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俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
6/27

修学旅行・洸一、恥かしながら帰って参りました



★5月12日(木)



神が憑依うつって悪戯をした……

と言う、『良し、病院へ行こうか』的な事件ではあったが、そこはそれ、事の首謀者がのどかさんであり、またオキクルミ自身の神秘的パワーを目の当りにした被害女性達(笑)は、何とか俺を信用してくれて、この件は不問に附すと言う事になった。

もちろん、人の口に戸は立てられぬの例え通り、ヤバイ風評を気にした俺は、オキクルミに頼んでその場に居合わせた野郎どもの記憶を消す事にした。

一応は神様なので、それぐらいは出来らしい。

本当は、キスしちまった女の子達の記憶も永遠に削除したかったのだが、オキクルミ曰く、

「乙女にそのような不埒な真似はできんッ!!」

と、とても性犯罪者の言う台詞とは思えないお言葉で却下。

また女の子達も、妙にモジモジしながら、記憶は消さなくて良いとか何とか言っていた。

……俺を脅すネタにしたいのだろうか?


ちなみにオキクルミは去り際、世話になったお礼にと、何やら御守りを俺にくれた。

何でも、身の危険から守ってくれるアイテムらしい。

神様から直接貰った御守りだ、それなりに御利益はあるのだろう……と思うが、どうもいまいち信用出来ない。

今度ヒマを見つけたら、その辺の神社で燃やしてしまおう。


ま、そんなこんなで、修学旅行最後の夜も何とか生き延びる事が出来て翌朝。

俺は愕然としていた。

「な……なんてこったい……」

小さく呟く。

カーテンの隙間からは突き刺すような朝日。

時刻は朝の6時……

部屋にいる野郎どもは、呑気にまだ夢の中だ。


「なんてこったい……」

俺はもう一度呟く。

神代洸一、一世一代の大失態を演じてしまった。

何が原因だろうか……いや、そんな事は分かっている。

昨夜、俺はキスをした。

もちろん、ファーストキスだ。

それどころか、いきなり計6回もしてしまった。

真咲に2回、美佳心に1回及び乳揉み、智香に1回しかもディープキス、そして穂波に1回に酒井さんにも……見目麗しい、と言うか見目だけ麗しい乙女達に、キスの嵐。

まさに青春の出血大サービスと言った感じだった。

だから夜になっても、その事を思い出し、少々興奮した。

俺もお年頃なのだ。

それは致し方の無い事だと思うが……それが原因で、よもや俺のリビドーが爆発するとはッ!!

これが思春期の罠なのかッ!!


「……ど、どうしましょう?」

布団から半身を起こし、少しだけ途方に暮れる。

下半身に纏わり付く嫌な感触に、心の中に吹荒れる罪悪感。

そう、大きな声では決して言えないどころか、言うぐらいなら死んだ方がマシと言うか……

ともかく、『あ、何か良い感じ♪』と夢の中で妙に気持ち良いなぁ~と思っていたら、ホンマに出ちゃってました。


「……ぬぅ」

思春期な僕……

そして修学旅行中の禁欲生活……

極め付けは昨夜のキス……

これだけの条件が揃えば、おパンツの中がエライ事になっていても仕方なかろうと思う。

思うがしかし、修学旅行中に出しちゃうのは、さすがに人としてどうよ?とも思う。

こんな事が他人に知られたら、もう僕は生きていけない。

ドリームファッカーとかホルモン洸一とか、有難くない異名を奉られた挙句に、男子からは失笑の嵐、女子からは嘲られ、そして僕はお家の中に引き篭もりと、惨憺たる未来が待ち受けている事だろう。

だが幸いな事に、まだこの極秘情報は、他の誰にも知られていない。

行動するなら今しかない。

証拠を隠滅し、全ては無かった事にするのだッ!!


「と、取り敢えず風呂場へ……」

俺は皆を起こさないようにそーっと布団の中ら這いずり出て、先ずは替えのおパンツを捜索。

ジャージのズボンにも染みが浮き出て、見る度にションボリとしてしまうが……今は先ず、中身を綺麗にしないと!!


え~と、パンツの替えは……

ゴソゴソと鞄の中を漁り、新品が無かったので、一度穿いたお古のパンツを取り出す。

そして部屋の中に干してあったバスタオルを肩に掛け、いざ大浴場へ向かおうとするが……

はて?何かしら妙な視線を感じる。

背中に誰かの視線を感じる。


よもや……まさか、誰か起きているのかッ!?

だとしたら俺は……俺はそいつを殺めてしまうかもしれんッ!!


――クッ……誰だッ!!

サッと振り返る俺。

皆は布団の中で、グーグーと鼾を掻いていた。

ん?気の…せいか?

・・・

いや、纏わり付く視線を感じる。

なんだ、このプレッシャーは?

俺は更に念入りに辺りを見渡す。

寝ているフリをして、俺の怪しげな行動を見ている奴がいるかも……

――――――ッ!!?

思わず「ギャーーーーッ!!」と声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。

何故なら、柱の影から酒井さんがジーッと俺を見つめていたのだ。

しかも汚らわしい者を見る目つきでだ。


な、なんてこったい……

一番見られたくない人(?)に見られてしまった。

下手をすれば、彼女の口からのどかさんへ、そしてのどかさんから皆へ……そして僕の名誉は地に落ちた、と言う事になってしまう。

なな、なんとかせねばッ!!


さ、酒井さん……

俺は一歩を踏み出す。

と、酒井さんはトテテテと走って逃げ、そしてまた此方を振り返るや、ジーッと俺を見つめる。

あぅ…

「……OK。取り敢えず風呂に行って来る。その後で、これからの事を話し合おうじゃないか」

俺はそう言うと、ガックリと項垂れ、部屋を後にして風呂場へ向かったのだった。



風呂場で青春の熱くて白いアンチクショウにまみれた股間方面を、アライグマかと思うぐらい丹念に洗った後、おパンツを穿き替えて部屋に帰陣。

そして唯一の目撃者である酒井さんに平身低頭し、

「何卒、このことはご内密に……」

と申し上げると、

「キーーーーー(一つ、貸しね)」

とのお言葉。


い、生き人形の分際で……

沸沸と怒りが湧き起こるが、

「キーキー?(逆らったらのどかにチクるわよ?)」

と言われると、もう僕は何も言えない。

とんだ弱みを握られたもんだ。


さて……

色々とあったが、修学旅行も今日が最終日。

俺達は函館を後にし、先ずは札幌に舞い戻った。

そこで何やら郷土資料館や博物館を見学した後、観光客相手の大きなショッピングモールにて暫しの自由行動。

買いそびれたお土産を物色し、その後に故郷へ帰還と言うことなのなだが……


「ぬぅ…」

お土産物屋『北枕』の海鮮物コーナーで、俺は大きなタラバ蟹を見つめながら、人知れず溜息を吐いていた。

別にこの蟹を買おうかどうか迷っているワケではない。

なんちゅうか……ねぇ?

