荒野の三匹
半ば早足で、グライアイとやらの魔神の支配する領土を目指して進む俺達。
理由は簡単だ。
敵対者が追って来ると予想されるからだ。
家に火を点けた……
つまり敵は、家の中に二人がいると思っていた筈。
そして暫くして、不在だと気付く。
ならば次は?
もちろん、火を点けたから任務完了、と言うことは有り得ない。
確実に追って来るだろう。
あのログハウスからここまで、時間にして一日半の距離を稼いでいるとしても、油断は出来ない。
敵の戦力が未知数だ。
更にもしかしたら、何かしら馬的な乗り物を持っているかも知れない。
拙いな…
情報が無い、と言うのがかなり致命的だ。
敵は多分、リステインとプルーデンスの事を良く知ってる筈。
色々な対策も考えている事だろう。
逆にこっちは、敵について全く何も知らない。
これはかなり不利だ。
ってかそもそも、何でプロセルピナとやらはプルーデンス達を狙うんだ?
こいつ等、何か恨みでも買っているのか?
ま、その辺りの事は後で聞くとして……
やっぱ悪い予感がした通り、アクシデンツに巻き込まれちったよねぇ……
洸一チン、いつもションボリの巻だね。
「ふふ、しかし神代洸一には何か礼をしないとな」
歩きながらリステインが微笑んだ。
「ふぇ?礼?」
「そうだ。もし神代洸一が私達を訪ねて来なかったら……そしてもし、グライアイの所の行きたいと言わなかったら、今頃はどうなっていた事か……」
「い、いやぁ~~偶然が重なっただけでしょ」
俺は苦笑で応える。
しかし、本当に偶然だろうか?
もしかしてあの謎の鎧武者は、こうなる事を見越して俺を彼女達の元へ……
「そーよ、偶然よ、偶然。この馬鹿が来なくなって、敵なんか返り討ちにしちゃってたし」
「貴様はもう少し俺様に感謝しろ」
「なによぅ」
「うむ、慢心は禁物だぞ、プルーデンス。敵は恐らく手練の者達だろう。プロセルピナとも言えども、あからさまにこの狭間の地に軍を入れる事は出来ないだろうからな。だからかなりの精鋭を送り込んでる筈だ」
手練か……
忍者チックな暗殺集団とかかな?
……
うん、凄くヤバイね。
ってか今更ながら、僕ちゃん凄く危険な状況じゃないか?
敵の狙いは、リステインとプルーデンスに間違いない。
なら、共に行動している俺は?
こういった場合、目撃者は必ず殺されちゃうよねぇ……それがお約束だもんね。
うむ、どうしましょう?
「つっても、別行動すれば、それはそれで確実に行き倒れちゃうし……おおぅ、これは詰んでる状況ではないか」
「なにブツブツ言ってるのよ洸一。もうお腹減ったの?」
「君はもう少し危機感を持った方が宜しいな。脳の皺が『呑気』って文字を描いているんじゃないか?」
「ふん、なによ。何度も言いますけど、私は強いんですからね。敵なんか、一瞬で蹴散らしちゃうわよ」
「それはフラグか?絶対にお前、ピンチになるぞ?その時になって助けてって言っても、僕ちゃんは困るぞ」
「なによぅ。その言い方だと、あんた強い感じじゃない。洸一、腕に覚えがあるの?」
「無い」
即答である。
「ハッキリ言って、俺は弱い。だから助けてと言われても困ると言ったんだ。ってかむしろ、俺を助けてくれ」
や、人界なら強いんですよ、僕は。
ただ、ここ……魔界と神界の中間の狭間の地って言う名の異世界でしょ?
しかも時々迷い込んだ人間は奴隷とかにされてるって話でしょ?
つまり、凄く弱い生物って事じゃん。
きっと人間の初期能力値とか、そのへんの雑魚モンスターと同じぐらいじゃないかな?
