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集中発令所

       第 2 章  侵略

     1

- 丹沢 GDS 地上ヘリポート -

 「ぅあぁぁぁぁぁ !! 」

 「駄目だ、ストレッチャーに拘束しろ !! 」

  Wyvern より搬送される涼介。錯乱の状況を無線で承知していたにも関わらず、5人の看護師たちはその体を抑え切れず、振り切られようとしていた。

 「鎮静剤は?」

 搭乗口に半身乗り入れ質問する医師に、香織は首を横に振った。

 「効果ないんです!」

 彼女の顏から血の気が失せていた。

 涼介の変貌は確かに衝撃だった。しかし、それ以上に……。

 「涼ちゃん、大丈夫ですよね!」

 髪を振り乱す香織の肩を、藤岡がそっとなだめた。

 「大丈夫、涼介はやわじゃない」

 医師の肩口より、 オペレーション スタッフが顏を割り込ませた。

 「藤岡先生、長官が至急発令所に、とのことです!」

 藤岡は顎を引き、香織の肩をもう一度叩いた。

 「涼介に付き添ってくれ」

 唇を噛み締める香織は、小さく頷いた。



   memory second

  16year's ago(16年前)in Mt.Tanzawa ……

 陽が落ちて約2時間。冷え続ける気温に、少年二人の体温は奪われ続けた。

 「涼介、がまんだ。動くなよ」

 「……うん」

 岩陰で息を潜める二人は恐怖のために震えていた。

 しかし、昴洋介は兄として弱気になる訳にはいかなかった。

 「でも、母さんは……」

 洋介は歯をくいしばる。

 「父さんが連れ帰るって約束したじゃないか!」

 あの、空を覆った光の物体……。

 背後で草を分ける音。

 「父さん !? 」

 すがるように振り返った二人の目に、顔面蒼白の父が飛び込んだ。

 「洋、涼を連れて逃げろ !! 」

 ……母さんは?

 兄弟は呆然と言葉を失った。

 すると、不意に強烈な閃光が襲い、逆光の影の中、父を奪い去った。

 「父さん !! 」

 叫ぶ涼介の口を、洋介は咄嗟に塞いだ。

 しかし、手遅れなのは明らかだった……。


  Now,at present (現在)

   - 集中発令所 -

 情報の流入は一時安定し、今はスタッフ各員確認と対応に追われていた。そんな中に、藤岡は現れた。

 「よう、赤城クン」

 室内一段高く、コンソールに囲まれた指令席。火の灯いていない煙草をくわえる色黒な男、赤城秀三が机に足を投げ出していた。

 「……んむ?あ、先生 ! 」

 慌てて足を降ろし、階段を昇る藤岡を迎えた。

 「白木くん、お茶頼む」

 赤城の後ろ、秘書のように控える長官補佐の白木葉澄。軽くウェーブさせた髪を弾ませ、彼女は指令席を離れた。

 葉澄の背中を見送ると、藤岡はそのままコンソールの端に腰を降ろした。

 「 Wyvern で話は聞いた。ただことじゃぁないぞ」

 「いや、先生も危ないところで……」

 「年寄りに激しい運動は酷だよ。……上空から黒煙が確認出来たぞ」

 赤城は顎を引く。

 「お上 ( 国会 ) とは連絡途絶。他も似たり寄ったりで」

 「大将は?」

 「古巣 ( 危機管理室 ) が対応しましてね。総理は衝突前に大宮に待避したらしいです。こっちが八王子でゴタついていたとはいえ、出遅れました」

  赤城はコンソール上のキーを操作し、手元のディスプレイを立ち上げた。

 「……見てください」

 赤城専用の卓上、分割投影で次々に映像が表示された。

 パラナル天文台による月面ツェルコスキー基地。英国ロンドン。仏国パリ。 中国北京。米国 DC. ……。

  「先生、何を感じます?」

 藤岡は眉を顰めた。

 「こう言っちゃなんだが、被害が小さくないか?」

 赤城は溜め息を吐く。

 「そこですよ。都市被害による対策は危機管理室と各国軍隊が当たればいい。しかし、我々は不謹慎ながら、素直に喜べない」

 「都市が丸ごとなくなっていてもおかしくない……のに、各国政治機関の中枢のみに被害が限定されている……」

 「そうです。 15 年前もそうだった。隕石の落下、という現象の割に、被害の規模があまりに小さい。これは、疑いを持って然るべし。我々なりの対策を練らねばなりません。先生、タイミング的にも、八王子は恐らく関係してますよ。」

 「恐らくも何も、私は確信しているよ。しかし、君の娘さんには助けられた。香織くんが居なければ死んでいたよ」

 赤城はくすぐったそうに頬を歪めた。

 「いや、まだまだ。それに、虎の子のAMを壊してしまいました」

 「出撃 3 機全てね……」

 二人に重苦しい沈黙が訪れた。

 「……技術部が大慌てですよ」

 赤城は苦い物を噛み潰す。

 「まさかAMが……」

 ブラック・テクノロジー。

 AMの基礎理論は地球産ではない。

  15 年前、この場所に墜ちた宇宙船のデータを解析し、地球の最新技術にフィードバックして得ることの出来た、新技術の塊なのだ。

 言うなれば、正常進化ではない、技術の突然変異。

 「香織の…… Rabbit のセンサーからの映像を見ました。あの Eridanus ……船のデータにありました」

 「しかし分からん。AMとは基礎概念が違いすぎる。……本当に同一か?」

 「さて……」

 赤城は頭を掻き回した。

 「現在情報の処理中です。相良さんが当たってます。東京の現場にも Phantom (ファントム)と Fang (ファング)を向かわせました」

 「堅いコンビだな」

 「あそこで欲しいのは事実だけです。しかし、こうなると益々涼介くんの記憶が欲しくなりましたよ。それも含め、後ほどチームを集めて会議をします。先生、それまでに仮説立てておいてください」

 了解なのか抗議なのか、藤岡は唸り声を残して発令所を退出した。

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