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俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
20/27

ロスト



翌朝――陽が昇ると同時に行軍を再開。

目指すはグライアイの領土。

プルーデンスが先頭に立ち、俺と魔神グライアイはその後を付いて行く。


にしても、腹減ったなぁ……

「あ~グライアイさん」


「ん?なんじゃ?と言うか、さん付けで呼ぶな。妾はこれでも魔神じゃぞえ。様を付けぬか」


「んじゃ、グライアイ」


「呼び捨てかえ」


「良いじゃん。フレンドリィーに行こうぜ」

グッとサムズアップで答える俺。


「物怖じしない男じゃのぅ」

半ば呆れたように、グライアイは軽く溜息を吐く。

「それで、何じゃ人の子よ?」


「いや、グライアイの城までどれぐらいかなぁ~と。時間的距離で」


「ふむ。分からぬ」


「や、分からんって……」


「この地までは転移魔法で飛んで来たのじゃ。魔力をかなり消費してしまったが、お陰でぎりぎり間に合ったであろ?」


「まぁね。しかしそっか……うぅ~ん」


「何じゃ?何か問題かえ?」

グライアイが微かに首を傾げる。

俺はゴリゴリと頭を掻き、

「いやぁ~、ちょいと食料的問題がな。水も不足しがちだし……こりゃいよいよ、謎の苔を食うしかないかなぁ」


「もう少し時間に余裕があれば、色々と用意したのじゃがな。ま、仕方あるまいて」


「転移魔法はもう使えないのか?出来れば皆を連れて転移するとか、それが無理ならグライアイだけでも転移して食料持ってまだ戻って来るとか……」


「無理じゃ」

魔神はアッサリとマイルド、低カロリーな感じで言った。

「この狭間の地では上級魔法ほど魔力を持って行かれる上に、回復も遅い。もう一度転移魔法などを使ったら、今度は妾が昏睡状態になってしまうわえ」


「ぬぅ…」

俺は唸りながら、視線を前に戻す。

相変わらず、岩肌剥き出しの殺風景な景色が続いていた。

実に退屈な景色だ。

そんな中、プルーデンスが肩を怒らせ、ズンズンと突き進んでいる。

やれやれですねぇ……

可愛いお尻が、プリプリと揺れている。

実に素晴らしき景色だ。

プルーデンスは、性格はちょっぴり破綻気味だけど、容姿的にはかなりの美人だし、仕草とかも何気に可愛い時があるし……

おおぅ、ビューティホー!!


「ちょっとぅ。なに見てんのよ?」

プルーデンスが振り返りながら、藪睨みな視線を投げ付けてきた。


「ふぇ?」


「何か、物凄く嫌な視線を感じるんですけどぅ」


「し、失礼な!?俺は純粋に、それこそ親が幼子を見守るような優しい眼差しで、尻を眺めていただけだ」


「ば、馬鹿か!!この破廉恥魔!!」

顔を真っ赤に、尻を隠す様に押さえながらプルーデンスは吼えた。


「ンだよぅ。見てただけじゃんかよぅ。この殺風景な荒涼とした大地の中で唯一の慰めとなる、言わば清涼剤的な尻じゃないか。そもそもだ、女性は見られると美しくなると言う。つまりだ、俺はお前の為に見てやってるんだ。感謝してくれ」


