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俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
23/27

神代洸一探検隊



 「ん、ん~~……っと」

欠伸を溢しながら、半身を起して大きく背を伸ばす。

目覚めは、最悪だった。

何しろ薄暗い。

空気も澱んでいる。

それに湿気も多い。

そうなのだ……今俺達は、未知の洞窟の中にいるのだ。


「いやはや、参ったね、どうも」

あれから敵に追われ追われて、逃げ込んだのがこの洞窟だ。

しかも入り口を、敵の攻撃による落石で塞がれてしまった。

最早前に進むしか道が無い状況なのである。


何かこう、色々と意図を感じますねぇ……

俺は辺りを見渡す。

洞窟内は、当然ながら薄暗い。

真っ暗でないのは、不気味に光るキノコや苔が生えているからだ。

そんななか、モゾモゾとマントに包まっていたグライアイが起き出した。

プルーデンスはと言うと、既に起きていて、何やら朝食の準備を始めている。

いや、今が朝なのかどうかも実は分からんのだが……


「よぅ、早いな」

俺がそう声を掛けると、プルーデンスは、これ見よがしにプイッとそっぽを向いてしまった。

「ンだよぅ……まだ怒ってるのかよ」


「当たり前でしょ!!」

冥府の門の番人様は、プゥ~と大きく頬を膨らませた。

ちと可愛いではないか。

「無理矢理、私の唇を奪っておいて……初めてだったのに……」


「ふん、俺だって初めてだったわい。御町内でも苗字の前にフォンの称号を付けられる高貴な俺様の初めてを捧げてやったのだ。ふふん、感謝しろい」


「なにトンチキなことをヌカしてんのよ!!この馬鹿!!」


「にゃにおぅ!!」


「男のアンタと女の私では、同じ初めてでも天と地以上の開きがあるわよ!!」


「ささ、差別だ!!人権委員会にパネルの設置を強く要望する!!」


「……ふふ、朝から仲の良い事じゃな」

グライアイが呆れたような声を上げながら、プルーデンスの手にした鍋を覗き込み、

「いよいよ、食料が底を着いて来たようじゃな」

「残念ながらね。まぁ、予想はしていたんだけどねぇ」


うへぇぃ、いよいよ苔とか虫が主食になるのかぁ……


「それよりもグライアイ。これからどうするの?」

「どうするにも何も、進むしか手はあるまい。空気は多少澱んでおるが、流れておる。地上へと続く道はあると言うことじゃ」

「……そうね」

プルーデンスは溜息を吐きながら、お鍋の中を掻き回した。


うぅ~む……


「どうしたのじゃ、人の子よ?」

グライアイが俺の傍にやって来て腰を下ろした。


「なぁ、どう思う?」


「ん?何がじゃ?いま作ってる朝食の事かえ?一言で言えば、不味そうじゃ」


「それは分かってる。俺が聞きたいのはさぁ、この展開のことだよ」


「ふむ……」

グライアイは目を瞑り、軽く指先で瞼を押さえながら

「策に乗せられたかのぅ」


「俺もそう思う」

敵の襲撃は、なんちゅうか絶妙だった。

行く先々に、的確に現れた。

「逃げて逃げて、目の前には隠れられそうな洞窟を発見……出来過ぎだよね」

まさに誘導されたって感じだ。


「御丁寧に入り口も封鎖されたしの。ふふ、次は何が待ち構えているかのぅ」


「さぁな。考えたくもねぇーや」



相変わらず美味しくない飯を食った後、行軍を再開。

洞窟と言うかどこか鍾乳洞に近い感じの中を、黙々と道なりに進んで行く。

先を歩くはグライアイだ。

何やら周囲を明るくする魔法を使い、慎重に歩を進めている。


異世界でのダンジョン探索ってか……

うん、全然にワクワクしないね。

何しろまぁ、装備は貧弱。

アイテムも無ければ飯も無いと言う、まさに徒手空拳のサバイバル。

ゲームで例えるなら、HPもMPもアイテムも尽きかけた状態で毒の沼地にいるような状態。

これでワクワクする方がおかしいだろうに。


しかも敵に追われてるって状況だしねぇ……

や、追われてるって言うよりは、ここに追い込まれたと……

うぅ~ん、敵さんに完全に踊らされているね。

確か、魔界随一のヴァル何とかって軍師だったか?

そいつが絵を描いたんだろ?

