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短編『物知り宇宙人』

作者: 高橋右手

大昔に某ショートショート短篇小説賞の最終選考まで行ってくれた子です。


賞の冠である星新一っぽく書いているので、サクサク読めると思います。

 ある晴れた日、一隻の宇宙船が空に現れた。

 地球侵略の尖兵かと軍の戦闘機が発進し、ミサイルの照準を宇宙船に向けた。

 警察は住人を避難させたが、それよりも多くの野次馬とマスコミが街にやってきた。

 政府は一流の科学者を集めた対策チームは、宇宙人にコンタクトを取ることにした。宇宙人の言葉なんて分からないので、宇宙船から出てくる絵を描いて宇宙船の方に向けた。

 世界中の人々が、どうなるのかと心配と好奇心を向ける中、宇宙船から宇宙人が降りてきた。人間とよく似た姿形をしていたけれど、目が三つあった。


「こんにちは」


 宇宙人は流暢な地球の言葉で挨拶した。予想していなかったことに対策チームは驚いた。


「私の言葉、通じていますか? どこか間違っていませんか?」


 困惑する対策チームに宇宙人が、ゆっくりとした口調で話しかけた。


「あ、はい。通じてます」

「宇宙に流れてくる電波の映像と音声を解析したので、少し間違いがあるかもしれません。分からない時は、分からないと言ってください」


 宇宙人が地球の言葉を喋れることに政治家や一般人は安堵した。集められていた言語学者だけは少し不満そうだった。

 話ができるとわかったので、対策チームの後ろにいた大統領が大勢のマスコミを引き連れてやってきた。


「君達は何をしに地球にやってきたんだね?」

「私達は地球の調査にやってきました。私の宇宙船に武器は無いので安全です」

「侵略の下準備じゃないのか?」

「違います。学術的なものです」


 大統領は信じていないようだったので、宇宙人は説明を続けた。


「私達の質問に答えてくれれば、あなた達の質問になんでも答えます。私達の星では公平であることが絶対のルールです。だから嘘をつきません」

「なるほど、そう言って地球にある軍事力や兵器について質問してくるんじゃないのか?」


 大統領は疑り深かった。


「私達は兵器についてはそれほど興味がありません。もし、あなた達にとって不都合な質問なら答えなくても構いません」

「なら君達はどんな事を質問をするんだ」


 宇宙人は辺りを見回すと、道端に立っていた赤い箱を指さした。


「周辺に多数存在するアレは何ですか?」

「ポストだ。手紙を入れると届けてくれる」


 大統領は随分つまらないことを聞くものだと思いながら答えた。


「分かりました。では、あなた達が質問をする番です」

「もう一度聞くが、君達は本当に地球を侵略に来たわけじゃないんだな?」

「はい、私達がやってきた目的は学術調査です。では、私達が質問をします。アレは何ですか?」


 宇宙人は地面に埋め込まれた円形の鉄板を指さした。


「マンホールだ。穴になっていて、下水道に繋がってる」

「分かりました。では、あなた達が質問をする番です」

「お前たちはどこからどうやって地球に来た?」

「質問は一度に一つずつです。それが公平ということです」


 宇宙人の態度に大統領は埒が明かないと思った。振り返ると秘書の一人を手招きした。


「面倒なやり取りに付き合ってるほど、私は暇ではない。後は頼むぞ」


 大統領は対策チームに宇宙人との質問合戦を任せ、自分は普段の仕事に戻っていった。

 残された対策チームは宇宙人に質問を続けた。


「どこから来たんだ?」

「私達は隣の銀河から来ました。こちらのコンピュータの形式を教えて頂ければ、詳しいデータをお渡しします。では、私達が質問をします。アレは何ですか?」

「信号機、交通状況の整理を行う機械だ」

「分かりました。では、あなた達が質問をする番です」

「地球までどうやって来たんだ?」

「宇宙船でやって来ました」

「それは分かってる。隣の銀河から宇宙船で普通に飛んできたわけじゃあるまい」

「それは次に質問して下さい。では、私達が質問をします。アレは何ですか?」

「パトカーだ。警察が仕事に使う車だ」

「分かりました。では、あなた達が質問をする番です」

「宇宙船はワープで地球に来たのか?」

「はい、私達の宇宙船はワープを使って地球に来ました。では、私達が質問をします。アレは何ですか?」

「猫だ」


 研究者達は根気強く質問を続け、宇宙人の謎を解き明かしていった。

 一方、最初は簡単だった宇宙人の質問も複雑になっていった。子供の様に物の名前を尋ねるだけだったのが、地球の地理や人間の社会、文化、歴史、音楽、芸術などありとあらゆる分野に広がった。一流の科学者が集められ、それらの質問に答えていった。

