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俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
21/27

アネクスペクティドゥ



 この地の番人であるリステインやプルーデンスが知らない場所を、敵は熟知していた。

俺達の進むポイントに、的確に罠などを仕掛けていた。

それは何故か?

「かなり前から、プルーデンス達に悟られぬように間者を送り込み、地理地形を把握していた。もしくは……この辺りに詳しい者から情報を得ていた……ってところか」


「なるほどな」

と、グライアイ。

プルーデンスもお玉で鍋の中の謎のスープを掻き混ぜながら、

「確かにね。進む先に罠があったり待ち伏せしてたり……場所を知らないと出来ない事だわ。でも、この地の地形を全て把握するなんて無理よ。この狭間の地は確かに広くはないけど、それほど狭くもないわ。それにこの地に詳しい者って……番人しかいないわよ」


「むぅ…」


「番人かえ。ふむ……歴代の番人達はどうじゃ?お主の前任者などから情報を聞き出していたのではないかぇ?」

「うぅ~ん……どうだろう?」

プルーデンスは眉間に縦皺を刻みながら大きく首を傾げる。

「正直、分かんないのよねぇ」


「そうなのか?」


「引継の時に会っただけだもん。詳しい事は知らないわよぅ……個人的な付き合いも無いし」

「番人の経験者から情報を得て、更に情報収集に長けた者を密かに送り込んでいたと……何とも気の長い話じゃな」


「つまりそれは、かなり前から計画を練っていたって事じゃね?それこそ数年がかりで」

そして俺は、いざ計画実行と言うタイミングで、ここを訪れてしまったと……

ふふ、運の無さも極まれりって所だね。

泣きそうだよ。


「でもさ、どうやってここに潜り込んで情報を集めていたのかしら?侵入者は結界で察知出来る筈なんだけど…」

「やはり特殊な転移魔法ではないかえ?それとも、そなたの知らぬ結界の不備を見つけたとか……どちらにしろ、彼奴等はそなたに察知されずに動いておる。これはちと厄介だぞえ」


「しかしまぁ、何にしろ……今は迷子になっている事に感謝だな」


「迷子になんかなってない!!場所が分からないだけよ!!」

「ふむ、それはどう言う意味じゃ、人の子よ?」


「なに……敵は用意周到で、緻密に計算して罠を仕掛けたり待ち伏せしたりしてるだろ?だけどこっちは迷子中で、行き当たりバッタリな感じじゃん?敵の計算も計画も、大きく狂うって事さ」

愚者の無軌道な行動は、知恵者に対して一番有効な手だからなぁ……

今頃敵は、予定ポイントに俺達が来ないもんだから、焦っているのかもな。

罠もスルーされてるし。


「で、でしょ?全ては私の完璧な作戦なのよ」

「プルーデンス……」

グライアイはヤレヤレな溜息を漏らした。

俺なんか、ペッと唾まで吐いてやる。


「なによぅ。結果オーライだから良いじゃないの」

そう言ってプルーデンスは簡素な木の椀に謎のスープを盛り付け、

「はい、洸一」


「お、おぅ……」

俺はそれを受け取り、暫し固まる。

うむ、あったかそうなスープだ。

以上、感想終わり。

暖かいと言うだけで、それ以上はない。

そう、決して美味そうではない。

だって黒いよ。

何、この色?

しかも謎の肉の固まりや謎の野菜もゴロゴロと入っている。

これが魔界のスタンダード料理なのか?

ンなワケはない。

だってリステインの料理は美味かったもん。


チラリと上目でグライアイの様子を窺うと……うわ、ハニワみたいな顔で固まってるよ。

魔神をも唖然とさせちゃってるよ。


「何してんのよぅ。冷める前に食べなさいよ」


食えと言いますか、これを?