俺は昨晩、成り行き任せに女の子達の唇を奪った。

それはもう済んだ事で、彼女達も致し方なしと納得してくれた。

だがしかし、俺も彼女達も初めてなのだ。

初めてのチュウだったのだ。

正直、俺自身……まだドキがムネムネしている。

恥ずかしく、彼女達と何と無く顔を会わせ辛いと思ってる。

が、しかし、彼女達は至って平静だった……

と言う訳が無い。

むしろ、照れたりハイだったり……色々な意味で大変だった。


穂波は俺の顔を見る度に、

「うひひひひ……うひぃ♪」

と、まるで大好きなギ○ーピッグのヴィデオを見た時のように、嫌な笑みを溢すし……

智香は智香で、

「ちょっとコーイチ、聞いて聞いてッ!!」

と、やたらテンションが高く、愚にも付かない与太話を振って来る。

そして普段はクールな美佳心チンも、

「ああ、あんなぁ洸一くん。その……ここここんどの休みに……」

言葉を噛む始末。

そして極め付けは真咲さんだ。

「あ、洸一……」

と、俺の顔を見た瞬間、可哀相なくらいに真っ赤になって、後は言葉無し。

純な真咲姐さんにとっては、さすがに昨夜の出来事は衝撃が大き過ぎだったのだろう。

ま、俺も色恋沙汰の経験が無いから何とも言えないが……

こーゆーのは、時が経てばある程度は収まると思う。

思うのだが…


「洸一っちゅわん。何見てるの?蟹?蟹かぁ……ケェーーーーッ!!」

「コーイチ、その蟹買うの?でも高いよ?こっちの方が安いでしょ?こっちにしなよ。あ、毛蟹も良いかもね♪」

「蟹かぁ……洸一くんや、蟹鍋でもするんか?もしするんやったら、その……えと……うううううちも一緒に…」

「洸一…」


ぬぅ…

何故に皆、俺の後を付いて来る?

お土産を買うための自由行動なのに……

俺の周りに何故に集う?

他の連中も不思議そうに見てるし……多嶋なんか、ハンカチ噛み締めながら睨んでいるぞよ?


うぅ~む、困った。

時が経てば解決してくれると思ったが、旅は今日で終りなのだ。

このまま飛行機に乗って、故郷へ帰るのだ。

そう、故郷へ帰ると言う事は、のどかさんや優ちゃん、そしてまどか達に再び会うと言う事なのだ。

……どうしよう?

こんな状態の彼女達の事を、なんて説明すれば良いのだろうか?

「いやぁ~…キスしてやったら、何だかメロメロになっちゃってさぁ。ハッハッハ」

って正直に言うのか?

・・・

言えるかッ!!

言ったら最後、必ず良くない事が起こる。

根拠は無いけど、俺には分かる。

撲殺されるイメージがダイレクトに脳に浮ぶんだよッ!!

浮ぶんだよぅぅぅ……


「……すいません。この蟹を下さい。あ、出来ればクール宅急便で送って欲しいんですが……」

取り敢えず、今の俺に出来ることは……金があるだけ、お土産を買おう。

いざとなったら、たくさんのお土産で誤魔化すのだ。

貢物で疑惑の追求を躱すのだッ!!


「洸一っちゅわん♪私……これ欲しいなぁぁ」

「コーイチ、私にも何か買ってよ。アンタは私に奢るぐらいのことをしたんですからね。と言うワケで、これ買って」

「洸一くんや。その……ううううううちな、これ欲しいんや。めっちゃ可愛いんやんか」

「洸一……こ、これ」


君達も欲しいんだね?

「……OKOK、何でも買うちゃるわいッ。その代わり、出来れば昨夜の事は他言無用に……ね?」



飛行機に乗って数時間……

俺は帰って来た。

遂に地元に戻って来た。

そして学校に戻り、校長の

「家に帰るまでが修学旅行です」

と言う全国共通の至言を聞いた後、解散。

俺はお土産(貢物)のいっぱい詰った紙袋を両の手にぶら下げ、先ずは夕暮れに赤く染まった裏山へと向かった。


さて、優ちゃんや姫乃ッチはいるかな?

社へと続く長い階段をひーこら言いながら上り、境内へと到着。

マイフェイバリットな少女達は、今日も練習に勤しんでいるのでしょうか……

「あ、あれ?」

社はシーンと静まり返っていた。

いつもなら、ズドバンッ!!と、テロか局地戦のような轟音が鳴り響いている時間なんじゃが……

俺は足音を忍ばせ、社の裏側へと回ってみる。

と、そこには俺の愉快な学園生活に華を飾ってくれつつもデンジャラスな毎日をプレゼントしてくれる美少女2名が、ちんまりと静かに社の縁に腰掛けていた。


な…何をしてるんじゃろう?

そっと聞き耳を立ててみると、緩やかな風に乗って、微かに彼女達の声が聞こえてきた。


姫乃ッチ:「……退屈だね」

優ちゃん:「……うん」

姫乃ッチ:「神代さんがいないと、裏山ってこんなに静かなんだ……」

優ちゃん:「……うん」

姫乃ッチ:「……」

優ちゃん:「……先輩、今頃なにをしているのかな」

姫乃ッチ:「もうすぐ……帰って来るんじゃない?」

優ちゃん:「殆ど毎日顔を会わせていたから……」

姫乃ッチ:「……ちょっと、寂しいね」

優ちゃん:「……うん」


…………ガッハッハッハ、照れますなッ!!