「まぁ、確かにアンタは人間だもんねぇ」
「カリスマとプライドは神クラスなんだけどね」
と、プルーデンスと馬鹿話をしていると、少し前を歩くリステインが、サッと片腕を挙げて停止。
俺もプルーデンスも同じように歩みを止める。
「どうしたのリステイン?」
「微かだが、前方で何かの気配を感知した。プルーデンス…」
「ん、任して」
と、頷き、プルーデンスは先程の魔法を発動。
ノイズだらけの鏡に、何やら複数の影が映る。
頭から全身をすっぽりと被うような、小汚い灰色のフードを被った連中だ。
如何にも、僕たち暗殺を生業としてます、とでも言うような出で立ちである。
「3匹か……」
「思ったよりも少ないわね。余裕で突破出来るわ」
プルーデンスがボキボキと指を鳴らした。
3人……3人かぁ……
ふむ……
「全くお前は、いつもいつも一直線と言うか……確かにお前は強いが、その所為で少し思考が固まってるんじゃないか?」
「なによぅ。そーゆーリステインだって、結構頑固で猪突する時があるじゃないのぅ」
「お前ほどではない。……神代洸一、お前はどう思う?」
「え?え?いきなり振られても……何のこと?どっちが猪武者かってこと?」
「違う。前方に展開している敵の事だ」
「あ、それね。ふむ……」
俺は顎に手を当て、脳内CPUをオーバークロック。
知恵熱が出るぐらい、熟考する。
何しろ俺はこの世界では弱いからねぇ……
生き残る為には、常に慎重且つ冷静に、思考を進めないと……
「奴等は……索敵行動中と思うな。3人と言うのがポイントだ」
「と言うと?」
「奴等が探しているのは君達、リステインとプルーデンスの二人。もし仮に、君達に遭遇して瞬殺されたとしても、一人は確実に残ると言うか、時間的余裕が生まれる。そこで何かしらの通信的なモノを送り……」
「仲間を呼び寄せると?」
「多分ね。だからこそのスリーマン・セルだ。それと敵の戦力だけど……50人ぐらいはいるんじゃないか?絶対に逃さない、と言う作戦を敵が立てていた場合、ログハウス襲撃に20ぐらいで、残りは3人ずつ10パーティーを作り、周辺に分散させる。包囲したログハウスからの逃亡に備えて……と言うところかな。ただ、前提条件は全て俺の予想だから、合ってるとは言い難い。ぶっちゃけた話、目の前の3人がログハウス襲撃以外の最後の戦力かも知れんし、そもそも何の関係も無い連中かも知れん」
ま、簡潔に言えば、良く分からん、と言う事だ。
「ふむ……」
「どうするリステイン?ここは急襲して全員ぶっ倒しちゃおうか?連絡する隙を与えずに一瞬で片付ければ安心よ」
ま、またコイツは……
無関係の人達(人じゃないけど)だったら、どーするんだ?
や、でも……
情報を得る、と言う意味では、最適だな。
ただし、問題が幾つかあると思うんじゃが……
例えば、敵に連絡させずにどうやって情報を得るかとか。
うぅ~む、こりゃ難しい選択だね。
戦うかスルーするか……どっちもメリット・デメリットがあるし……
ま、ヒフティヒフティってところか。
「……やってみるか」
リステインが呟いた。
「敵が何者か、捕らえて吐かせたい。恐らく、プロセルピナの手の者だと思うが……その確証を得たい」
「ふふ、腕が鳴るわ。洸一、アンタも少しは戦いなさいよ。腰に下げてる剣は飾りじゃないでしょ」
「ンな事言ってもなぁ。剣道とか習ってるならともかく、普通の人間はこんな獲物持ってガチで戦った経験は先ず無いぞ」
せいぜい、餓鬼の頃に物差しでチャンバラごっこをやったぐらいだ。
「ま、敵も3人だし、こっちも俺を含めて3人だから一応は戦うけどさぁ……ちゃんと助けてね?」
「任せなさいよ」
「大丈夫かなぁ。ってか、敵までの距離は?」
「ん?ん~……どう、リステイン?」
「感覚からして、300メルトルって所か」
メルトル?
メートルとほぼ同じぐらいの単位かな?