「なに馬鹿な理論を振り翳してんのよ!!このド馬鹿ッ!!」


「良いじゃんかよぅ。別に減るモンじゃないし……」


「アンタに見られると減るのよ!!」


「やや!?俺の視線にそんなダイエット効果が!?」


「こ、この本気の馬鹿は……」

プルーデンスはブルブルと拳を震わせると、フンッと大きく鼻を鳴らし、またズンズンと強い足取りで歩き出す。

おおぅ、怖い怖い。


「ふふ……」


「にゃ?な、なんだよグライアイ。何で笑うんだよぅ」


「なに。そなた、思ったよりも優しい男じゃと思うてな」

薄青をした瞳が、少しだけ柔らかい光を放っていた。


「おふぅ、いきなり褒められたよ。でも僕チン、優しくないですよ?基本的にSだと、思っちょります」

ただね、周りの女の子が僕よりも遥かに腕力的に強いもんだから、必然的に僕ちゃんが一方的に責められると言うか調教されてると言うかねぇ…


「ふ、照れるでない」

グライアイはそう言うと、スッと目を細め、前を歩くプルーデンスを見つめながら、

「愚か者のフリをして、かの者の気を紛らわそうとしたのであろ?」


ぬ、ぬぅ……

「そ、そんなんじゃねぇべ」

俺はもう一度、ゴリゴリと頭を掻く。

「ただ、なんちゅうか……少し気負い過ぎな様子だったからな。ちょっとだけ、気が晴れたら良いかなと思ってな」

そうなのだ。

明らかに、プルーデンスはあのアリアンロッドとか言う女に、怒り心頭状態で、少し視野が狭くなっている状態なのだ。

ま、それは分かる。

プルーデンスとリステイン……

二人は、まどかと真咲に似ている。

その関係も似ている。

しょっちゅう喧嘩ばかりしているのに、その実、物凄い仲が良い所とか……

そんな二人の内、目の前で一人が殺られたのだ。

怒りで我を忘れる状態になっても、ちっともおかしい事ではない。

が、しかしだ……今は状況がそれを許さない。

敵は用意周到かつ、冷静に事を進めてくるタイプだ。

あまつさえ、その実力は魔神グライアイも認める程だ。

そんな敵を相手に、怒り状態で挑んでは分が悪い。

だから今は少しでも気を紛らわし、ちょっとだけでも冷静さを取り戻して欲しいのだ。


まぁ、そんな御大層な事を言っても……半分は、自分の為なんだがね。

実の所、プルーデンスをからかうのは、半ば自分の気を落ち着かせる意味もある。

そう……俺自身が、既に怒り心頭状態なのだ。

本当に、目の前で真咲さんが殺られたって気分ですよ。

ここが俺の住む人間の世界だったら、それこそム所行き覚悟で相手をブチ殺すんじゃが……

ここは異世界。そして俺は弱い人間で相手は魔神クラスの猛者。

それ故に、却ってこっちは冷静になる。いや、冷静にならざるを得ないのだ。

ただ、冷静になろうとしているだけであって、復讐を諦めたわけじゃねぇ。

隙あらば、俺様のエレガントな攻撃をブチ当て、あの女にごめんなさいと言わせてやる!!

そうなのだ……

俺は人間様だ。

肉食動物にただ黙って狩られる草食動物じゃねぇ……決して諦めたりはしないのだ!!


「ってか、復讐を誓う草食動物がいたら、何かおっかねぇよなぁ……角を研いでるトムソンガゼルとか」


「ん?何か言ったかえ?」


「うんにゃ。それよりも、ぼちぼち休憩しないか?」

俺は空を見上げ、呟くように言った。

陽は既に中天に差し掛かろうとしている。

お昼の時間だ。

洸一チン、少々腹が減ってきましたぞよ。


「ふむ……そうじゃな」

グライアイは頷き、前を行くプルーデンスに声を掛ける。


いやはや、結構歩いたなぁ……

朝からずっとだもんね。

脹脛とか足首とか、ちょっぴり痛いよ。


「洸一。何してんのよ。ちょっと手伝いなさいよ!!」

プルーデンスが吼える。


「へぇへぇ…」

俺はリュックを下ろし、中から食材を取り出す。

見るとプルーデンスとグライアイが、どこかたどたどしい所作で調理を始めていた。

今までは、リステインがテキパキとやってくれていたのだが……大丈夫かいな?

この魔界の食材は未知だけど、俺が作った方がエエんでないかい?

「ところでプルーデンス」


「なによぅ」

何かスープらしき物を作っているのか、彼女はお鍋の中でお玉をグルグルと掻き回している。

どーでも良いが、それ食えるのか?

何か異様に黒いぞ。


「今さ、どの辺を歩いてるんだ?後どれぐらいでグライアイの城へ辿り着けるんだ?」


「……へ?さ、さぁ?」


「や、さぁって首を傾げられても困るんじゃが……」


「だって、今まではずっとリステインが前を歩いてたんだもん」


「うん。確かにリステインが先導してたな」


「だから、何処を歩いてるか詳しい事は分からないわよぅ」


「う、うん?いやいやいや、ちょいと待て」

俺は唖然としているグライアイを見やり、そして渋面を作りながら尋ねる。

「え~と……え?もしかしてアレか?今まで適当に歩いてたってこと?まさか……迷子中?」


「しっつれいねぇ」

プルーデンスはプゥ~と頬を膨らませ、

「迷ってなんかいないわよ。ただちょっと、今がどの辺か分からないだけ」


「そ、それを迷子って言うんじゃ…」


「うっさい!!男でしょ!!細かい事をグチグチ言わないの!!」


「え~~…」


「ふん、大丈夫よ。グライアイの領地はここから西よ。だから西へ向かって歩けば辿り着くわ」


「アバウト過ぎだろ!?しかも何故か胸張って自慢気に言ってるし……」

何かもう、残念過ぎるだろ、コイツは…


「何よぅ。私だって西がどっちかぐらいは分かるわ」


「問題の論点が違うッ!?」

俺は半泣き状態のトホホな顔で、グライアイを見やる。

強き魔神は、額を押さえて難しい顔をしていた。

「ハァァァ~……よもや迷子中とはねぇ。あれだけ自信満々に歩いていたのに」


「だから迷子じゃないの。詳しい場所が分からないだけよ」


「それを迷子でなく何だと言うんだ?」

誰かこの娘の精神構造にナビを付けて欲しいよ。

「しっかし参ったなぁ。目印になるようなモンも見当たらないし……グライアイ。この辺りの地理に関しては……」


「知らぬな。来るのも初めてじゃ。と言うか、狭間の地に入ったのも初めてだぞえ」


「なるほど。で、当然プルーデンスは……」


「何よぅ。分かってるわよ。取り敢えず西よ」


「つまり全く分からんと。で、当然ながら俺様も、この辺りの地理についてはサッパリ分からんワケだし……」

いやはや、参ったねぇ。

そう言えばリステインも、この辺りは来た事がないとか言ってたし……

つまり俺達は、この地の番人すら知らぬ未開の地に迷い込んじゃってると言うワケか……トホホホホホ。

「……ん?んん?」


「何じゃ人の子よ?どうしたのかえ?」

「なによぅ洸一?お腹減ったの?もう少しで出来るから待ってなさい」


「や、待てよ。ちょいと待てよ。どうも……おかしいな」


「何がじゃ?」

「なに?私の料理にケチ付ける気なの?」


「あ~……うん、少し黙っててくれ、プルーデンス」

言って俺は口元に手を当て、一つの疑念を口にする。

「この辺りの地理は全く分からん。俺やグライアイは初見だから当然として、番人であるプルーデンスも知らない。そしてリステインも知らなかった」


「ふむ……」

「それがどうしたのよ?」


「だったら何で、敵は待ち伏せや先回りが出来たんだ?」







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