そりゃもう、ダメですよねぇ……

グライアイは切れそうだけど、プルーデンスはちょいと猪だし、俺に至っては馬鹿高校生だ。

知力じゃ絶対に勝てない。

そもそも、ここに追い込んだ理由すら分からん。

こういう時は、冷静に敵の立場になって思考を進めれば良いのだが……うむ、分からん。

取り敢えず、出口付近で待ち構えているだろう、と言うぐらいは、何となく察しが付くが……


「ん?何だよプルーデンス?」

隣を歩く腕白系の異界の住人が、俺をチラチラと見ていたりする。

え?なんだろう?

何か俺の口元に付いてたりするのか?

苔とか。


「……ふん、何でもないわよ」


「ふにゃ?」

俺が微かに首を傾げていると、彼女は唇を尖らせながら、

「……本当に、何でキスなんかしたのよぅ」

呟くように言った。


「あ、あん?」

何でと言われても、それはこっちが聞きたい。

ま、強いて言うなら、何となくムカついたから、かな?

でも、それを正直に言ったら僕チン、顔面を叩き割られやしないかね?

「あ~~その~~なんだ、可愛かったから……かな?」


「か、可愛いから?」

プルーデンスが少し、はにかんだ表情を見せる。


ぬぅ……

小癪にも、ホンマに少し可愛いではないか。

「まぁな。もしブス……もとい、顔の造詣が著しく不自由な女の子が目の前に迫って来ていたら、間違いなくトラウマ確定で俺は女人禁制の御山に篭り悟りを開いているところだが、お前はその……中々に可愛いからな。だからキスした」


「そ、そっか。洸一はド助平だもんね。可愛い子を見ると見境が無くなるから……し、仕方ないか。私が可愛過ぎるのがイケナイもんね」


「……舐めんなよ貴様」


「へ?」


「や、何でもない」

俺はそう言って、視線を前に戻す。

しかしまぁ、歩き難いなぁ。

岩の地面が微妙に濡れているから、こうツルツルと滑って……

しかも薄暗いし、何か色々と不安で御座いますよね。

圧迫感みたいなものを感じる。

洞窟内はそれほど狭くは無い。

と言うか意外に広い。

目算で、幅は10メートル、高さは5メートルはあろうか。

しかしながら、何か迫ってくるような、そんな圧迫感を感じる。

むぅ……心が少し弱ってきたかな?

確か、何かの本で読んだ事があるが……

閉鎖された暗い空間に人間が閉じ込められた場合、精神が保てるのはおよそ10時間ぐらいだったと言う記憶が……


「プルーデンス。しりとりをしよう」


「はぁぁ?何いきなり言ってるのよ、アンタ?」


「や、もう、何か退屈で」

俺は苦笑を浮かべ、

「ずっと同じ光景じゃん。洞窟の中じゃん。何も無いじゃん。だから、しりとりでもしよう」


「え~~。じゃあ、『ア』からね。ん~~アーマー」


「マか?マ…マ……マ○コ」

言った瞬間、凄い勢いで蹴られた。


「なにいきなり口走ってんのよ!!このド馬鹿!!どーゆー教育受けてきたのよ!!」


「すす、すまん。つい学校帰りに馬鹿友達とやっているノリで……何しろ思春期だし」


「本当にアンタって男は……」

と、プルーデンスは怒った顔で言い掛けるが、不意に足を止めると、

「何してんの、グライアイ?」


「見れば分かるであろ?」

先を歩くグライアイは、困った顔で佇んでいた。

見ると道の先は三方に分かれていた。

「どうしたもんかと思うてな」


正面の道に更に左右への分岐……四叉路……や、十字路ってヤツか。


「出口までの最短は?」

プルーデンスが尋ねると、グライアイは「ん…」と軽く頷き、

「ケーヴフェアリー」

左の掌の上に、球状の光体が浮かび上がった。

見るとそれは、小さな光の玉の集まりのようだ。

まるで河川敷にいる虫柱のようである。


「んにゃ?それは一体……」


「ん?迷宮を探索する魔法じゃ」

グライアイがそう言うと同時に、その光の玉はフワフワと辺りを漂い、そして右方向へとスゥーッと飛んで行く。

「自動的に出口に向かっての最短のルートを判別してくれる。ただしじゃ、あくまでも最短距離を測るだけであって、罠や何かしらのギミックなどは感知できぬ。あまり使い勝手は良くない魔法じゃ」


「ふ~ん……なるほど」

要は出口までのルートだけが分かると。

つまり、今は右に飛んで行ったから、こっちの方に出口があるってのは分かったけど、実は左の道で何かパズルを解かないと右の出口から出られないとか、はたまた出る為の鍵が別の場所にあるとか、そーゆー事は分からんと……

