シリウス
- 永田町衝突孔 -
気温 120 ℃。歩くごと足首まで埋まる地面は 1000 ℃を超えていた。
「AMじゃなきゃ燃えてるな」
近江のぼやき。いや、恐怖か。
ステルスモードの筈が、熱で光が更に屈折して、半ばAMの姿が見え隠れした。
しかし、未だ蒸気に覆われるクレーターを見通すことなど、誰にも出来よう筈もない。
「泣くなよ、近江。そろそろ中心だ」
AMのセンサーは早くから中心部に金属反応を感知した。これだけで、只の隕石ではないことが判明した訳だ。
「ちゃんと本部に映像届いてるんだろうなぁ」
『 King より fang へ。安心しろ、届いてる。それと朗報だ。俺は管理官殿のおかげですこぶる機嫌がいい』
思わず二人は苦笑した。
「程々にしてくださいよ。下手すると明日からの昼飯、食材が悪くなる。……では、 phantom 、 fang 両名 アナライズ モードを立ち上げます。記録、落とさないでくださいよ」
東郷の皮肉に、 King こと赤城長官は鼻息を僅かに感じさせた。
『知るか。……いいか、僅かでも危険を察知したら待避だ。これは命令だぞ』
「了解!」
近付くごと、それは蒸気の中より明確に現れた。
レーザー探知はコンピューターに一任させ、二人は光学映像に意識を傾けた。
「……東郷、隕石ってなぁ表面がこんなに滑らかなもんか?」
「な訳ないだろ」
高さ約8 m 。しかし、AMのセンサーは地下部分の存在を示唆していた。
AMの示す予想図はまるで……。
「これは楔だな」
細長い楕円の、くもり一つない銀色の物体。それは、あたかも記念碑のように突き立てられていた。
「何を意味しているんだ?」
「知りたいか?」
第三者の声。
二人は息を止めて姿を探す。まさか、こんな場所に人間が足を踏み入れることなど出来る筈はない。
……居た。
それは、銀のオブジェの中より現れた。しかもその姿は……。
「AM……いや、 Eridanus か !? 」
全身を覆う機械の、銀の鎧。それでいてAMよりも小柄な……。
「ふん、 Eridanus だと?あんな能無しと一緒にするな」
「お前は何者だ?」
彼は音もなく歩み寄る。
「少なくとも、お前らの敵だ」
『いかん、二人とも今すぐ離脱しろ !! 』
- 集中発令所 -
「なにしてる!すぐに離脱だ !! 」
赤城はコンソールを叩いて立ち上がる。
「駄目です、通信途絶!強力な ECM です !! 」
「レーザー通信に切り替えろ!」
オペレーターの岩田が振り返る。
「無理です!条件が最悪なんですよ !! 」
くそ!
奥歯を噛み締める赤城は、上空の存在に閃いた。
「 Wyvern だ!降下させろ。中継点にする!」
「了解!」
岩田は回線を素早く切り替える。
「 Wyvern !キャプテンフリード、聞いてましたか !? 」
間髪入れず、トマス・フリードが髭面を画面に全開にした。
『んあ?説明しろよ、何かあったのか?』
失念していた。隠密性を重視して、余分な通信電波はカットしていたのだ。
「 Phantom と Fang が接敵、 ECM により通信が途絶しました!」
フリードはにやりと笑う。
『俺っちの出番、ってことは、中継かい?』
「話が早いです」
赤城の横槍。
「それと、二人の回収だ!」
「だそうです」
『それはそれは。それじゃちょっくら降下するぜ!』
- 衝突孔 -
東郷と近江は視線を交した。
通信途絶。
「お前らの言葉で、 ECM のような物だ」
オブジェの中より現れた男、恐らくは異星人が言った。
「心配するな。少なくとも、殺しはしない」
「目的は何だ?」
「望みは共存だ」
東郷は眉を顰めた。
……侵略ではない?
共存なら、それこそ望む所だが。
「 Pleiades に言づてを頼みたい」
「プレ……藤岡涼介を知っているのか?」
「……藤岡?まぁいい」
不意に男が動き、 Fang の頭部を鷲掴みに。
「ぐぁっ!」
Fangのセンサー ( 両目 ) が明滅し、沈黙。
「貴様!」
「動くな!握り潰すのは一瞬だぞ」
はったりではない。装甲が軋みを上げる。
「く……貴様、共存が望みじゃなかったのか !? 」
「共存にも色々な形がある。こいつには残ってもらう」
そして、ゆっくりと Phantom を見据えた。
「お前は私の、 Syleus( シリウス ) からの言葉を Pleiades に伝えろ。……お前らは阻止したつもりかもしれんが、遅れたまでだ。計画は発動した。ここに、 Syleus が待つ」
「……お前ら、だと?それに、計画とは何だ !! 」
すると、近江が腕を振り上げた。
「東郷、こいつを倒せ!」
異星人の手より脱した Fang 。
「 ツール セット、 ナイフ!! 」
「愚かな」
見えないながらも、 Fang は Syleus に刃を突き込んだ。……が、
「ぐ……はぁ……」
Syleus の貫き手が装甲を貫き、近江の心臓を握り潰した。
「お……近江ぃぃぃぃ !! 」
東郷の頭が真っ白に燃えた。もう、赤城の命令など覚えていない。
「 ツール セット 、 ガン‼︎」
銃が ツール ボックス より Phantom の右手へ。直後、右手に衝撃を感じ、銃が弾け飛ぶ。
『 caution 』
右手関節損傷。
「手向かうか ! 」
Syleus は三ツ又の槍、トライデントを構えていた。
……いつの間に!
しかし、 Phantom から半ば理性が失われていた。警戒心など皆無で突っ込んだ。
「うぉぉぉぉぉ!」
トライデントが Phantom の腹に伸びる。半身捻りそれを躱すと、そのまま肘を顔面へ。
Syleus の姿がない!
「遅いんだよ」
背後だ。トライデントの柄が頭部にヒット。 Phantom は隕石まで飛ばされた。
『 caution 』
センサーが……沈黙。目を潰された。
「くそっ!」
『バカもん!待避だと言ったろう !! 』
赤城の声が耳をつんざいた。
高指向性のレーザー通信だ。これなら ECM でも妨害し切れない。
しかし、こんな場所には不可能な筈。
その疑問は即座に解けた。
『よう大将、 Wyvern だ。回収するぜ』
ステルス モードの Wyvern が降下したのだ。 Syleus には気付かれていない。
『今の内だぜ』
「来るな!」
『……はぁ?』
トマスは意表を突かれた。
『何の冗談だ?』
「冗談なんかじゃない!私は奴と刺し違えてでも近江の仇を取る !! 」
当の Syleus は嘲笑した。
「はっは、出来るものかな」
「貴様ぁ!」
Phantom は声を頼りにスラスターで加速。
「……興覚めだ」
Syleus の槍柄が Phantom の腹に突き込まれた。
「ぐは……」
『 Wyvern 、強制収容だ!』
『あいよ!』
Wyvern の姿が現れ、カーゴベィが解放。アンカーが射出され、 Phantom を捉えた。
「ま、待て……私はまだ……」
しかし、ワイヤーは問答無用で巻き取られた。
「ふん、今は逃げるがいい。ただし、しかと pleiades に伝えろ」
「シリウス、忘れん、忘れんぞ!」