「至近だけど、物理的奇襲を仕掛けるには、ちと遠いな。どうする?身を潜める場所も少なそうだし……何か補助魔法的なモノとかあるの?透明化とか気配を消す魔法とか……」
「無い。仮に持っていたとしても、この地では効果が薄いしな。あまり役には立たないだろう」
「ありゃま」
「ふむ……そこで神代洸一。一つ頼みがある」
★
「トホホだよ、本当に」
俺はブラブラと歩きながら、ガックリと肩を落として溜息を吐く。
いやもうねぇ……なんとなく、分かっていましたよ。
察していましたよ。
俺でも多分、同じ手を使うもん。
「はぁぁ~…」
もう一度、大きな溜息を吐き、そのまま呑気さを装い、真っ直ぐに歩く。
俺の役目は……そう、言わずもがな、囮だ。
敵はプルーデンスとリステインを追っている。
つまり、俺と言う存在の事は知らない。
だからこうして歩いている俺を……道に迷った旅人と思ってくれるだろう。
そう、奴等の注意を俺に引き付けつつ、その隙に彼女達が……と言う策だ。
ただねぇ、何と言うかねぇ、凄くねぇ、良くない予感がするんですよねぇ。
前方に展開している輩――現在、身を潜めているのか視認出来ない――が、今回の件に何ら係わり合いの無い連中だったら、それはそれで良いですよ。
まぁ、珍種である人間を捕らえて奴隷市場に売ろうとか、そーゆー悪事を企むかも知れないけど、その辺はスルーだ。
問題はだ、奴等が追っ手の一味で、しかも冷酷無比なキリングマシーンだった場合は……
どうなる?
多分、いきなり襲われるんじゃね?
俺が通り過ぎるまで待つとか、取り囲んで尋問するとかのパターンもあると思うけど、いきなりログハウスに火を掛けたりして来た連中だ……任務遂行の邪魔になる存在は、すぐさま消すんじゃね?
……うん、ヤバイ。どうしよう?
「取り敢えず逃げたりして」
呟くや、いきなり俺はその場から大ダッシュ。
が、ゴツゴツとした岩の大地に足を取られ、思わずスッテンコロリンと子供のように転んでしまった。
刹那、小さな風切り音と共に、何かが頭上を掠め飛んでいった。
「――ッ!?」
身を捻り、転がりつつすぐさま立ち上がる、俺。
と、何やら小さな黒い影が、いきなり眼前に迫る。
――手裏剣ッ!?いや、投げナイフかッ!?
もちろんそれも、反射的に俺は躱した。
ふ、舐めるなよ……
ここ数ヶ月、伊達にまどかや真咲姐さんに虐げ…もとい、鍛えられてきたわけじゃねぇ。
俺の反射神経は、ドッヂボールで最後までコートの中に立っているぐらい研ぎ澄まされているんじゃ!!
「何者だっ!!」
大声で誰何しつつ、腰に下げたショートソード+2を引き抜く。
「ぬ……」
岩陰から、どうやって隠れていたのか、フードで顔を隠した殺人未遂犯3名が姿を現した。
が、次の瞬間、
「――ッ!?」
一人はいきなり首を刎ね飛ばされ、
「がっ…」
もう一人は頭から股まで一直線に断ち切られ、
「ぐ…」
残る一人は謎の光弾の直撃を受け、その場に崩れ落ちた。
お、おやまぁ……
本当に一瞬で片が付いちゃったよ……おっかないね。
「良くやったぞ、神代洸一」
微かに笑みを浮かべたリステイン。
プルーデンスは、落ちている生首を遠くへ蹴り飛ばしながら
「殺られるかなぁ~と思ったけど、中々良い反射神経してるじゃない、洸一」
「そりゃどうも」
って言うか……んん、何だろうこの感じ?
何で俺は、殺戮現場を目の当たりにしたと言うのに、こうも落ち着いてるんだ?
……敵が人間じゃないからかな?