うん、本当に使い勝手は悪そうだね。

下手すりゃ二度手間になりかねないし。


「取り敢えず、洞窟の出口は右の道じゃな」

「じゃあそっちへ進みましょう」

とプルーデンス。

何の迷いも無く即答だ。


「おいおいおい。良いのか、そんな簡単に選んで?他の道に何かあるかも知れないぞ?安全な迂回ルートとか……」


「良いの。と言うか、時間が無いのよ」


「時間?」


「そうよ」

プルーデンスが唇を尖らす。

と、グライアイが小さく唸りながら

「ふむ……食料的なことかえ?」

「そーよ。水も無いわ。もう悠長に他の道を探している余裕は無いのよ」


「むぅ…」


「と言うわけで、どんな危険があろうとも、最短でこの洞窟を出るわ。それしか選択肢が無いの」

プルーデンスは鼻息も荒くそう言うと、先頭に立ってズンズンと右の道へと進んで行く。

俺はグライアイと顔を見合わせ、互いに溜息を吐いたのだった。



右の道を突き進む。

今の所は、何も無い。

至って平穏だ。

「ってか、少し坂になって来たな」

道はやや下方向へと伸びている。

思ったよりも奥深い洞窟のようだ。


敵の意図が読めんなぁ……

出口付近で待ち構えているのは予想できるが、何故にこの洞窟に……

退路を断つ為?はたまた俺達を見失わないようにする為?