いやはや……

なんちゅうか、こっ恥ずかしいと言うか、俺も中々捨てたモンじゃないね。

可愛い女の子に、会えないと寂しい、とか何とか言われるとは、ちょっと感動ですよ。

昔は、会えなくて清々する、とか何とかクラスの女子に言われていたからね。

しかし……なんだな、ちょっと出難いな。

出るタイミングを完璧に逸してしまったよ……


俺は息を潜め、社の影から二人を見つめる。

二人は寂しそうな横顔で、座ったままだ。

どうしましょう?

このまま黙って見ていても仕方無いけど、はてさて、どうやって声を掛けたら良いものか……


と、俺が眉を顰めて思案している時だった。

いきなりフッと目の前が真っ暗になると同時に、『だ~れだ?』と可愛い声。

それが余りにも突然だったので、俺は思わず

「フギャーーーーーッ!!?」

と、車に轢かれて煎餅になってしまった猫のような叫び声を上げてしまった。


「わッ!?び、びっくりしたなぁ…」

慌てて振り返ると、そこには梅女の制服を着たまどかが、瞳をパチクリとさせて佇んでいた。


こ、この野郎……俺が如何にしてカッチョ良く登場しようかと悩んでいるのに、いきなり声を掛けるとは……この無礼者めッ!!

等、普段の俺なら文句の一つでも言ってやる所なんだが、久し振りに見たまどかに、俺は少しドキドキして言葉を失ってしまった。

もちろん、まどかってやっぱり美人だなぁ~……と言うようなトキメキ系のドキドキでは無く、真咲さん達のことがバレませんように……と言う、危機管理的なドキドキだ。


「な、なによぅ。いきなり大声出して……」

まどかは少しだけ、その綺麗に整った眉を顰めた。


「い、いきなり視界を奪われて声を掛けられりゃ、誰だって驚くわい」

しかも今時、『だ~れだ』なんて言う奴がいるとは……

ちょっぴりお茶目で可愛いじぇねーかッ!!

・・・

いや、そんな事はどーでも良いんだがな。



「ったく、遥か北の大地から無事に生還したんだ。最初に言うのは、おかえりなさい、だろーが」

俺がそうブツブツ溢すと、まどかはポニテを揺らしながら、

「相変わらず、アンタは何様って感じねぇ…」

どこか呆れたような口調で言う。

もちろん、本当に呆れているのではなく、その証拠に、目元は微笑んでいた。


やれやれ……

俺は軽く鼻を鳴らし、口元を歪めて苦笑を溢す。

にしても、何でまどかがここにいるんじゃろう?

もしかして……俺が帰って来るから、わざわざ出迎えてくれたのか?

だとしたら俺は、少し照れ臭いと言うか嬉しいと言うか……


「なぁ、まどか。お前……」


「せ、先輩ッ♪」

「神代さん…」


「ん?おぉ……我が愛しき後輩達よッ!!」

振り返ると、優ちゃんに姫乃ッチが、ニコニコと微笑み立っていた。

その瞳は、心なしか潤んでいる。


あぁ……何て可愛い後輩なんだろう……

しみじみと、部活に入ってて良かったにゃあ、と思ってしまう。


「お、お帰りなさい、先輩」

優ちゃんが熱い眼差しで俺を見つめる。

そして姫乃ちゃんも同じように、どこか儚げな微笑で

「神代さん……お帰りなさい」


「お、おうよッ。って言うか、たかが修学旅行から戻って来ただけじゃないかぁ。そんな大冒険をして来たように迎えられると、お兄さんとしては少し照れちゃうなぁ……な、まどか?」

と、俺はあまり優しく出迎えてくれなかったまどかの方を振り向くと、彼女は俺の持ってきたお土産の詰った紙袋を、ガサゴソと音を立てて漁っている所だった。

「うぉいッ!?お前、何してんだよーーーーーッ!?」


「え?いやぁ~……約束通り、ちゃんとお土産を買ってきたかなぁ……と思って」

全く悪びれず、まどかはサラリと言ってのけた。

本当にまぁ、色々と凄いお嬢様だ。


「心配するな。ちゃんと買ってきたわいッ」

俺は彼女の手から袋を引っ手繰る。

ったく……

俺に会いたくてここに来たのかな、と少し期待しちゃったのに……

よもや土産物目当てとはなッ!!

「本当にお前は、油断も隙も無い女だな」


「なによぅ…」

まどかはプゥ~と頬を膨らませた。

「せっかく久し振りに洸一に会えると思って、学校からダッシュでやって来たのに……」


……へ?

「そ、それって……マジか?」


「嘘に決ってるじゃない」


「……」

わ、分からねぇ…

この女の本心がどこにあるのか…

そして何を言いたいのか、俺には分からねぇ…


「それよりも洸一。早くお土産っ♪」


「ん?あぁ…そうか」

俺は袋を開け、北海道土産を取り出す。

「え~と、先ずは優ちゃんと姫乃チャンにはこれを……」


「あ、可愛い…♪」

優ちゃんは嬉しそうに、ちょっぴり虚ろな瞳が怪しいキタキツネのヌイグルミを抱き締めた。

やはりこーゆー所は、どこか女の子らしい。

見ているこっちも、思わず鼻の下が伸びてしまう。


「喜んでくれて何よりだ。それと、お菓子もあるぞよ」

俺はいそいそと、大きな箱を優チャン達に手渡す。

「優ちゃんには定番のバターサンドと白い恋人だ。んで、姫乃ちゃんは北海道生まれだから、はい、名古屋名物きしめんパイと、お菓子じゃないけど、桑名産ハマグリの佃煮セットだ」


