過程
翌日、何事もなかったかのように学校へ向かう保志。この日も特に面白い事も無く家へと帰宅した。
「ただいまー」
「おかえり保志」
何気ない返事があったのは兄だった。相変わらずアニメばかり見ている。保志もアニメを見ないわけでは無いが、家庭状況をまともに鑑みずひたすら娯楽に耽る兄の姿は非常に嫌悪と憎悪しかなく、アニメを見ている奴=兄の様な浮浪人まがいという偏見が家族の中では出来始めていた。事実、兄がいない日は母親も父親もこぞって彼の陰口を叩き続けている。そんな広志だが相変わらず呑気だった。
「そういやお前宛になんかデカい荷物が届いてたぞ。」
「荷物?どんな」
「お前の部屋置いといた。母さん帰ってくる前に適当にしまっとけよ。あいつら何か買ったりすると目くじら立てて怒り出すから」
「分かってるよ」
しかし何だろう。保志は疑問に思った。通販などで何か頼んだ覚えはないのだが・・・。手洗いなどを済ませた後、保志は自室へと向かった。
自室に戻ると兄の言っていたようにやたら細長い段ボールが届いていた。
「これは・・・・」
送り主も特に確認せず開けてみる。
「ああっ!」
中身を見た瞬間、保志は全身が凍るような状態になった上に思わず声を上げてしまった。中に入っていたのは、人間の片腕だったからである。
しばらく放心してしまう保志。しかし暫く立ち尽くしたままこの異様な片腕をよく見ると、腕の切断面と思われる部分が、模型の接合部分のようになっていたためこれが作りものであることを理解したのである。
(脅かせやがって・・・・)
片腕が作りものであることにひとまず安堵する保志。しかし、あまり趣味のいいものではないし、頼んだ覚えは無い。改めて送り主の伝票を確認すると、なんと『週巻(君の)彼女を造る』の出版社らしきところからのものだった。あの送り期限が切れていた、ハガキが届いたとでもいうのだろうか?仮に届いたとして昨日の今日である。にわかに信じがたい事だったし、日ごろの鬱屈した状況での、何気ない奇行が、まさか功を成すとは思いも寄らなかったのである。
その日以降も、人形(?)部品らしきモノが不定期に保志宛に届けられていった。本に書かれている通り組み立てつつも母親にばれない様に組み立てつつも胴体を含め、普段は殆ど彼らも見ない保志の部屋のクローゼットの中にしまわれていた。しかし完成体に近づくにつれて、ふとした拍子でバレるのではないかという不安は保志自身抱いていたが、意外にもバレなかった他、パーツが届くのは決まって両親が仕事で完全に不在であると同時に、兄である広志が家にほぼ籠っている日だけだったのである。偶然かどうかは定かではないが、この奇妙な出来事の連続は、保志にとって少なからずとも刺激的な物であったのは言うまでもない。
そして・・・・
「すげぇ・・・」
一学期の終わる期末試験期間の真っただ中に遂に首から上を除く全体の姿が完成したのである。その際こぼした保志の一言は凄く軽薄で特に考えのあるものではなかったものの、純粋かつ、まだ思春期が少し過ぎたくらいの高校生らしいものであったともいえるだろう。
女性を摸しているとされる人形の全体は純粋に精巧だった。というよりも、胴体を含め接合部分は全く目立たないし、肌を含めた感触は生身のそれとほぼ近い。生き物のもつ熱が無いこと以外は完全に人間の女性の体そのものだ。しかもこれがすごいのは生きている女性とは異なり、匂いも毛も無いといった所だろうか?まだ首が届いていない為、イマイチ作り物感は否めないが、それ以外は完全に人間そのものに近かった。
(・・・・・。)
人形らしきモノの全体を無言で見つめる保志。その姿は当然だが生まれたままの姿というか、服を着ていない状態である。ここまで無我夢中にパーツが届くたびに組み立てを続けてきた保志だったが、ここに来て全体を見つめて、この人形の胴体のあられの無い状態に、純粋に欲情したのである。
(・・・っ!何考えてるんだ俺は)
冷静になろうとする保志。改めて見ればまだ首の無い等身大の人形に過ぎない。しかし、女性経験等無く、生身に近い一糸纏わぬ姿のそれを見るだけで、無意識に彼の邪な感情は増大していたのである。
ズルルルル・・・・
保志は上着のフォックを滑らかに下げ始めるのだった・・・。