表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/63

俺は、地球人なんだ

  -GDS 東病棟待合室 -

 寂漠とした空気が心に重い。

 夜の 22 時を回った病棟は、館内の照明全てを落とし、常夜灯のみの薄暗い空気が人の心に侵食する。

 肘周りが少し痛い。重い足を引きずりながら、香織は眉を寄せた。

 ……完敗。

 AMは3機とも解体整備へ。そして涼介も……。

 「暗いわよ、お元気娘」

 目を上げると、ソファに恵美が座っていた。

 「恵ねぇ……」

 いつもと雰囲気が違う。

 頭に包帯を巻いているから……いや、香織と同じく長かった髪が、今は肩口にも届かない。

 「あ、これ?」

 香織の視線に気付き、恵美は小さく笑う。

 「あの機械男のせいよ。熱で焼けちゃって。ま、このくらいで済んで良かったかな」

 香織の目頭が熱くなった。

 怪我らしい怪我をしなかったのは香織だけなのだ。恵美は打撲多数、そしてシンは未だ診察室だ。

 「なんて顏すんのよ。こっち来なさい!」

 こくり、と頷き、香織は恵美の隣に腰かけた。

 「オルコックさんは?」

 シンは意識不明の重傷だったため、 Life save mode のAMを装着したまま病棟に運ばれていた。

 あの爆発……AMを装着していなければ間違いなく死んでいただろう。

 「まぁ、AMの生命維持装置の有効性は証明されたわね。右腕を剥離骨折って言ってたかな?あと、肋骨と内臓らしいけど、AM内で応急処置されてるから。心配ないって。技術部のオヤジ、東山さんが、AMより軽傷だ、って笑ってたわ。新開発のアミノ酸と蛋白質、それと Ca 加速剤大量投与するとかって、先生張り切ってたから。医局長と技術主任で、どっちが先に仕上げるか、ってんで賭けに出てたのには笑ったわね」

 恵美は意地悪く、にやにや笑う。

 「あの野郎なら人体実験にもってこいね」

 しかし、香織は中々笑えない。

 「何も……出来なかったね」

 恵美は口端を大きく歪めた。

 「気にしないの。あんたはあたしたち以上に良くやったじゃない」

 「駄目だよ……」

 香織は目を爪先に向けたた。靴が、ぼろぼろだ。

 「嫌だった。こんな日が来るの。この日のために訓練するの、すごく嫌だった……。ただ、ありもしない脅威を笑い飛ばしながら、涼ちゃんの護衛も任務だってこと忘れてたかった……」

 恵美は眉を寄せた。

 「その割にはさぁ、あんたAMの成績、トップだったじゃない」

 香織は苦笑した。

 「ただ、負けず嫌いなだけだよ」

 「あらま、たったそれだけの理由で」

 「もっと巧く使えれば、大学の先生たち巻き込まなくて済んだかもしれないんだよ!」

 顏を両手で覆うと、後は声にならなかった。

 ……まさか、本当にこんなことが。

 恵美は香織の頭を抱き寄せて溜め息を吐いた。

 「そうね」

 ……この娘にゃ酷だわ。

 「……でも、それを言うならあたしもだよ。AMの性能差、で片付けるには悔しいよね。それに、もう始まっちまったんだ。あんたはまだ守る者、あんだろ。だから……」

 「泣くなよ、香織」

 ……え?

 不意に割り込んだ声に、香織は顏を上げた。

 「涼ちゃん……」

 目の前で涼介が何事もなかったかのように笑顔を見せていた。

 「泣いてちゃつまんないぜ。笑ったほうがいい」

 香織はぽかん、と口を開けてしばし言葉を失った。

 「なんで……もう、いいの?」

 驚きを隠せない香織に比べ、涼介はからからと笑い飛ばした。

 「もう大丈夫。スッキリしたよ。条件付きで帰っていいってさ」

 「だって、あんな……」

 すると突然、恵美が大きく笑いだした。

 「いい、あんたいいよ!気に入った !! 」

 恵美はすっと立ち上がる。涼介よりも僅かに背が高い。

 「あたしは北条恵美。恵美でいいよ。コードネームは minx だ。さっきは助かったよ」

 おもむろに差し出された右手に、涼介は戸惑った。そこへすかさず香織の助け舟。

 「ほら、AMの……」

 「あぁ、なるほど。でも、大したこと出来ませんでしたよ」

 しかし、恵美は涼介の右手を強引に掴み、大きく振った。

 「助けられたことには変わりないさ。あたしもシンも……香織もね」

 すると涼介は口許を大きく弛めた。

 「ひょっとして、俺ってスゴい?」

 香織の一喝、

 「調子に乗らない!」



 「でも……条件付きって?」

 涼介は大きく溜め息を吐いた。

 「香織と一緒じゃないと、ここから出られない」

 恵美はくすくす笑う。

 「あらま、保護者同伴か」

 「ひどいなぁ、恵美さん。保護者はないでしょ」

 ふと、香織が眉を寄せた。

 何処かで……。

 「ああ!恵ねぇ聞いてたでしょ !! 」

 恵美はくるりと目を回し、すっとぼける。

 「さぁて、なんのことやら。任務中のことは口外出来ないのよね」

 「さいてぇ。覗き魔」

 香織は舌を出して反撃。しかし、恵美は笑うばかりで相手にならなかった。

 「……で、帰るって言っても、今日は帰れないよ」

 「え、何だよそれ」

 「あたし、待機命令出てるし……」

 「おいおい、帰れなきゃ学校は……」

 ふと、涼介の表情が固まった。

 「しばらく休講になると思うよ……多分」

 明るかった涼介の顏に影が射す。

 ……覚えている。

 自分のせいで破壊された校舎を。自分が破壊した周辺地域を……。

 「俺が……」

 軽い頭痛が再び襲い始めた。息も苦しい。いや、これは胸が締め付けられるような痛み。拍動が耳にうるさい程だ。

 「俺……変だよな」

 苦痛に顏を歪める涼介が、無理に言葉を紡ぎ出す。

 記憶が、少し戻ってきたのだ。

 本来涼介の記憶は喉から手が出る程欲しい。しかし余程のことなのか、無理をすることにより苦痛が襲う。

 言葉は悪いが、涼介は貴重な情報源だ。潰す訳にはいかない。

 しかし、 Eridanus の出現により、プロテクトが外れ始めたようだ。

 「思い……出したの?」

 「少しづつ……」

 苦痛と苦悩がないまぜになったような、涼介の目がやり場を失った。

 「見ただろ。俺、あいつと同じなんだ」

 「……でも、あたしたちのAMはそれを基礎に」

 「違う。違うんだ。あれは Pavor(パウォル) への対抗策…… Guardian (ガーディアン)」

 「パウォル !? 」

 汗が吹き出した。血の気も下がる。

 「いい、もういいよ涼ちゃん。今は……」

 香織の制止にかぶりを振った。

 「良くない……俺は裏切り者なんだ。でもこれだけは……」

 血を吐く思いで、それでいて力強く、倒れながらも言った。

 「俺は、地球人なんだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