「ありがとう御座います先輩ッ♪」

「あ…ありがとうございます…」


「いやいや、ハッハッハ…」


「ねぇねぇ洸一、私には?」

まどかが俺の制服の裾を引っ張る。

「分かってるって。ちゃんと約束通りに買って来たぞ」

何しろ、買って来ないとブン殴られるからね。

「はいよ、有名メーカーのチョコの詰め合わせと夕張メロンキャンディーだ。後はほれ、これも付けてやる」


「なに、これ?」

小さな包みを、首を傾げて見やるまどか。

「開けても良い?」


「構わんぞ」


「えっへっへ、なんだろうなぁ……」

まどかは嬉しそうに包みを開けると、「あっ…」と小さく声を上げた。


「どうだ?その木彫りの人形、中々にナイスデザインだろ?」

しかも買った中で、一番高かった代物だ。


「あ、ありがとう……洸一」

まどかは大切そうに、その木彫りの人形を、そっと胸に押し抱たいた。

そしてどこかはにかんだ笑みで、俺を見つめる。


「お、おう…」

なんか……ちょっと照れ臭い。

普段は喧しい上に手も出す暴れン坊プリンセスのクセに、時々妙に可愛いと言うか何と言うか……

そーゆーのは、色々と反則だと思うぞ。

俺は思わず、「そろそろ日が暮れてきたなぁ」とか何とか言いながら、頭を掻いて彼女の視線を外すが、

「あぅ…」

外したその先に、佇むお人が一人。

社の柱の影で、どこか隠れるように立っていたのは、のどかさんだった。



「あぅ、のどか先輩……」


「え?あれ……姉さん?」

まどかが振り返ると、のどかさんはトテトテと此方へ向かって歩いて来る所だった。


な、なんじゃろう?

何か……ちょっと良くない予感がするんじゃがのぅ……


「……洸一さん。お帰りなさい」

のどかさんはぺこにゃんと軽く会釈。


俺も会釈を返しながら、

「は、はい、ただいまです」

何故だか背中にブワッと冷たい汗が浮ぶ。

え?何、この感じ?プレッシャー?

摩訶不思議な気配が漂っているんじゃが……

「あ、のどか先輩にも、当然、お土産があるんですよぅ」

俺はお土産と言う名の貢物が山のように詰った袋を、彼女に手渡した。

ご機嫌を損ねてはならないッ!!と本能が訴えているから仕方がない。


「ありがとう御座います…」

のどかさんはお土産を受け取り、再び軽く会釈。

その表情は相変わらず乏しいが……

何だかいつもより、更に乏しいような気がするのは、気のせいだろうか?


「…洸一さん」

のどかさんは受け取ったお土産袋をそっと地面に置くと、ゆっくりと静かに腕を伸ばした。

そして俺の目をジッと見つめながら、

「……めっ、ですよ」

優しく頭を撫でる。


「は…はい?」

なんですか、一体?

お帰りの挨拶ですか?


と、まどかが俺の制服の裾を引っ張り、囁くように小声で言う。

「ちち、ちょっと洸一。アンタ一体、何したの?姉さん……凄い怒ってるじゃない」


「……怒ってる?」


「そーよ。あんなに怒ってる姉さん、久し振りに見たわ」


「そ、そうなんだ」

表情が乏しいから、何を考えているのか良く分からんかったが……

そっかぁ、怒ってるのかぁ……

てっきり新しいスキンシップの類いだろうと思ったわい。

「あ、あのぅ……のどか先輩?」


「洸一さん…」

偉大な魔女様は、相変わらずボーッとした表情のまま、淡々とした口調で

「全て酒井さんから聞きました」


「――ハゥァッ!!?」

心臓を鷲掴みにされた気分になった。

酒井さんに……聞いた?

聞いたって……何を?

よもや、もしかして……

出しちゃった事か?

今朝方、夢と現実の狭間の世界で気持ち良く放出した事かッ!!?


「ああああ、あれは違うんですよ先輩ッ。いや、何が違うとか言う問題じゃなくて、アレは男子にとっては至極当たり前の行為と言うか習性と言うか大人になる為の通過儀礼と言うか……そもそもなんでそれで怒られるんです???一人で出したからですか?」


「良く分かりませんが……オカルトに関しては、全て報告することが前提なのです」


「オ、オカルト?」

なんだ、出ちゃった事で怒ってるワケじゃないのか……

ま、そりゃそうだろうな。

そんな事で怒られたら、僕どうして良いか分からないモンね。

で、オカルトの件で怒ってると言うと……

ふむ、キスをしまくったオキクルミ云々の事かな?

「な、なんだ。そっちの話しですかぁ……」


「はい。事のあらましは、酒井さんが報告してくれました」


「そうですかぁ……――って、ハゥアッ!!?」

ボンッと音を立てて、脳内で何かが爆発した。


「洸一さん。鬼畜にも劣らぬ所業です」


「ちちち、違うんですっ!!」

いや、違わないけど。

「あ、あれはそのぅ……俺の意思じゃないんですッ!!」

ど、どうしよう?

何て言い訳しよう??

酒井さんは一体、どこまで話しをしたのか……


「よもや酒井さんまでに手を出すとは…」


そこまで話したんですかッ!?

「え、え~とですねぇ……その件に付きましては、僕にも回避不可能な様々な事情がありまして……」


「……洸一さん、ダメダメのダメです。先祖はきっと、猿か何かです」


「いや、たいていの人類はそうなんですが……」

俺は俯き、コリコリと頭を掻く。

さて、何と言ったら納得してくれるんだか……



沈黙が辺りを支配していた。

のどかさんの視線を外すように、俺は俯き、必死で言い訳を考える。

と、まどかがそんな俺の制服の裾をクイクイッと引っ張りながら

「ねぇねぇ洸一。……アンタ、何か悪い事したの?」


「し、してねぇーよ」

キスは……悪い事じゃないよね?