いやでも、辺り一面、血の海になっているのにねぇ……
ま、良っか。考えない、考えない。
「で、どうするんだリステイン?ってか、そいつはまだ生きてるよね?」
「麻痺させただけだ。取り敢えず結界を張って通信を遮断する」
言って彼女は手を掲げ、何やら魔法を展開。
周囲を薄い膜のような物が被った。
まるでシャボン玉の中にいるみたいだ。
「さて、先ずは何か手掛かりを……」
「そうね」
とプルーデンスが軽く頷き、遺体を弄り出す。
む、むぅ……
見目麗しい異界の美少女達が、黙々と惨殺死体を漁っていやがる……
うん、凄く衝撃的な光景だね。
これがこの世界のスタンダードなのか?
「って、俺もやりますか」
首無し死体のフードを脱がすと……うむ、やっぱ人間じゃねぇーや。
ガリガリのボディに茶色の皮膚……なんだコイツは?
「スタンガだ」
首を捻っている俺に気付いたのか、リステインが言った。
「亜人系魔族だ。森に住む隠密能力に優れた種族……だったかな」
「ふ~ん……と、やっぱ手掛かりは無しか」
身に付けていた物は、ちょっと太い釘のような投擲武器と薬らしき物だけで、身元を特定するような物は一切所持していなかった。
ま、逆にそれが、暗殺などを生業としている者の証明になるんじゃがね。
「ふむ……ならばコイツから聞き出すか」
リステインがチラリと、気絶しているかのように身動きが取れないでいる生き残りに視線を走らせた。
「どうやって吐かせるんだ?こーゆー輩は拷問に対しての耐性があるんじゃね?痛みに強いとか。何かチャームとかドミネーション系の魔法でも使えるのか?」
俺がそう尋ねると、プルーデンスが横合いから
「アンタ人間族の癖に、魔法に詳しいわね。なんで?」
「んぁ?まぁ確かに、人間は魔法が使えないけど(ごく一部を除く)、ある特定の奴等は意外に詳しいんだよ。主にダメ人間が多いんだけどね」
「良く分かんないわねぇ」
「俺もだ。で、リステイン、どうするんだ?」
「ふむ。支配系の魔法は使えないが、何とかなるだろう」
そう言ってリステインはおもむろに、麻痺状態で動けないでいる敵に拳を振り下ろした。
――ゴギャッ!!
と鈍い音と共に、敵の膝から下が変な方向に折れ曲がった。
更にリステインは表情一つ変えずに、拳を振り下ろす。
敵は腕も足も、まるで糸の切れたマリオネット人形のようになってしまった。
うむ、正直に言おう。
オシッコ少しチビったなり。
「ふん、これで逃げ出せまい」
「や、まぁ……そうなんだけどさぁ」
でもそいつ、既に死に掛けてますよ?
良かったなぁ……俺の世界にはジュネーヴ条約とかあって。
「さて、麻痺を解除してやる。だから全て話せ。話さなければ更なる苦痛を与える。もちろん話せば、楽に殺してやる」
リステインはそう言って、腕を伸ばし、何やら呟いた。
瞬間、彼女に手足を粉砕された暗殺者は微かに身動ぎし、
「う…あ……」
くぐもった声を上げた。
うむ、耐えるねぇ。
俺だったら、先ずは大号泣に大絶叫は鉄板なんですが…
「貴様の雇い主は誰だ?目的は?」
リステインは冷ややかに敵を見下ろし、複雑に折れ曲がっている腕をグリグリと踏みつけながら問い掛けた。
「言え。誰の手の者だ?言えば楽にしやるぞ?」
「ぐ……」
うぉう……やはりプロだ。
あれだけ責められても吐かないとは……
俺だったら、生い立ちからトラウマまで、何でも話しちゃうだろうね。
「……ふん」
リステインは軽く鼻を鳴らし、そして足を上げるや、いきなり踏み付けた。
敵の股間を。
――ひぇぇぇぇぇっ!!?