どうにも、分からんのぅ。


「なにボォーッとした顔してんのよ洸一?締りの無い顔が更に緩んでみっともないわよ。もっとシャンとしなさい」


「……お前はアレか?罵詈雑言ってスキルでも持っているのか?」

俺はしかめっ面で、隣を歩くプルーデンスを見やる。

刹那、

「シールドオブサークルマジック!!」

グライアイのどこか切羽詰ったかのような声が飛んで来たかと思うと、俺とプルーデンスを囲むかのように地面に大きな光の輪が描かれた。

同時に、四方八方の壁から、これまた光る矢のような物が飛んで来る。

「マジックアロー!?」

「大丈夫じゃ」

何時の間にかグライアイがすぐ傍にいた。

「咄嗟に対魔法シールドを張ったわえ」

俺達目掛けて飛んできた魔法の矢は、周囲を囲む光の輪に触れるや音も無く消滅して行く。

「ふん、御丁寧に物理防御突破の効果も上乗せしているようじゃな」

「よ、良く分かったわねぇ、グライアイ」

「微かに魔力の発動を感知したのでな」

魔神は事も無げにそう言うと、漆黒の長い髪を軽く指で掻き上げ、

「しかしこの道に罠を仕掛けてあったと言う事は……ふむ、やはり敵の思惑通りと言うことじゃな」


うぅ~ん、やっぱ嵌められたか。

だから俺は安全な迂回ルートにって言ったのにねぇ。

ま、そっちにも罠が仕掛けてあるかも知れんのだが……ってか、仕掛けてるよな、多分。

何しろ敵のヴァルナってヤツは、かなり用意周到に準備をしてから事を進めるタイプみたいだし……

「ん?」

あれ?なんか足元に振動が……


「ぬ!?拙いぞ!!」

グライアイが叫ぶと同時に、ズゴゴゴッと重い地響きと共に、後方、坂の上から通路を塞ぐほどの巨大な丸石が転がり落ちてきた。


「ぬぉッ!?映画やゲームで定番の罠じゃないですかッ!?」


「走るのじゃっ!!」


「それも定番だね!!」

俺はプルーデンスと共に駆け出した。

グライアイは走りながら、

「ウォールオブサンドロック!!」

何やらディフェンス系の魔法を唱えているが、

「く…、やはり強化されておるか」


「ま、魔法で弾き返せないのか?」


「重力魔法に防御突破の効果も付与されてるわえ。そもそも妾は、物理防御系の魔法は不得手じゃ」

グライアイはフンと鼻を鳴らし、

「この程度の罠、本来なら造作もないが……」


「なな、何とかならないのか?」

早くも息が切れてきましたぞ。

そもそも腹減ってる状態だし……


「対処方は幾らでもあるわえ。重力魔法で動けなくしても良いし、次元魔法で消去しても良い。時間系魔法と言う手もある」


「な、なら早く…」


「魔力の消費が大きいわえ。いくら妾とは言え、この地では――そうか!!そう言うことかえ……」


「にゃ?何が…」


「――また罠よ!!」

プルーデンスが叫ぶと同時に、今度は前方から無数の槍みたいなモノが飛来して来た。

「マジックシールド!!」

虹色に輝く透明の薄膜が全面に展開。

飛んで来る何かしらのトラップ魔法を弾き返して行く。

と、いきなり道は大きく開け、ドームのような空洞へと踊り出た。

咄嗟に俺達は、そのまま散開。

脇を巨大な丸石が転がり過ぎ、そして音を立てて壁に激突した。


「――いかぬぞよッ!?」


「にゃッ!?今度はなに!?」

巨石の当たる振動が壁を震わせ、そして高い天井へと伝わるや、いきなり崩落。

大小織り交ぜた岩石が、音を立てて頭上へと降り注いでくる。

「つ、次から次へとッ!!」


「範囲拡大強化!!拡散衝撃!!」

グライアイが腕を突き上げるや、落ちて来る岩を魔法で弾き飛ばして行く。

「ふむ、やはり防御魔法より攻撃魔法の方が勝手が良いわえ」


「そ、そりゃ何より」

でも、全てを完全に弾き返せて無いと言うか、途中で砕けちゃって、なんかビー玉サイズの破片が落ちて来て、ちょいと痛いんですけど……

「あ、でも……少し収まって来たかな?」


「じゃな」

グライアイは魔法を解除すると、フッと少し息を大きく漏らし、

「してやられたわえ」


「な、何がだ?」


「敵の思惑に容易く乗ってしもうたわえ」


「と言うと?」


「この罠じゃ」

グライアイは溜息を吐いた。

「単純でさしてダメージの大きくない罠ばかりじゃ。妾達を捕らえるには、物足りぬ。が、しかしじゃ、魔力を消費させるには充分じゃ」


「敵の狙いは……此方のリソースを削るって事か」


「そうじゃ」


「むぅ……敵は安全策を取って来たって事かな?」


「と言うよりは、妾の参戦じゃな」

「どーゆー事よ、グライアイ?」

「妾の参戦は、敵には予想外じゃった。故に、かようにまどろっこしい策を弄して来たのであろ。何故なら、妾は魔神じゃ。雑魚魔族では相手にならぬ。被害が大きくなるばかりじゃ」