「じゃあ何をしたのよぅ」


「……それは言えん」

言ったら僕のライフは、ここで終焉を迎えてしまう。……ような気がする。


「あっそ」

まどかは目を細め、ニヤリと微笑んだ。

「姉さん。この馬鹿、一体なにしたの?」


「それは修学旅行で……」


「どわぁーーーーーーッ!?」

俺は慌ててのどかさんに飛び掛り、その端整な口元を必死で手で押え込んだ。


「モガモガ…(こ、洸一さん……私にもする気ですか?)」


「ち、違います違いますッ。ってゆーか、あまり変な事を言わないで下さい!!」


「ちょっと洸一、何をそんなに慌てているのよぅ」

まどかの目が更に細まった。

「修学旅行で、何をやらかしたのよぅ?」


「や、やってません」


「……やりました」


「ンヒィーーーッ!?のどか先輩、少し黙ってて下さいッ!!」

俺はバックンバックンと不規則に脈打つ鼓動を抑えながら、

「あ~~……別に、何もしてないぞよ」

まどかに向かって言う。

もちろん、平静を装ってだ。

「しゅ、修学旅行は平穏そのものだった。穂波は相変わらずテンパってたし、委員長は見事なダイナマイツボディだった。智香はのべつ間も無く喋りまくっていたし、真咲はいつも通り少し凶悪だった。うむ、みんないつもと同じ、何ら変り映えのしない旅だった。そこにアクシデンツは存在しなかったのだ、まる」


「ふ~ん…」

まどかはフムフムと頷くが、その瞳は疑惑に満ちていた。

「ねぇ洸一、ちょっと聞きたいんだけど……」


「な、なんだ?この時期の北海道の気温か?うぅ~ん、朝とか夜は少し肌寒かったにゃあ……」


「そうじゃなくて、アンタ……いつから真咲の事を名前で呼ぶようになったの?」


「…………え?」


「旅行に行く前は、真咲の事は二荒って呼んでいたのに……」


そ、そうだったか?

俺とした事が、ちと迂闊だぜ。

「あ、あ~~……色々とあってな」


「色々?色々って何?」

僅かにその細い眉がカーブを描く。

まどかの中で、どんどんと疑惑が広がっているようだ。


ぬぅ……

何か自分で墓穴を掘ってる気がする……

「え~~と、その……あ、思い出した。真咲が自分の方から、名前で呼んでくれって言ったんだ。うむ、それで俺は、二荒の事を真咲って言うようになったんだ。うん、そうだったそうだった……」


「ふ~~ん。……で、その真咲と何かあったの?」


「……何も無いです」


「視線を逸らさずに、ちゃんと前を見て言いなさい」


「あぅ…」


「それで?何も無かったって言ったけど、手……ぐらいは繋いだんだよね?」


「え、え~と……まぁ、手ぐらいは……」


「ふ~~ん…」

少しだけ、まどかの声が甲高い。

「そっか。……仲良くお手々繋いで旅行を愉しんでたんだぁ」


「べ、別に深い意味とか、そーゆーのは無いぞ。うん。手ぐらい、俺は誰とでも繋ぐ」


「……なるほど。みんなと仲良くしてたんだぁ」


「ま、まぁな。俺は博愛主義者だしね」


「それで?当然、洸一の事だから……手を繋ぐだけじゃなかったわよね?」


「ど、どーゆー意味か分かりませんな」


「具体的に言うとねぇ……」

そこまで言うと、まどかのトーンが急激に下がり、

「どこまでやったの?」


「ど、どこまでって……何の事か僕にはサッパリですなッ」

ってゆーか、何で俺がまどかに責められるんだか……これもサッパリですな。


「……もしかして、最後まで行っちゃったの?」


「い、行ってねぇーよッ!?」


「本当に?」


「本当の本当だッ!!」


「マジで?」


「マジマジだッ!!」


「じゃあどこまでやったの?」


「え?キスまでかな?」


「……」


「……あ、言ってもうた」

俺は慌てて、周りを取り囲む彼女達を見渡す。

のどかさんは相変わらず表情に乏しく、まどかは冷ややかな顔をしていた。

優チャンと姫乃ッチは、鳩が豆鉄砲食らったみたいに、目と口がOの字を描いている。


ぬ、ぬかったぁぁ……

俺とした事が、こんな単純な誘導尋問に引っ掛かるとは……

何とかフォローしなくてはッ!!

「い、言っておくが、真咲だけじゃないぞッ!!皆にもしたんだぞッ!!」


まどか:「……」

姫乃ッチ:「……」

優ちゃん:「……」

のどか先輩:「……」


ぬぅ…

もしかして、俺って馬鹿?

「な、な~んちゃって」


まどか:「……」

姫乃ッチ:「……」

優ちゃん:「……」

のどか先輩:「……」


俺と彼女達の間を、ピュ~ウと冷たい風が吹き抜けた。

事、ここに至っては致し方なしか……

「え~と……うむ、分かった。では全てを最初から話そう。実はだ――」

と、俺が真実を話そうとした時だった、まどかは無言で踵を返し、スタスタと歩いて行く。

「お、おい、まどか?」


「……」


「え、えと……まどかさん?」


「……気軽に名前で呼ばないでくれるぅ」

振り返ったまどかは、物凄く醒めた笑顔だった。


「あ、あのなぁ…」


「それじゃあね、洸一。せいぜい、真咲達と仲良く遊んでなさい」

そう言って、再び踵を返して歩き出す。


「ぬぅ…」

彼女の背中から溢れる殺気に、俺はただ呆然と、去って行く後ろ姿を見送るだけしか出来なかった。

ってゆーか、何でそんなに怒るんだろう???



「やれやれ…」

陽が沈み、街の中に各家庭から溢れ出す夕飯の匂いが満ち始める頃、俺は巨大な喜連川邸の正門の前に突っ立っていた。

この神代洸一、女に嫌われるのは一向に構わないが、誤解されるのは嫌なのだ。

ともかく、まどかにはちゃんと説明しておかないと……

ちなみに、優チャンと姫乃ッチは、何とか理解してくれた。

説明に1時間も掛けたのだ……

納得してくれないと俺が困る。と言うか、号泣する。

更にちなみに、のどかさんはまだ無言で怒っていた。

例え相手が神様でも、そーゆー契約はしてはいけない、とか何とか呟いていた。

元凶である筈なのに、何で僕が怒られるんだか……甚だ疑問だ。

ま、それはさて置き、問題はまどかだ。

真咲や美佳心チンや智香や穂波と、ちょっとキスしたぐらいで怒るなんて、一体何様のつもりなんだろうか?(答え:お嬢様)

いや、まぁ、それは言うまい。

ともかく今は、あヤツの誤解を解く事が先決だ。

俺の心の平穏を取り戻す為にも、何とか納得してもらわなければ……


「とは言っても、生半可な説明じゃ聞いてくれないだろうなぁ」

俺は大きく溜息を漏らし、広大な喜連川邸の庭を見つめる。

すると、タッタッタッと足音を響かせ、館から此方へ向かって駆けて来る影が二つ。

近付いてくるのは……おぉ、我が愛しきラピスとセレスではないか。


「おぉ~い」

ブンブンと手を振る俺。

するとラピスも手を振り返しながら、

「あやややや、孝之しゃんッ♪」


……誰だよ、それ?