 答えるのはいくらでもできたが、やがて宇宙人への質問がなくなってしまった。科学者から政治家、ジャーナリストまで質問が思いつかなくなってしまった。ついには世界中から質問を集めることになった。

 そうして集まったものの中には、冗談で書れた質問もあった。宇宙人への質問を考えることに疲れた研究者達はそれらも質問リストに加えた。


「大金持ちになる方法を教えてくれ」

「この座標の場所を掘って下さい」


 言われた場所を掘ると金の大鉱脈が見つかった。


「不老不死の薬の作り方を教えてくれ」

「地球人の肉体では、完全な不老不死は不可能です。限定的ならば可能です。今から教える製法に従って作った薬を二十四時間ごとに服用して下さい」


 教えられた製法を試すと未知の薬が完成した。動物実験を行うと、その薬が老化を防ぎ治癒力を飛躍的に高めることが分かった。

 人々は歓喜し、次々に無理難題と思える事を宇宙人に質問した。


「原子力より、もっと安全で効率の良いエネルギーの作り方を教えて欲しい」

「次元相転移を利用するのが良いでしょう。基礎理論については別途質問して下さい」

「地震などの自然災害や戦争から人々を守りたい」

「都市を浮かせるのが良いでしょう。空中都市理論について質問して下さい」

「あなた達の乗っている宇宙船の作り方を教えて下さい」

「設計図をお渡しします。分からないことは別途質問して下さい」

「戦争を無くす方法を教えて下さい」

「私達の星には戦争がありません。同じ社会構造を導入すれば戦争は無くなるでしょう」


 宇宙人に答えられない質問はなかった。

 人間は宇宙人の答え通りに、統一政府を作り社会構造を根本から変えていった。貧困や戦争は過去となり、科学技術の爆発的成長は全ての人々を幸福にしていった。

 そして人間は、宇宙人の優れた能力を手に入れようと、彼らの形質を遺伝子に組み込んだ。生まれてくる子供は全て額にもう一つの目を持ち、素晴らしい知力を体力を兼ね備え、不老不死でした。

 十年、二十年、五十年、百年と月日は流れた。

 人類の発展に比例するように、宇宙人は質問をしなくなっていった。

 そしてある日、宇宙人はテレビの放送で世界中の人々に尋ねた。


「あなた達は幸せですか?」


 全ての人々が「はい」と答えた。


「分かりました。では、あなた達が最後の質問をする番です」


 唐突につきつけられた終わりに、人々は驚いた。


「我々は他の惑星の調査に向かいます」


 多くの人が宇宙人に行かないでくれと頼んだ。しかし、宇宙人達は何があっても帰ると譲らなかった。

 人々はこれまで様々な知識を授けてくれた宇宙人に感謝し、宇宙人をこれ以上は引き止めないことにした。

 問題は最後の質問を何にするかだった。全ての人間が幸せになって、これ以上何を望めばいいのか分からなかった。

 そこで人々は、宇宙人が去る理由を尋ねた。


「あなた達の質問がつまらなくなったからです。全ての人間が私達と同じ容姿、同じ考え、同じ生活を持ち、画一化してしまいました。これでは私達のつまらない星と何もかわりません。なので、これ以上の調査は必要ないと判断しました」


 宇宙船はふわりと浮き上がった。


「退屈が支配する宇宙へ、ようこそ地球人」


 宇宙人はそう言い残すと、空の彼方へ飛んでいってしまった。

 残された人々は自分の周りを見回した。そこにあるのは、百年前と何もかもが変わってしまった街並みだった。

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