窮地
「何なの、あの子は・・・・」
息を切らしながら、春川が言う。兎に角危険を感じた二人はスーパーから離れた公園まで来ていた。
「分からない・・・・でも見覚えがある」
保志が言う。保志は彼女に自身の作っていた人形の事について話し、殺戮を続ける少女が似ていることも説明した。
「そんなモノ組み立てようと思う藤井君に幻滅したわ。何より普通多少は疑わない?」
「疑ったさ。でも正直どうでもよかった。その時の俺は気晴らしさえ出来れば何でも良かったし。」
「とは言え有り得ないわ。さっき襲ってきたのは間違いなく人間よ。その訳の分からない人形も気になるけど恐らくたまたま似ていただけだと思うわ」
春川は冷静な感想を言う。確かにその通りだ。保志自身、作っていた人形が限りなく人に近い姿をしてたと言っても、あのように動くとは正直想像がつかなかったのだ。しかし、妙な生気のなさや、保志を見つけた途端に執拗に襲い掛かってきたのには少し引っかかるものがあった。
(そうだ、兄貴に電話をして・・・・)
保志は兄が恐らく家にまだいるだろうと考え、人形のことについて聞こうと思った。クローゼットの中にそのままなら間違いなく・・・・。
しかしその期待は一瞬で消されることとなる。兄のスマホに電話をかけようとした途端、母親から電話が入ったのだ。すぐさま電話を取る保志。
「もしもし?母さん?」
「ああああっ、やっくん?やっくんなの?」
「そうだよ。どうしたの?お使いの追加?」
「ヒ、ヒロくんが・・・・ヒロくんがぁぁ・・・・」
最後まで聞かず電話を切る保志。母親は泣き崩れていた。
「藤井君?何かあったの?藤井君」
春川が問いかけているが保志に耳を傾ける余裕は無かった。最悪の現実がそこにあった。恐らくあの少女は人形そのもので間違いない。理由は分からない。しかしはっきり分かったのは、保志自身とんでもない代物を造ってしまったという事だった。
「きゃあああああ!」
突然だった。春川が悲鳴を上げた。その声で保志は後ろを振り返る。するとそこにはさっきの少女が立っていた。返り血なのか凄まじい血が、少女の至る所についている。片手に拳銃を持っていて、もう片手に血で染められた警棒を持っている。おそらく駆け付けた警官から奪ったモノなのだろうか?至る所からサイレンが鳴り響いていたが気付いていたがここまでの化け物だったとは保志自身予想していなかった。
「くそっ」
保志は春川の手を引き走り出す。その途端バンっという音が鳴り響く。二人はその音に驚き立ち止まる。二人の真下の地面に銃弾の穴跡がついていた。少女が発砲したモノだった。ちゃんと構えて撃たなかったのか、銃を持った手がぶらぶらとした状態になっている。そして片手でそのぶらぶらした手を直している。
(やっぱりコイツは人間ではない)
保志はそう思うと春川に走れるかと聞き、二人でその場から離れようと試みる。しかし気付けば二人は公園の出口からほど遠い所にまで追い詰められていた。
「くっ・・・クソっ」
そう言って保志は少女に突っ込む。まだ銃の反動で壊れた片手が治っていないらしく、これまでの俊敏さとはかけ離れたといっていいほど簡単に一瞬は少女を取り押さえた保志。
「藤井君!!」
「今のうちに逃げろ!春川!」
保志は何とか春川だけ逃がそうと必死になるがそのやり取りの直後にあっさり少女になぎ倒されてしまう。地面に叩きつけられる保志。
「ぐっ!」
保志が見上げると少女が警棒を振り上げようとする直前だった。死を覚悟した保志。その時だった。少女の動きが止まる。見ると左胸に何か鋭利なモノが突き刺さっていた。その瞬間仰け反る少女。倒れていた保志はそこで徐々に意識を失っていく。完全に意識を失う直前で目にしたのは、古本屋の前で見かけた謎の男の姿だった・・・。