「はゃ、間違えたんでしゅ」

俺の前までやって来たラピスは、テヘヘへと可愛らしく微笑みながら、

「え~と……確か洸一しゃんでしゅ。久し振りだから、ちょっと間違えたんでしゅ」


「……」

久し振りと言うか、たかが三日で名前を忘れるとは……

猫より酷ぇや。

こヤツのAIは、一体どーなっておるのだ???


「_お帰りなさいませ、洸一さん」

とセレスが軽く会釈。


「うむ。二人とも、元気にしてたか?」


「はいでしゅ」

「_はい。此方は何ら変わりありません」


「そっか……そりゃ良かった。っと、そうだ、ちゃんと二人にも、お土産を買って来たぞよ」


「あややッ!?こ、洸一しゃん、遂にチンギス・カンを捕らえたんでしゅかッ!?」


「……いや、アレは特別天然記念物だった」

俺は紙袋の中から、彼女達の為に買っておいたお土産を取り出し、それを手渡す。

中身はキタキツネのヌイグルミちゃんに、アイヌのシンボルが書かれたハンカチーフだ。


「ありがとうでしゅッ♪」

ラピスがガバッと、コメツキバッタのように抱き付いてきた。

「感謝感激でしゅ。生涯、この御恩は忘れないでしゅっ!!」


……三日で名前を忘れるのに?


「_あ、ありがとう御座います」

セレスはそう言って、お土産の詰った袋を大事そうに抱える。


うむ、喜んでくれて何よりだ。

何を買おうか迷った甲斐があったと言うモンだ。

さて……

「あ~~ところでセレスにラピスよ。尽かぬ事を尋ねるが……腕白お嬢様のまどかは、ご在宅かな?」


「はゃぁ…」


「_……」

セレスとラピスはお互いに顔を見合わせた。

その瞳には、微かに困惑の色が広がっている。


「ど、どうした?まどかは家にいるんだろ?それとも……まだ帰って来てないとか?」


「_い、いえ。戻って来てはおられるのですが……」

「部屋から一歩も出て来ないんでしゅよぅ」


「ほ、ほぅ……引き篭もっちゃってるのか」

ぬぅ……予想外。

てっきり俺は、怪獣の如く大暴れ、屋敷内にドメスティックバイオレンスの嵐が吹き荒れていると思ったんじゃが……


「_あの……洸一さん。まどかさん、どうかなさったのですか?」


「……さぁ?」

俺は素っ呆けて見せた。

本当の事は言えないし、何より、アイツが怒っている理由が本当に分からないからだ。


「あややや……本当でしゅか、洸一しゃん?」

ラピスが無垢な瞳で、俺をジッと見つめた。

「う……」

思わず視線を逸らしてしまう。

「べ、別に俺は……何もしてないぞよ」


「はやぁぁ?」

「_……何もしてないぞ、と言う事は……洸一さん、まどかさんに何かしたのですね?」


「と、とんでもねぇ。オラ、まどかにはしてないずら」


「_……なるほど。つまり、まどかさん以外の誰かに何かをしたと……そう言う事ですね?」


す、鋭い追及だ……

「へ、変な勘繰りは寄せ」


「_洸一さんは、嘘が下手です」

セレスは到って冷静にそう言うと、いきなりキュッと俺の手を握り締めた。

「_洸一さん。ちゃんと話して下さい。何をやらかして、まどかさんを怒らせたのですか?」


「何もしてないですぅ」

そう言った瞬間、握られた手に物凄い圧力が加わった。

手の甲とかから、メシャメシャッと鈍く嫌な音が響く。

破滅の音だ。

「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーッ!!?」


「_洸一さん、全てを話して下さい。まどかさんはあれでも、喜連川宗家のご令嬢なんですよ?即ち、私やラピスさんの主筋に当る御方なんですよ?さぁ、全部、白状ゲロってしまいなさい」


「な、何もしてないですぅぅぅ」

い、言えない……

真咲達にキスした何て事は、絶対に言えない。

言ったら最後、何だか凄く悪い事が起こるんだって、僕には予見出来るんだッ!!