や、まぁ……食材が勿体無いから食べますけどね。

「なんか、凄く黒いぞ?それに匂いも……おふぅ、どぶの匂いがするぜよ」


「気のせいよ」


「気のせい!?」

物凄い自己主張してますぞ。


「早く食べなさいよ洸一」


「わ、分かったよぅ」

荒削りの木のスプーンで、謎のスープを掬い、一啜り。

……うん、予想した味だった。

取り敢えず、不味い。

物凄く不味い。

スープは、なんちゅうかこう、嫌な生臭みがある。

そして謎の肉は羊系の肉のように獣臭が強く、野菜は苦い。

しかも少し生煮えっぽい。

うむ、不味い。

不味いですぞこれは。

ただし、ただしだ、気合と根性を籠めて頑張れば、何とか食える味だ。

ま、頑張らなければ食えない料理って言うのも些かアレだが……


「……どう、洸一?」


「ど、どう?顔見りゃ分かるだろうに…」

グルメ番組のリポーターだって、テレビって事を忘れて怒り出す味ですぞ。


「何とか食べれそうね」

言ってプルーデンスは謎の料理に口を付けた。


「お、おいおい……テメェ、まさか俺に毒見をさせたんじゃ……」


「うわっ、まっずぅぅぅ……何でこんなに不味いのよ!!」


「見た目と匂いで分かるだろうが。ってか自分で作っておいて何たる言い草か」

しかも怒ってるし……情緒不安定か?


「うっさいわねぇ」

プルーデンスは苦虫を噛み潰したかのような渋い顔でスプーンを口に運ぶ。

もちろん、噛み潰しているのは苦虫ではなく謎の肉だが。

「ところで……ねぇグライアイ。通信魔法を飛ばして、援軍を呼び寄せる事は出来ないの?」

「ん?」

同じく眉間に皺を寄せながら飯を食ってる魔神は顔を上げ、微かに首を傾げながら、

「何故じゃ?」

「だってぇ……今は良いけど、多分、確実にこの先、敵と遭遇するわ」


その意見には、俺も肯定だ。

敵は恐らく、様々な事態を想定している筈。

予定通りに俺達が動かなくても、それに対処して来る筈だ。

それにグライアイの領地へ近付けば近付くほど、警戒網などは密になってくるだろう。

プルーデンスの言ではないが、このまま進めば必ず敵と遭遇するのは間違いない。


「ふむ……」

魔神グライアイは椀の中のスープを掻き混ぜながら、

「無理じゃな」

「無理なの?」

「うむ。もちろん、通信する事ぐらいは容易いぞえ。じゃが、援軍は無理じゃ」

「何でよぅ」

「先ず第一に、この地は不入の地じゃ。大っぴらに軍を入れること出来ぬ。プロセルピナが正規軍を擁して侵入したならば、妾も番人の要請を受けて、と言う立場で軍を入れることは出来るのじゃが……敵はアリアンロッドが率いるとは言え、小集団じゃ。言い訳は幾らでも出来る状態じゃ。敵は多分、証拠も残さないであろ。それにじゃ、いくら妾とて、今はまだプロセルピナと正面切って対峙するのは……些かな」

