だな」
渡瀬だ。
「国家の中枢をやられ、しかも虎の子のAM惨敗。 GDS が聞いて呆れる」
「くだらん発言は控えて頂きたい」
参謀の相良が断ち切った。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず。これは、これから巻き返す為の会合です」
オールバックの髪に、口と顎を埋める髭。それら全てが白い。相良雄一郎作戦参謀。元陸上自衛隊幕僚長……目前まで登り詰めた男だ。鋭利な眼光同様、彼の性格もまた鋭利である。それが自衛隊を去った所以だ。赤城長官をして、「俺は相良さんの添えものだ」と言わしめる程の才人。東山技術部長と並ぶ名物男で、二人が碁敵なのは有名である。
「さて、本題に入りましょう」
バリトンを響かせ、相良は赤城に視線を送る。それを受け、赤城は言わずもがな「後は任せた」と頷いた。
「まず、大前提の仮定として、月面基地、各国首都、八王子を襲った者を同一とし、名を Pavor( パウォル ) と呼称させて頂きます」
室内がどよめいた。
香織と恵美はその名を一度聞いていた。しかし、この公式の場で何故。
「この補足について、小林医局部長からお願いします」
どよめきが静まるのを待ち、スーツ姿の小林輝男が起立した。
……あぁ、成る程。
涼介は合点がいった。あの小林、どこかで見た気がしていたのだ。
白衣姿で涼介を診たあの先生だ。スーツなど着て来るから分からなくなる。
「この度、謎であった藤岡涼介くんの記憶が少し解明されました」
「えぇっ !? 」
思わず声を上げたのは当の涼介である。
「俺の記憶、解明 !? 」
一同が失笑。自分の記憶について本人が他人に確認するなど間抜けな質問である。
「いや、基本的には違う。失礼ながら昨夜、君の心臓を調べさせてもらったよ」
「俺の心臓……?」
小林は頷いた。
「そう。そして、君の記憶は心臓によってプロテクトされていた」
無意識に右手が胸へ。
「少しやり方が荒っぽくなりましたが、細胞を採取、検査しました」
嫌な汗が背中に滲む。その先を言われるのが怖い。
すると、涼介の手を強く握る、小さな手があった。
「……香織」
彼女は頷いた。
「大丈夫、怖くないよ」
その言葉に、涼介は不思議と肚が座った。
「 Rabbit よりもたらされた映像……胸の光。我々医療従事者はもう一歩踏み込みます。あれは、心臓の位置です」
小林は清澄な円卓で話を続けた。
「うかつにも失念していたのです。内在性心臓神経細胞 (ICNS) の存在を。心臓は一部脳と同じ記憶の作用を持っています。もしや、と思い、心臓に直接アクセスしました。そこで侵略者パウォルの存在、そしてあたかもAMのような姿、仮称機甲体の情報を得るに至りました。ただ、何かが ICNS をプロテクトし、脳へのアクセスを拒んでいて、それ以上の情報は……。そしてもう一つ……」
向けられた視線に、涼介は不安を覚えた。
思い出した記憶の一つ。それが涼介を恐怖させた。
……俺は地球人だ。誰でもない、涼介だ。
「彼の心臓は移植された物です。しかも、地球上の生命体とは異質な……」
香織は震える涼介の手を、強く握り返した。
がたん、と音を立てて椅子が転倒した。
「地球の生命体ではない、と !? 」
身を乗り出して詰問した渡瀬業務管理官。鬼の首を取ったような勢いでまくし立てた。
「やはりコンタクティー、いや、地球人ですらないということか!」
「曲解を避けるために宣言しておきます。涼介くんは人間です。しかし、心臓が別物なのです。恐らく異星人に移植されたのでしょう。そして 15 年間、身体に影響を及ぼし、健康体でい続けたこと、機甲体に変わること。それは移植された心臓による物と断定してよいでしょう」
すると、赤城の隣より手が挙がる。
藤岡だ。
「と、いうことはだよ、あのエリダヌスってのも地球人ってことか?」
一同は息を呑む。
しかし、東郷はかぶりを振った。
「シリウスは異星人です」
「仮説だが……」
再び藤岡。
「機甲体とは、記憶の刷り込まれた心臓を移植され、意のままに操られる先兵……」
自然、視線が涼介に集まった。それは恐怖という……。
「ひどい!涼ちゃんは違います」
机を叩き、香織が反論した。
「裏切り者と言われ、しかも殺されそうになったんですよ!それを……先生、それでも父親のつもりですか !? 」
「あ……いや」
藤岡は香織の剣幕に色を失った。
「分かっているさ。涼介は違う。恐らく、心臓にかけられたプロテクトが涼介を涼介として保っているんだろう」
小林も頷いた。
「じゃぁ、俺の記憶、完全に戻らない方が……」
藤岡は肩をすくめた。
「そりゃ分からん。ところで赤城クン」
藤岡は赤城に話を振った。
「永田町の警備に当たっていた警官、消防他 35 人が消えたそうだね」
赤城は苦虫を噛み潰したような顏を見せた。
「はい、東郷を回収した後でね。無人偵察機の Pixy( ピクシー ) 3機飛ばして上空より監視を続けています」
すかさず白木が赤城にコピー用紙を差し出した。
「藤岡先生と小林先生には興味深い情報が来てますよ。今の話を聞いて、俺でも仮説が浮かんだくらいだ」
眉を顰める両先生は先を促した。
「ぞっとしない話なんですがね。周辺に散らばってたんですよ…… 30 を越える心臓がね」
- 永田町衝突孔 -
白く輝く円形の壁面。その内面に総計 36 の人体が直立の姿勢で、それぞれ溶液に浸って並べられていた。
「どうだ?」
中央の制御板に陣取る男へ、天井のリフトより降下した男が訊いた。
どことなく、涼介に似た面持ちだ。
「 syleus か。順調だぜ」
もう1人は vega 。機甲体を解くと、2人とも地球人そのものだ。
「ただ、急いだから俺たちみたいな精度は望むなよ」
ガラス容器にある人体は、一様に心臓部を管が網羅していた。
「 15 年の足踏みが、逆に我らの同化を強めたな」
syleus の皮肉に、 vega は肩をすくめた。
「で、残りは何人だ?」
「さぁな。本部と連絡取っちゃいねぇからな。 mother のご機嫌は Castor 兄弟に任せっきりだ」
「いい加減な男だ。分かった、連絡は私がしよう」
なるべく早く、そして出来るだけ多く。
侵略……いや、共存は始まったばかりだ。