「_洸一さん……」

セレスの瞳が、どこか沈んだ色になった。

そして哀しみに満ちた声で、

「_そこまで耐えると言う事は……それはとても言えないような事をした、と……そう言うワケですね?」


「う、穿った考えのし過ぎだよぅ。僕は何もしてないよぅ」


「_……そうですか。分かりました。ラピスさん、アモバルビタール……いえ、チオペンタールを用意して下さい」


「な、何それ?何かヤバ気な匂いのするワードなんですが……」


「_自白剤です」

セレスは淡々とした口調で言った。

「_申し訳ありません、洸一さん。ですがこれも、正直に言わない洸一さんが悪いのです。ちなみに、かなりの副作用があり、意識が旅立ったまま戻らない事もありますが……」


「――ンひぃぃッ!?い、言いますッ!!言いますからッ!!」


「_……言います?違うでしょ、洸一さん。この場合は、述べさせて下さい、でしょ?」

セレスはニコッと微笑んだ。



ロボット三原則なんて最初から亡き者にしているセレスに脅され、俺は修学旅行で起きた摩訶不思議な冒険を、詳細に、包み隠さず全て白状した。


「_……なるほど」

セレスはその綺麗な眉を顰め、ウンウンと独り頷き、ラピスは「はやぁぁぁぁッ!?」とレイバック・イナバウアーの体勢で奇声を上げたまま、ショートしてしまった。

「_それでまどかさん、部屋に篭って……」


「そーゆーワケなんだよぅ。ま、どーゆーワケか分からんが、まどかのヤツ怒ってよぅ…」


「_……当たり前です」

セレスはフゥ~と、これ見よがしな溜息を吐いた。

「_この私でも、今すぐに洸一さんを水中クンバカ並の拷問に掛けたいと思っているのに……まどかさんなら、尚更の事でしょう」


「な、なんでだよぅ。さっきも言ったけど、チュウ云々の件は、あくまでも不思議時空内の出来事だったちゅうか……そもそも、何でそんなに怒るんだ?」

俺にはちーっとも、分からんぞ。


「_……洸一さん。貴方は本当に、女心を分かっていません。さすがダメ人間です」

セレスは容赦無かった。


「クッ……バカな事を言うな。ってゆーか、少し俺様を見下してないか、セレス?」


「_今更遅いです」


「ぐぬぅ……」


「_ともかく、今は一刻も早く、まどかさんに謝罪するべきです」


「はぁ?何で俺が謝るんだ?俺はこの国の外務省か?俺は事情を説明しに来ただけであって、謝りに来たワケじゃねぇーぞ?そもそも何も悪い事をしてないモンね」


「_まだ言いますか、このダメ人間は……」

セレスはフンッと鼻を鳴らした。

そしてキッと俺を睨みつけながら、

「_先程も言いましたが、私もそれなりに怒っているんですよ?」


「……なんで?」


「_私も女だからです」


「???」

わ、分からん。

セレスが何を言いたいのか、理解できん。

これだから女って生物は……


「_……困惑していますね、洸一さん」


「ま、まぁな」


「_まぁ、その辺が洸一さんらしいと言えばらしいのですが……良いでしょう、今回の件は不可抗力と言う事で、不問にして差し上げます」


「は、はぁ……どうも有り難う御座います」

理由は分からんが、取り敢えず感謝する俺。

と、セレスはどこか優しげな目つきで、少しだけ小首を傾げながら、

「_感謝は言葉だけですか?」


「は、はい?」


「_……」


「???」

な、なんだ?

何故に俺を、そんな熱い眼差しで見つめる?

俺に何を期待しているんだ?


「_……本当にダメ人間です」

セレスは諦めにも似た溜息を吐き、

「_洸一さん、目を閉じて下さい」


「……へ?」


「_目を閉じて下さい」


「は、はぁ……」

言われた通り、目を閉じてみる。

一体、セレスは何がしたいのだろうか?

取り合えず殴るのだろうか?

それとも蹴るのだろうか?

どちらにしても、それは勘弁願いたい。

そもそも、殴られる理由なんて……

――チュッ♪

なんでしょう?

この唇の熱い感覚は?

「セ、セレスしゃん?」

俺は瞳をパチクリとさせ、彼女を見つめる。

セレスはついっと視線を外しながら、

「_少しだけ……気分が晴れました」


「そ、そうなんですか……」

逆に俺の気分は、滅茶苦茶のひっちゃかめっちゃかだった。

ウラウラベッカンコーな感じだ(意味不明)

煮え滾ったトムヤンクンみたいに、何がなんだか分からない。

取り合えずセレスにキスされた、と言うのはおぼろげに理解できるが……それ以外はサッパリだ。


「_洸一さん」


「は、はひッ?」


「_まどかさんにも、ちゃんと謝ってあげて下さい」


「は、はぁ……分かったでごわす」

俺は小さく、何度も頷いた。

「ところで、その……セレスは何でキスなんかを……」


「_……分かりませんか?」


「う、うむ。坊やな僕には、少々説明が欲しいですな」


「_……ちょっと……してみたかっただけです」

セレスは僅かに口元を綻ばせた。


「そ、そうなんだ……」

って説明になってねぇーし……

やっぱり女って生き物は、男おいどんな俺様には、理解不能の究極生物じゃわい。



一度迷ったら死が訪れるのは時間の問題と言わんばかりの、まるで迷宮のような喜連川邸を、美人のメイドさんに案内されて辿り着いたのはまどかの部屋の前。

これだけで俺が半年汗水流して稼いだバイト代が全て吹き飛んで行きそうな高級チックな木製の扉には、『MADOKA』と書かれたプレートが貼られてある。


さて……

俺は大きく深呼吸をし、軽やかに扉をノック。

「……」

反応は無い。

無礼な奴である。

ぬぅ……

気を取り直し、もう一度ノックをする。

今度は少し強めにだ。


『……誰?』

くぐもったまどかの声が、扉の向こうから微かに響いてきた。


俺はコホンと咳払いし、

「僕ちゃんです」


『……帰って』

実に素っ気無い返事が返ってきた。


「いや、帰ってと言われても……」


『アンタには会いたくないの。……帰って』


ぬ、ぬぅ……

見事なまでに嫌われたもんだ。

「わ、分かったよう。帰るよぅ……」

俺はそう言うと、三呼吸ぐらいの間を置き、

「――実は帰ってなかったりしてッ!!」

おもむろに扉を開けてやった。


「な゛ッ――」

広い部屋の片隅、クッションの上に腰掛けていたまどかはサッと顔を上げ、

「な、なに勝手に入って来てるのよーーーーッ!?」


「いや、だって入れてくれないだもん。ってゆーか……まどか、目が真っ赤だぞ?もしかして昼寝でもしてたんか?」


「う、うるさいっ!!」

まどかは手の甲で瞳をゴシゴシと拭いながら、俺を怒鳴りつける。

「さっさと帰ってよっ!!洸一の顔なんか、見たくないんですからねっ!!」


「いや……先ずは落ち着け。そしてともかく、俺の話を聞くのだ」


「いやっ!!」

まどかは拒絶の意思を言葉で示すや、スクッと立ち上がり、

「あんたの話なんか、これっぽっちも聞きたくないのッ!!」


「どうどうどう……だから落ち着けって」


「う、うっさいッ!!洸一なんか、真咲と一緒に乳繰りあってれば良いのよッ!!アンタの惚気話しなんか、こっちは聞きたくないんですからねッ!!」


いやもぅ、僕はどうしたら良いのでしょうか?

「あのなぁ……惚気話って、俺は確かに真咲とキスをしたけど、そーゆー関係じゃないぞ?もちろん、他の面子も然りだ」


「キスすれば充分な関係じゃないのっ!!この変態っ!!鬼畜っ!!ヒバゴンっ!!」


「だから、その理由を今説明しようと……」


「出てけッて言ったでしょッ!!出てかないと言うのなら、叩き出すわよッ!!」

言ってまどかはギュッと拳を握り締めた。


うおぅ……

何か糞味噌に言われちゃってるよねぇ……参ったね、どうも。

さて、どうする俺?