「うぅ~ん…」

「そしてもう一つ。ここがどこか分からぬのでは、援軍の呼びようがないではないかえ」

「むぅ…」

「ともかく、我等の取る行動は一つ。このまま敵の索敵網を掻い潜り、妾の領地へ逃げ込む事じゃ」



不味かったが一応腹も膨れたので再び歩を進める俺達。

先を歩くはもちろん、プルーデンスだ。

迷っていると言うのに、なぜか自信満々に道無き道を突き進んで行く。

彼女は、取り敢えず西よ、と言っているのだが、この方角が西かどうかもちと怪しい感じだ。


「おい、プルーデンス。警戒しながら進めよ。気配を感じたら立ち止まれよ。慎重にだぞ」


「分かってるわよ!!」

ガオゥと吼えながらも、ズンズンと突き進む冥府の門の番人様。

普通、お腹が膨れると猛獣でも大人しくなると言うのにねぇ……

俺はヤレヤレな溜息を吐き、隣を歩くグライアイに視線を向ける。

薄青をしたマントを靡かせながら、魔神は僅かに首を傾げ、

「何じゃ、人の子よ?」

少し金色っぽい瞳が、ヒタと俺を見据えた。


「ん、なに……色々と尋ねたい事があってな」


「尋ねたい事?なんじゃ?」


「ん~……まぁ、良いや」


「なんじゃそれは……」


「いやぁ~……だってさ、どの道、俺は元の世界に帰るわけじゃん?だから、色々と聞きたい事もあるけど、聞いてもしょうがねぇかなぁ~と思って」

知識欲とかは満たしたいけど、使い道のない知識ですからねぇ…

「ところでさ、敵は……待ち伏せてると思う?」


「間違いなくな」


「だよね。ふむ……あの敵の刺客、アリアンロッド……だったけか?戦闘力も然る事ながら、頭も良いんだねぇ。罠とか待ち伏せとか、実に効果的に仕掛けてやがるし」


「いや、確かにあヤツ切れるが、この展開を描いているのは恐らくヴァルナであろう」


「ヴァルナ?」


「プロセルピナの軍師じゃ。魔界随一と呼ばれる知将にして上級魔族じゃぞえ」


「ほぅ……」

そんな輩がいるんですか。

しかも魔界随一って事は……どれぐらいスゲェんだろう?

諸葛亮クラスか?

あ、でも諸葛亮って、史実的には用兵家って言うよりは政治家なんだよなぁ。


「彼奴ならば此方の動きを事前に読み、罠を仕掛けるのも容易いであろ」


「対抗手段は?」


「無いわえ」

グライアイはアッサリと言い切った。

「このまま注意深く進んだとて、必ず敵とは遭遇するじゃろ。しかも最後の最後でな。意味は分かるじゃろ?」


「……まぁな」

敵の索敵網を掻い潜り、何とか進んだ所で……敵は確実に、この地とグライアイの領土との境目辺りに、重点的に刺客を配置している筈だ。絶対に逃がさない為に。

「だとしたら、俺達の行動としては……国境付近で待ち構えているであろう敵の中を一点突破……しか策は無いか」


「如何にもじゃ」


「でもさ、作戦を考えたのは、そのヴァルナって言う知将って話じゃん?凄い軍師なんだろ?と言うことは、何かこう……俺達の突飛な行動に対抗する策を既に練ってるんじゃね?しかも此方には、魔神グライアイが付き添ってる、ってのは既に敵に知られちゃってるワケだし……その対処法とかもさ」


「ふむ。今更ながら、あのアリアンロッドを逃がしたのが悔やまれるわえ。手の内を曝してしもうたからな」

グライアイは眉根を寄せ、微かに唇を突き出しながら唸る。

「魔神である妾の参戦は、敵も予想外だったと思うのじゃが、果たしてどう策を修正してくるか……」


「ま、増援部隊か、物凄く強いヤツを送り込んでくるか……そんな所じゃね?」


「じゃろうな。ふむ、拙いのぅ。いくら妾とて、この地では力が満足に発揮できぬ。敵もそれは同じじゃが、その分をアイテムなどで補っておる。本当に、拙い展開じゃ」


「だよねぇ。何か考えれば考えるほど、思考がだんだんとネガティブになって来るよなぁ……ま、ポジティブな材料が一つも無いんだから、仕方ないけど」

俺は苦笑いを溢しながら、小さく溜息を一つ。

その時だった。

不意に先頭を歩くプルーデンスが大きな声で叫ぶ。

「敵よ!!」


ゲッ!?早くも遭遇したか!!

敵の索敵部隊か!?

「――ってか、何で叫ぶの!!?こちらの位置がバレるじゃんか!?」


「うっさい!!」

プルーデンスは吼えるや、いきなり剣を抜き放ち、駆け出したのだった。









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