「……つまり、グライアイの魔力を消費させる為に、わざわざここに追い込んだのか」


「そうじゃな。妾とは言え、この地では中々に魔力は回復せぬでな」


「で、グライアイが弱った所で一斉に……と言う算段か。ふ~ん、となると……」


「まぁ、予想通り、出口付近で大挙して待ち構えているであろうな」

魔神はそう言うと、もう一度溜息を吐いた。

「はてさて、如何したもんかのぅ」

「如何も何も、進むしか道は無いわよ」

と、眉間に皺を寄せながらプルーデンス。


「ぬぅ……敵が痺れを切らすまで、この洞窟の中に篭るってのは?」


「食料が無いわ。水もね」


「ですよね。ちゅー事は、やっぱ進むしかないと」

なんちゅうか、蜘蛛の糸に引っ掛かったって感じだよね。

もがけばもがくほど、こっちの魔力やら体力やら色々と持って行かれるし、しかも此方には前進の一択しか無いわけだし……うむ、こりゃマジでアカンかも。


「……グライアイ。残りの魔力は?」

「5割といった所じゃな。そなたはどうじゃ、プルーデンス」

「……3割ぐらいね」

「厳しいのぅ」

「魔力を節約して、洞窟から出る。そして敵を粉砕してグライアの領土まで進む。これしかないわ」

「じゃな。ただ、魔力を節約するのは厳しいかと思うぞえ。敵の罠がこの程度とは思えぬ」



「ン……むにゃ……んにゃ?」


「……ようやくに起きたのか、人の子よ」

グライアイが呆れた顔で俺を見ていた。

プルーデンスも、眉を軽く顰め、

「呑気な男ねぇ…」


「…疲れが溜まってるんだよ」

半身を起し、軽く首を回す。

薄暗い洞窟の中は、ジメジメとしていて少し気持ちが悪い。

服も少し湿っている。

何か梅雨時の生乾きの服を着ている感じだ。

「あ~~……何か夢を見ていたよ。ガールフレンド達と会った頃の」


「…そなた。本当に神経が太いのぅ」

「この状況で夢って……緊張感は無いの?それとも病気?」


「うっせ。つい先日まで、俺はその女の子達とキャッキャウフフの青春を謳歌してたんだぞ?そん時の夢ぐらい見るわさ」

言って俺はゴリゴリと頭を掻き、

「で、どうする?小休止も終わったし……やっぱ進むのか?」


「それしかあるまい」

「そうねぇ……ともかく、今は一刻も早く魔界領へ入らないと……」


「……十中八九、罠だと思うぞ?」


「妾もそう思うが……他に選択肢はあるまい」

「ふん、罠なら突き破れば良いのよ」


「ふ……ふ…ふふ」


「な、なによ洸一。気持ち悪い笑い方して」


「いや……前にも言ったけど、プルーデンスって俺の知ってるまどかって女に良く似てるんだよ。容姿もだけど、性格も似ているなって思ってな」


「妾と契約した女かえ?」


「そうだよグライアイ。ま、それが元で俺はこんな世界に来ているワケなんじゃが……にしても、腹減ったなぁ。腹ペコでごじゃるよ」


「……そなた、本当に図太いの」

「その辺に生えてる苔でも嘗めてれば良いじゃない」


「グルメな俺には出来ん真似ですなッ。グライアイ……城に着いたら、何か食わせてくれよ」

言って俺は大きく伸びをし、軽く首を回す。

肩口からコキコキと小気味の良い骨の音が響いた。

「トラップ地帯は、何とか抜けれたかなぁ」

あれから、まぁ散々な目に遭った。

洞窟内の彼方此方で作動する、様々な属性を持つ各種トラップ。

魔力を温存する為、最低限の防御魔法でしか対処しなかったので、かなりのダメージを受けた。

グライアイやプルーデンスは、致命的な罠じゃないわ、とか言うが、この俺を異界の猛者達と同列に語られても困る。

俺はか弱い人間様なんだぞ。

地面に偽装されたトラバサミ的な罠で足止めされた所へ毒矢が降り注ぎ、何時の間にか現れた破裂して汚物を撒き散らす動死体にボコボコにされた挙句、岩で出来たゴーレムの重い一撃を腹に喰らって吹っ飛んだ先で火炎系爆発トラップに引っ掛かると言う、そんジょそこらのコントでもお目に掛かれない悲惨な目に遭ったのだ。

って言うか、良く生きてたなぁ……我ながらビックリだ。

一応、魔力消費の低い治癒魔法を掛けて貰い、傷はある程度回復しているが、失われた体力までは戻らない。

これからいよいよクライマックス、ラスボス戦を迎えると言うのに、僕ちゃん大丈夫かいな。

既に膝とか腿が筋肉痛で、ガクガクとしていますよ。


「ふむ……空気が澄んで来たようじゃな」

グライアイがスンスンと小さく鼻を鳴らした。

「出口は近いぞえ」


「何かの間違えで敵はいない……って事はないよね?」


「無いのぅ。隠しているつもりじゃろうが、気配を感じるわえ」


「ぬぅ…」

ま、ここまで来たら、覚悟を決めますか。

待ち構えている敵を突破し、グライアイの領土まで進む。

そしてリステインを蘇らせてもらう。

洸一チン、お家へ帰還。

そして取り敢えず、のどか先輩にお仕置き。

うむ、この流れがベストだ。

ちなみに最悪な展開は……いや、考えるのは止めよう。

鬱が出そうだ。

「プルーデンス。頼むから冷静に戦ってくれよ」


「分かってるわよ」

ムッとした顔で彼女は俺を睨みつける。

「アンタの方こそ、ダメだと思ったらちゃんと逃げなさいよ」


「分かってる。分かってるが……逃がしてくれるかなぁ?」


「だったら死んだフリでもしてなさいよ」


「……そうだな。その手も有りかな」


「出口じゃ」

グライアイの言葉に顔を上げると、おおぅ……うっすらと、久し振りな陽の光が。

今は一体、何時なんじゃろうか?

時間の感覚が、全く分からない。


陽が差し込むって事は、夜ではないと……うん、良かった。

敵さんは夜目が利きそうだけど、人間の俺は、暗闇は見渡せないからねぇ。


「外へ出ると同時に戦闘開始、と想定して、いきなり全力で行くぞよ」

グライアイがそう言って、空間より剣を引き出す。

「ともかく、駆けるのじゃ。敵中を突破し、ひたすら駆け抜けるのじゃ」

「了解よ」

プルーデンスも腰に下げた剣を抜き放つ。

もちろん俺も。


「……では、行くぞよ」






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