「お、俺は……帰らないぞ。ちゃんと話をしないと……」


「あっっっっっそ」

まどかは吐き捨てるように言うや、キッと俺を睨み付けた。

今までに見たことがないほど、殺気立った瞳でだ。

ちょっと潤んでいるのが気になるが……

「もうたくさんよッ!!何で私が、アンタみたいな大馬鹿の事を……」


「お、俺?俺がどうかしたのか?」


「う、うるさいッ!!」

スッとまどかの体が沈み込むや、シュゴーッと空気を切り裂く音。

蹴りだ。

殺意てんこ盛りの、まどかの右中段蹴りだ。

こんなのをまともに食らえば全ての肋骨は粉砕され、そして内臓破裂で僕ちゃん地縛霊決定と……

何としても直撃は避けなければッ!!

……

ま、無理だがね。


「くっ…」

咄嗟に腕を折り畳んで防御態勢を取る。

ふと、何がまどかをここまで怒らせているのだろうか……と言う疑問が脳を過る。

――ズガンッ!!

凄い音がした。

あぁ、俺死んだ――って、あれ?

あれれれ?

何とも……ない?

見るとまどかが、部屋の隅まで転がっていた。

俺は全くの無傷だ。


「な、なんだ?」

ズボンのポケットが、鈍く光っている。

恐る恐る弄ってみると、

「あっ…」

ポケットの中に、あの邪神から貰ったお守りが入っていた。

まるで蛍のように、淡い光を放っている。

もしかして、これが俺を守ってくれた?

「――って、まどかは!?」

俺は慌てて、部屋の隅まで吹き飛ばされちゃった彼女の元へと駆け寄った。


「痛たたた…」

まどかは眉間に皺を寄せ、足を押さえて蹲っている。


「だ、大丈夫か?」

腰を下ろし、様子を覗うが

「……う、うるさいッ!!あっちへ行ってよッ!!」

彼女はまだ荒ぶっていた。


「おいおい…」


「洸一の顔なんか見たくないのッ!!話もしたくないのッ!!嫌なのッ!!」


ありゃまぁ…

取り付く島がありゃしない。

どうしたら、落ち着いて話を聞いてもらえるか……

えぇ~~~い、ままよッ!!

俺は蹲っているまどかの肩を掴み、そして強引に顔を近づけ、

――ンチュッ♪

触れるか触れないかのソフトなキス。


「……」

まどかは石化してしまった。

俺のチッスには、追加で石化効果が発動されるのだろうか?

うむ、新たなスキルを見つけたなり。

「え、え~と……取り合えず、落ち着けまどか」


「お、おお…落ち着けるわけないでしょーーーーッ!!」


「あ、やっぱり……」


「な、なにいきなりキスなんてしてくるのよッ!!」


「いや……だからつまりは、こーゆー感じの状況だったと言うことさ」


「な、なによそれ?」


――良しッ!!

心の中でガッツポーズ。

読み通り、まどかは話に食らいついてきた。

ま、実際は何も読んでないのじゃが……

「つまりだ、実はあの夜――」

俺は滔々と、噛み砕いて昨夜の出来事を語って聞かせた。

即ち――

事の始まりはのどかさんの命令だったこと。

酒井さんなるオカルト研究部のお目付け役にやれと押し切られたこと。

オキクルミなる神が、実はエエ加減な輩だったこと。

そして俺は、それらに関して全く抵抗出来なかったこと等々だ。


「ちゅーワケで、キス云々に関するイベントは、俺の意思を全く無視して進んだ結果と言う事でして……言わばあれは、夢の世界の出来事なんです。お分かり頂けたでしょうか?」


「……そうね」

黙って話を聞いていたまどかは少しだけ唇を尖らせ、軽く頷いた。

「姉さんが絡んでいたんなら、仕方ないわね」


「まぁ、そーゆーことかな」

ホッと一安心だ。

ご機嫌はまだ少し斜めみたいだが、どうやら怒ってはいないようだ。

うむ、誤解が解けて何よりである。


「ところで洸一」

まどかはジッと俺の顔を見つめてきた。

その瞳は、心なしか先程より潤んでいる。

眼病の類だろうか?

「なんで……私にキスしたの?」


「うぇ?い、いやぁ……まぁその……なんちゅうか……」

一言で言えば、勢いだ。

あと成り行き。


「もしかして今のも、その何たらって言う神様のせいなの?」


「それは違う。今のはあくまでも、自分の意思だ」

多分。


「ふ~ん、そっか。そうなんだ……」

まどかの表情が和らいだ。

むしろ、どこか嬉しそうだ。

「……良し。だったら今回の件は許してあげるわ」


「あ、ありがとう御座います」

俺は素直に頭を下げた。

理由は分からんが、これで何もかも元通りだ。


「ま、私は最初から、どうも怪しいなぁって思っていたのよ。アンタには真咲に手を出すほど勇気はないしね」

そう言って、独りケタケタと笑う。

何だか凄く嘘臭い。

怪しいと思っていたなら、理由ワケぐらい聞くのが普通だと思うのだが……

ま、今はそーゆーツッコミはしないでおこう。


「ところでさぁ、洸一。晩御飯……食べた?」


「へ?なんだよ、唐突に……まだ食ってはいないけどな」

それどころじゃなかったし。


「だったら一緒に食べよ♪旅行から帰って来て疲れてるんでしょ?料理長に頼んで、スタミナ満点の料理を作ってもらうわ」


「そ、それは有難い。実はこれから家に帰って作るのが面倒だなぁ~と思っていたんだよ。だから遠慮無く、ご馳走になろうかな」

ぬぅ…何かすんごく機嫌が良くなったんじゃが……

さっきまでは帰れとか何とか言ってたのに……

何でだ?

怒り狂っていたのに、何故にこうも機嫌が良いのだ?

気分屋にも、程があるってもんだぞ。


ま、そんなこんなでまどかの家で美味い晩飯をご馳走になり、帰宅。

いやはや……

長い修学旅行だった。

実に色んな事があった。

・・・

あまり思い出しくたくない思い出ばかりだ。

出来る事なら、もう一度修学旅行を最初からやり直したいが……

あ~~、考えるだけで、明日からの学園生活がちと怖いのぅ。








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