自分の玉々がキューと縮み上がり、思わず手で押さえてしまう。
暗殺者は仰け反り、そして口から泡を吹いて全身を痙攣させながら気を失ってしまった。
そりゃ失うわな。
「ふ、楽にはさせんぞ」
手を翳し、何やら雷的なモノを敵に浴びせる。
「ぐ……が…がが……」
「さっさと吐け。どのみち貴様は助からん。助ける気もない」
「ぐ…ぎ……あ…甘いな、番人」
「なッ!?しまっ―――」
刹那、辺り一面を白き閃光が覆った。
★
瀕死状態だった敵は、自爆した。
何かしらのアイテムか特技か分からんが、爆発四散した。
中々のプロ根性の持ち主だ。
ま、男のシンボルも潰されたし、どのみち生きては戻れんのだから、選択肢がそれしかなかったとも言えるが。
「あぅぅ…痛チチチチ……み、みんな、大丈夫か?」
「……何とかね」
しかめっ面をしながらプルーデンス。
埃を払うように着ている服を手で叩いている。
幸い、外傷は無いようだ。
「リステインは?」
眼前でモロに爆発を受けたが……大丈夫じゃろうか?
「大事無い」
リステインは無傷だった。
その身に付けている衣服すら、破れもしていない。
ただ、その顔は少し深刻そうであった。
「咄嗟に防御シールドを張ったが……ふん、魔力を使い過ぎた。少し拙いな」
「大丈夫なの、リステイン?」
「……大丈夫だ。ただ、万が一の時は頼むぞ、プルーデンス」
「……」
「神代洸一。お前は無事か?」
「ん?俺?」
俺は自分の体を弄り
「掠り傷一つ無いでごわす」
「……ふふ、中々に運が良いな」
「あの爆発でシールドも張らずに無傷なんて、運だけは良いわよねぇ」
「いや、運は悪いだろ」
何しろこんな野蛮な世界へ送り込まれたんだからな。
「って言うか、この爆発はチト拙いんでないかい?」
「だろうな」
リステインの眉間に大きな皺が寄った。
「自爆と同時に私の結界を破壊した。敵に察知されたのは確実だろう」
「どうするの?このまま突っ切る?」
プルーデンスが前方を指差す。
「このまま行けば3日……うぅん、頑張れば2日でグライアイの領地へ入れるわよ」
「……ふむ。難しい選択だな」
「そう?真っ直ぐ進めば良いじゃないの」
「全くお前は……人界だと、確か短兵急とか言うのだったか?」
「え?あぁ……確かそんな様な言葉だな。プルーデンス、このまま行くと、敵に追いつかれる可能性もあると思うぞ」
「やっつけるわよ」
「いや、まぁ…確かに、今の戦いを見ても、お前が強いのは分かった。けどなぁ……」
「なによぅ」
「神代洸一は、囲まれたらどうするのだ、と言っているんだ」
リステインは難しい顔で前方を睨むように見つめ、
「敵は用意周到だ。恐らく、国境付近にも部隊を配している可能性が高い」
俺もそう思う。
絶対に逃がさない、と言う作戦ならば……伏兵にしろ罠にしろ、何か仕掛けている筈だ。
それに分散している奴等も随時集結して来るだろうし……
包囲されたら、そこでジ・エンドだぞ。
「そんな事、私だって分かってるわよ」
プルーデンスはフンと鼻を鳴らし、何故か胸を逸らしながら
「敵が集まる前に、一点突破よ」
「お、おぅ……」
「リステインや洸一の言いたい事は分かるわ。けどね、現実的に迂回とかしている余裕はないのよ」
「現実的にって?」
「……水と食料が足りないわ」
「ぬぅ…」
そりゃ盲点だった。
確かに、普通にグライアイの所まで行くぐらいしか、持って来なかった。
敵を迂回した場合、グライアイの元まで行くのには、どれぐらい日数が掛かるのだろうか?
「それに国境付近で暴れていたら、グライアイだって早く気付くんじゃない?そうすれば援軍だって……」
「う、うぅ~む……」
なるほど。
猪だとばかり思っていたけど、彼女は彼女なりに、色々と考えているんだ……
「どうする、リステイン?」
「ふむ……プルーデンスの策もありだが、ここは敵の目を避け、迂回しよう」
「え~~なんでよぅ」
「ふふ、敵中を突破も良いが、そうすると間違い無く、神代洸一は死ぬ」
うん、ボクもそう思う。
だって俺、何処に出しても恥ずかしい役立たずだしな。
自分でそう言っちゃいますよ。
「何より……私の魔力が持たない。もちろん、お前もなプルーデンス」