襲い掛かる少女
保志が自宅に戻る途中、母親からメールが来た。少し帰るのが遅れるらしく買い物に寄る余裕が無いから、代わり欠品してる調味料を買ってきてほしいとのことだった。
(めんどくせぇ・・・)
と思いつつも元々寄り道を考えていたこともあって足取りは軽く、最寄り駅の一つ手前の町で下車し、買い出しに向かうのだった。改札から駅を出た真横にコンビニが目に付くも、コスパもよろしくないため少し歩いた先にあったスーパーに立ち寄る保志。あまり利用したこともない店舗だったため、やや店内は不慣れだったが、調味料コーナーに向かう途中で、保志は見慣れた顔の少女が品出しの陳列を行っているのを発見した。
「あ、春川」
「!?えっ」
まさかの人物の登場に少し驚いている春川リコ。
「藤井君?何でここに??」
「母親のお使い。春川バイトしてるとは聞いてたけどスーパーとは意外だったな」
「そう?というより一番ウチから近いのよここ。それにこの辺他に何もないし」
「確かに、ほんと殺風景だよな。郊外といってももう少し何かあっていいのにさ」
そんな感じに特に意味のないやり取りを行う二人。お互いに仲が良いわけでもないし、保志的にいけ好かない少女ではあるのだが面と向かって会うには割と話が続く相手ではあった。
そんな時だった。何やら、生鮮食品コーナーの方がざわざわとしている。保志は気になってそちらに向かうとそこで思わぬものの姿を目の当たりにしたのである。
「・・・・」
「お、お客さんっ。そういうのは勘弁してほしいなぁ」
そう店長らしき人物に注意をされていたのは保志が作っていた人形そっくりの少女の姿だった。やたらボロボロのセーラー服を着ているのが違いぐらいか。しかしその目に生気は無く、素手で生鮮食品の生魚を持ち上げたと思ったら、勢いよく握力で潰すというとんでもないことをしていた。最初は口頭注意だった店長らしき人物もさすがに取り押さえようと彼女に迫る。その時だった。バンッ、グギッ
そんな嫌な音を立てて倒れる店長。背中から倒れたかと思ったら、顔は正面を向いている。保志は戦慄する。目にも止まらぬ速さで店長の首をその少女はへし折ったのだ。その出来事に辺りは一瞬だけ静まり返ったと思ったら、一気に悲鳴で溢れかえった。少女はすぐさま狙いを変え、近くにいた主婦らしき中年女性に襲い掛かる。一瞬で押し倒され、殴られ続ける主婦。保志には一連の流れが全くと言っていいほど理解不能だった。その調子で、次々と少女は目に付く人間に襲い掛かり続ける。
「・・・・な、何だよ。コイツ」
周りが逃げ惑う中、立ち止まり続けてしまう保志。全く整理のできない状況下ではっきり言えたのは、この自分が作った人形に似た少女がやっているのは、ただ脈略の無い無差別な殺戮行為であるという事実だった。
(逃げなきゃ・・・・)
そう思った保志だが体が動かない。そんな時だった。少女は立ち尽くしている保志の存在に気付いたのだ。
「・・・・・」
此方を見つけたとおもったら一目散に保志の方向へ迫りくる少女。そんな時である。何者かが、保志の手を引く。その勢いでようやく保志も、手を引いた主と一緒にその場から駆け上がる事が出来るようになった。
「藤井君!こっち!」
そう言って保志の手を引き誘導するのは春川だった。彼女は保志の手を引きつつ、スーパーの棚ごとの陳列コーナーを使って迫る少女をかく乱し、従業員出口から保志と共にスーパーを脱出するのだった・・・・。